遺伝子組換えとゼロリスク

この前、農業関係のセミナーがあり、農業事業者の講演者に「遺伝子組換えの作物はどう思いますか」という質問がありました。「安全性が完全に証明されていないので自分は作ることはない」という答えをされていたのですが、ちょっと気になったのでブログのネタにしてみます。
安全性が完全に証明されていないのは事実ですが、安全性を完全に証明することはどんなものでも不可能です。例えば、海に恐竜が住んでいないことや、宇宙人が存在しないことを証明するようなものです。宇宙人は1人でも発見できればいることが証明できますが、いないことの証明はできません。同様に、危険性の証明はできますが、安全であることを証明するのは不可能です。
そもそも、我々が普段食べている食べ物が危険でないという証明がされているわけではありません。今まで継続して食べてきたのでおそらく問題無いだろうということが言えるだけで、安全であることが証明されているわけではありません。ゼロリスクを言ったらあらゆるものを食べることができなくなってしまいます。
そもそも、遺伝子組換えトウモロコシは日本に年間1000万トン以上輸入されており、その約半分は加工食品の原料として利用されています。本当に影響があったらなにかもう発覚していると思いますし、これだけの量が輸入されているので日本人は確実に遺伝子組換え作物を食べずに生活するのはほぼ不可能でしょう。
遺伝子組換えというとすごく恐ろしい響きがありますが、農学部的な見地で言うとたいした技術でもなく組み替えると言っても未知の生物を作っているわけではなく、タンパク質を生成したりする程度なので「おそらく安全である」とは思います。遺伝子組換えなんて大学の研究室で学生が簡単にできる程度のものですし、遺伝子なんてどんどん変異するものですから突然変異でもっと危険なものができている可能性だって十分あるわけです。
遺伝子組換え作物は生産コストを下げることができます。世界で多くの人たちが飢えており、その多くの人がお金がないから食べ物を買うことができないのが原因である以上、食料生産コストの引き下げは不可避だと思います。遺伝子組換え作物は実は高コストだという主張を時々見かけますが、本当にコスト高なら収支にシビアなアメリカの農民が高く売れるNON-Gを作らず遺伝子組換作物を作るはずがありません。
 
ただ、遺伝子組換作物が人体に影響が無いとしても、アメリカから穀物を大量に輸入している現状には憂慮すべきものがあると思っています。自由貿易論者は自国で食料を生産しなくても海外から輸入すればいいという主張をしばしば行いますが、人口増というファンダメンタルの元では食料価格の上昇は避けて通ることができません。国際価格の乱高下は少なからず国内の経済、市民生活に影響を与えることとなります。リスクヘッジのためにもアメリカの穀物に依存する現状は変えていく必要があると思います。
ので、私は「NON-GMOのアメリカ産トウモロコシ」というものに疑問を持っています。そもそも、飼料などでアメリカ産トウモロコシを利用している一番の理由は価格が圧倒的に安いからです。遺伝子非組み換えのものは価格が高く、使用するメリットが薄れてしまいます。また、国際相場に依存しているという立場から見ても利点はありません。
たとえば、飼料分野から見たら遺伝子組換えを使用しないことより、輸入飼料を使用しないこと、自給飼料を利用していることのほうが食糧自給率や環境保全の面から見てずっと重要だと思います。遺伝子組換え作物を使用しなければいいと言う行動には疑問を感じますし、またNON-GMOだからといってそのコストに見合った対価を支払う消費者が少ないことにも事実です。結局、「遺伝子組換え作物使用」っていうおどろおどろしい言葉がパッケージに書かれているのが嫌なだけなんじゃないかと邪推してしまいますね。

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