脂肪酸組成と食味

以前からちょくちょく話題にしていますが、今年の春から愛知中小企業家同友会の経営指針講座に通っています。月一回丸1日かけて経営指針について勉強をしています。

経営指針講座で一番最初に行い、そして一番重要なものは経営理念の確立です。というわけで、いろいろと考えた結果、当社の経営理念を新たに創り直しました。

新しい経営理念は
「私たちは、有機資源循環により新たな価値を生みだし、持続可能な社会実現に貢献します。」
というものです。当社のめざすこと、やりたいことがすこし具現化できたのではないかと思っております。

実は個人的には会社の経営理念とは別にすこしやりたいことがあります。それは「美味しい食べ物を生産する手助けをしていく」というものです。当社の生産している肥料、飼料は食料生産に直結しており、生産物の品質に大きな影響を与えるものです。当社がよい製品を作ることで美味しい農産物が生産されること、そしてそれを私が食べること(笑)をめざしています。

とは言っても、「美味しさ」の定義は人それぞれです。主観的な美味しさを軽視するわけではありませんが、肥料、飼料製造の品質向上のためには客観的なデータによるPDCAサイクルを確立していくことが重要だと思っています。

最近、当社では黒毛和牛向けの飼料販売を行っています。牛の場合、肉の評価は格付け(日本食肉格付協会)により決まります。格付けは歩留りと脂肪交雑、肉色、脂肪の色などで決まり、一般的には脂肪交雑が多いほど格付けが高くなる傾向があります。

脂肪交雑が多いと肉質が柔らかくなり、食感がよくなる傾向があります。しかし、そこに含まれている脂肪の質までは格付けでは評価されません。

脂肪は脂肪酸グリセリドというものから構成されており、昨今はその脂肪酸の組成をしらべることで、美味しさを客観的に評価しようという試みが増えてきています。オレイン酸が多い牛肉をオレイン牛として売り出す試みも行われています。

ただ、脂肪酸組成でオレイン酸が多いから美味しい・・・ということが確立されているかというと実ははっきりとしたことが言えないのが現状です。

ただし、オレイン酸が増えると融点が下がることは確かです。牛脂の脂肪酸はパルミチン酸などの飽和脂肪酸が多いため、豚よりも融点が高い傾向にあります。オレイン酸などの不飽和脂肪酸が多く含まれると融点が下がります。私は脂肪酸組成以上に融点が食味に大きく影響するのではないかと考えています。

融点が36℃を上回ると、脂が口の中や胃の中で固まります。これが舌触りの悪さ、胸焼けの原因ではないかと推測しています。オレイン酸が増えることで、結果として融点が下がり食味がよくなるのではないかと考えています。

 

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今回、当社の共同研究先である京都大学の熊谷先生の協力の下、当社のお客様の木下牧場で飼料を変えて育てられた牛がどのような脂肪酸組成、融点になっているか調査をおこなうこととなりました。

先に述べたように、食味と脂肪酸組成の関連ははっきりしない部分があるため今回の結果を元にすぐに品質向上への方策が確立するわけではありませんが、このような知見を増やしていくことは将来に向けて重要な一歩であると考えています。ただ、残念ながら食味試験には参加は難しそうなのが美味しさを実感しながら実験できないという意味で心残りな点でありますヽ(^0^)ノ

ビール粕のリサイクル

多忙な日々が続いていましたが、最近ようやく山を越えたような気がします。気のせいかもしれませんがヽ(^0^)ノスケジュールを振り返って見ると昨年の9月からほぼ空き無しでした。時間の使い方を考えた方がいいかもしれません。

と、忙しかった理由の1つに、新しい取り組みを行っていたことがあります。ビール粕の飼料化というプロジェクトです。

ビールは麦芽とホップを原料として製造されます。麦芽は文字通り麦の芽です。麦芽にはアミラーゼという糖化酵素がたくさん含まれています。麦芽をお湯に浸漬すると糖化酵素が働きデンプンが糖に変化します。浸漬したお湯はちょうど甘酒のような甘みのある液体になり、これに酵母を添加し発酵させたものがビールとなります。

一方、麦芽は水を切って不要物として廃棄されます。水を切った麦芽は水分が80%ぐらい含まれており、栄養価も高いためとても腐りやすいものです。
今回のプロジェクトでは、この麦芽を脱水することにより保存性を高め飼料として利用できる形態とするものです。

大手のビール工場ではすでにほとんど飼料となっていますが、小規模の事業所ではまだまだ飼料として利用されていないケースが多くあります。今回のプロジェクトではそういった小規模事業所のリサイクルに取り組んでいます。

 

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脱水を行なうことで、水分は70%以下になります。適度な水分量となり、また上記のように糖化酵素が働くことで糖が多く残存します。このため、乳酸菌が働きやすい環境となり、pHが低下します。pHが4.0程度となると腐敗の原因となる菌の働きが抑制され、保存が利く飼料となる訳です。

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従来利用されていなかった資源をこう言った形で利用できることは非常にやりがいのある仕事です。また、食品メーカー、畜産農家双方に喜んでもらえることは仕事の意義を感じます。
また、あわせてクラフトビールのマイスターのお話しを聞くことができるは非常に興味深いです。仕事をしながら面白い話が聞けるのは役得です。発酵マニアとしては興味が尽きないですf^^;)