飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。

豚を飼う理由

忙しさにかまけてブログ更新できずはや数ヶ月経ってしまいました。今年も残りあとわずかとなりました。今年はお陰様で本業の食品リサイクルの仕事は増えておりまずまず順調でした。養豚事業も豚を飼ってはや4年、なんとかそれなりに安定した成績をだすことができ、出荷も順調、肉質も安定してきました。

改めてなぜ当社が豚を飼うようになったか、あらためて触れてみたいと思います。

当社はもともと食品廃棄物から肥料をつくることを目的として創業しました。しかし、創業後なかなか事業が軌道に乗らず、廃業の一歩手前まで行きました。その時、たまたま縁あってお伺いした養豚農家から「おまえ、肥料なんか作らずエサつくって俺に売れ」って言われたのが飼料製造することになったきっかけです。

その後、また縁あって地元の農協が中心となって行われたエコフィードの実証試験事業に参画することになりました。愛知県の試験場で試験を行ったのですが、エサを変えるとおどろくほど豚の状態や肉質が変わることに感心して、「養豚っておもしろい」と思ったのが豚を飼ってみたいと思うようになったきっかけです。それから10年ほど経過して実際に豚を飼うようになるとは当時は全く思っていませんでしたが。

もう一つ、豚を飼おうと思ったのはエサを扱かうようになって養豚農家に説明をするようになった時、いろいろ解説したところ「高橋くん、説明はわかったけど豚飼ったことないじゃん」と言われたこともきっかけです。そうか、豚を飼わないとわからないことが多いから豚飼ってみようと安直に思った次第です。もともと動物は好きな方ですが、大学も農学部農学科で植物や微生物相手の仕事をしてきて豚を飼うノウハウもろくにもたずよくいきなり養豚を始めたものだと我ながら思います。

飼料として利用されるパン

そういったきっかけはあるものの、現在、以下のような目的を持って豚を飼っています

・食品残さで美味しい豚が育つことの証明

 食品残さを使った養豚は以前より行われていますが、食品残さの種類によっては肉質が悪くなったり、大きくならなかったりします。食品廃棄物がこれだけたくさん発生しているのにもかかわらず、食品残さを使っている養豚場は一部にとどまっている大きな理由の一つに肉質の問題があります。
しかし、適切な原料を選択し、きちんと計算して給与すれば配合飼料と遜色ない肉質とすることもできます。また、配合飼料では価格やハンドリングで使用が難しい原料もあり、その中には肉質によいものもたくさんあります。例えば茹でうどんはとても良好な原料ですが、配合飼料には使用することが難しいです。こういった原料を使用することで、特徴のある高い品質の豚肉生産が可能となります。当社も紆余曲折がありましたが現在は肉の品質を高いレベルで維持できています。

・ちゃんと大きくなることの証明

食品残さが使われなくなったもう一つの理由として、農場成績の低下(成長の低下)があります。今の豚は成長が早く、半年で出荷されます。半年で出荷するためには栄養バランスをきちんと整えて給与することが必要となります。逆に言えば、きちんと設計さえすれば決して成長が悪くなることはなく、むしろ嗜好性や消化率が良いことから成長が良くなるケースも多々あります。

・飼料製造や給与方法のノウハウ蓄積

食品残さが使われない理由には、ハンドリングの問題もあります。スイッチひとつで給与できる配合飼料とは異なり、飼料の給与するためにはさまざまな工夫、装置が必要となります。原料の種類に応じて適切な設備を導入して給与するためのノウハウを蓄積することも自社で養豚を行う目的の一つです。これまでの経験を元に、最近はいろいろな養豚農家で飼料利用のお手伝いをできるようになってきました。

自社で養豚を行うことで、「エコフィードの良さを証明する」ことは少しずつできてきたように思います。これからのステップとして、このエコフィードの良さを全国に広めていきたい、さらには世界に普及させていきたいという大きな野望があります。今は自社の養豚での実績を元に、さまざまな農家のエコフィード利用のアドバイスをすることができるようになってきました。これをもっと広げていきたいと思っています。

当社養豚場「リンネファーム」

これまで、日本の畜産は輸入飼料に依存して発達してきました。これまでの社会の時流にのったものだったかと思いますが、世界的な人口増加を背景とした資源の逼迫により従来のモデルの継続が難しくなってきています。資源が不足する時代において、リサイクルは避けられない選択肢になるでしょう。
当社が行っている養豚は非常に小さな規模ではありますが、このような時代において、畜産業界の新しい方向性を示す道標になり、日本の畜産の存在意義の向上に貢献したい、そんな大きな夢があります。国内で資源循環することで海外の影響をうけず、そして日本にしかない美味しい畜産物ができる、そんなことが目標です。当社の小さな取り組みがどんどん広がり、大きな社会変革に繋がったら‥そんなことを考えながらエコフィードからエサを作り、豚にやっています。

リキッドフィードの欠点

更新が滞っているうちに、すっかり春が過ぎ初夏になってしまいました。

例年、6月~8月ぐらいは豚肉の市場価格が高くなります。価格が上がるのには養豚生産の季節サイクルが影響しています。
豚は生後半年で出荷され、妊娠期間は4ヶ月弱です。逆算するといま出荷されている豚は1月生まれ、前年の9月頃種付けとなります。夏場は暑さのため母豚のコンディションが悪化し、繁殖成績が悪化します。逆に1月は寒いため、生まれた仔豚が調子を崩しやすくなります。そして、出荷時期は暑いためエサの食下量が低下し、大きくなりにくくなります。それに加え、夏に向けて豚肉需要は旺盛であるため、市場価格が上がります。

今年は特に全国的に6月下旬が猛暑であったため豚のコンディションが悪化しており記録的に出荷が減っています。そのため、豚肉の価格が例年以上に上がっています。

そんな中、当社の関連会社「リンネファーム」の豚「雪乃醸」は順調な出荷を維持できています。出荷頭数が多く相場がいいため、市場からの清算金額を見ると少し驚くほどです。

出荷が順調なのは飼料の嗜好性が安定していることが理由の一つです。雪乃醸はリキッドフィードと呼ばれる液状(おかゆ状)の飼料を給与しています。液状であるため、夏場などでも比較的食下量が落ちにくい傾向にあります。人間も暑いときは水っぽいものが食べたくなるように、豚も暑いときには粉のエサより液体のエサのほうを好みます。

夏場でも嗜好性が安定していることはリキッドフィードのメリットですが、最大のメリットは、様々な食品残さを使用することが容易であるということです。食品残さは高水分のものが多く、乾燥処理にはコストがかかります。液状のまま給与できるのは大きなメリットです。

一方、リキッドフィードにもデメリットはあります。夏場の嗜好性が改善することもある一方、液状であるが故に異常発酵しやすい欠点があります。特に、原料に糖が多い場合や、原料にパン生地や酒粕などの酵母を含むものを使用すると酵母発酵が進み、あふれる事故が起きたり、嗜好性が低下する傾向があります。特に、春と秋は気温が酵母の発酵に適した温度となることもあり、発酵が起きやすい傾向にあります。
この欠点を防ぐためには加熱殺菌が有効です。当社ではリキッドフィードを65℃30分間加熱殺菌しています。現在、肉を含む食品残さを飼料に用いる場合、感染症予防のために90℃1時間の加熱が義務付けられています。しかし、当社では肉を含む原料を用いていないため加熱殺菌は本来不要です。しかし、嗜好性の安定のために加熱殺菌を行っています。もちろん、殺菌温度が高いほうが殺菌は確実に行われますが、加熱に必要なエネルギー使用量が増えたり、粘性が上がる欠点があります。バランスを取って65度で加熱殺菌を行っています。
リキッドフィードには他にもいくつか欠点があります。大きな欠点として、尿量が増えることがあります。尿量が増えると排水処理の管理が大変になったり、堆肥の発酵がうまくいかなくなります。尿量が増えるのは飼料の水分含量が多い分水分摂取量が増えることもありますが、一般的に人間の食べ物は塩分(ナトリウム)が多いことが多く、また野菜などに由来するカリウム含量も多いため尿量が増えます。
また、リキッドフィードは酸性であるため、コンクリートや鉄が腐食することも大きな欠点です。コンクリートは酸性に弱く、コンクリートでできたスノコは防食塗装など行っていないと数年でぼろぼろになります。

ときどき、リキッドフィードは水分をたくさん取るので肉が水っぽくなるという人がいますが、これが技術的には誤っています。リキッドフィードの場合食品残さを使用することが多いですが、大豆油などの油脂を多く含む原料を使用すると豚肉の脂の質が変わり、脂の融点が下がることで「水っぽい」豚肉となってしまいます。逆に言うと、適切な原料を選択すればリキッドフィードも配合飼料も肉質に差は出ません。

このようにメリットとデメリットがありますが、繰り返しになりますがリキッドフィードの最大のメリットは多様な食品残さを使用することが容易である点です。現在、輸入穀物で作られている配合飼料の価格が非常に高騰しています。こんな中、リキッドフィードにより食品残さをうまく利用し飼料価格を抑制することは経営的に大きなメリットがあることは言うまでもありません。また、限りある資源を有効に活用することで、存在意義を確立し地域との共生を図ることができます。今後、社会要請に応える畜産や農業がより一層求められる時代になっていくことと思います。リキッドフィードはそういう時代に合った手法の一つであるかと思います。

パイナップル残さの脱水システム

遅ればせながらあけましておめでとうございます。
昨年は新型コロナウイルスに振り回された1年でした。コロナ禍の影響により展示会は軒並み中止になり、出張もままならず業務に様々な影響がありました。
しかし、当社は比較的影響を受けにくい業種であったこと、また以前よりネットを利用した営業を行ってきたことなどが功を奏してなんとか1年間を終え売上げを増やして12月末の決算を終えることができました。これも取引先、スタッフほか関係する皆様のおかげです。ありがとうございます。

パイナップル脱水システム

新しく始まった仕事の一つに、カットフルーツ工場のパイナップル残さリサイクルがあります。パイナップル残さは従来より飼料としての利用がすすんでいました。しかし、排出されるパイナップル残さはそのままの状態では取扱がしにくく、保存性が悪い欠点がありました。
今回の取り組みは、パイナップルを脱水し脱水パイナップルを袋詰めしてサイレージとして保存し牛用の飼料として供給します。脱水したときに発生する脱離液はタンクに保管してタンクローリーで運搬し、豚用の飼料として利用しています。パイナップルを脱水して脱水パイナップルと液体を両方利用するのはおそらく日本で初めての試みではないかと思います。

脱水した液体なんてエサになるのかというご質問をいただくことがよくあります。パイナップルの脱離液はほとんどパイナップルジュースで、だいたい8%ぐらいの糖液です。豚のリキッドフィードは20%強の濃度で製造することが多いです。仮にリキッドフィード製造時に使用する液体をすべてパイナップル脱離液とした場合、約1/3をパイナップルの糖分で供給することができます。保存性もよく、消化性、嗜好性もよいのでリキッドフィードの原料としては非常に有用な原料です。
計算上はパイナップル汁と酒粕(と少々のアミノ酸)だけで豚の飼料をつくることができます。

現在も多種多様なお引き合いをいただいております。今後も新しい挑戦を続けていきたいと考えています。皆様今後ともご協力のほどよろしくお願いします。

養豚における6次産業

今年はいつまでも暑い日々が続きます。暑いと人間同様豚も夏バテして食欲が落ち、結果成長が遅くなります。全国的には出荷頭数が落ちています。おかげで豚枝肉の相場は高値安定です。
一方、当社の豚は最近絶好調でもりもりとエサを食べており、非常に順調に大きくなっています。養豚開始して2年半経ち、ようやく生産も安定してきたように思います。病気の予防や飼料の配合設計のノウハウが蓄積してきたことが大きいです。

昨年夏から力を入れている豚肉販売も少しずつ広がりを見せてきました。コロナ禍により展示会が軒並み中止になり、飲食業界が苦境に立たされている状況であり向かい風が強いですが、それでも様々なご縁でレストランやスーパーなどの取引が増えてきました。
販売は精肉だけではなく、ハムやソーセージなどの加工品も委託製造し、ネット通販などで販売を行っています。

当社はさまざまな6次産業的な取り組みを行っていますが、以前にも書きましたように肉牛や豚などは生産した家畜を直接販売することができませんので、生産者自らが販売する差別化が難しいという特徴があります。
加工品にしても、委託生産先にお任せすると委託生産先の商品との区別ができないものになってしまいます。
このような背景もとに差別化を図るために「特徴のある豚肉の生産」と「特長を生かした加工品の生産」を当社ではめざしています。
当社の銘柄豚「雪乃醸」は飼料にはトウモロコシ、大豆を使用していません。また、飼料中の粗脂肪を低くし、特にリノール酸を含むものを極力減らしています。さらに、タンパク質源としてビール酵母を使用しています。その結果、非常に軽い脂の質になっています。この頃はブラインドで食べてもすぐ雪乃醸がわかるようになりました。
この脂の質を最大限活かして加工品のレシピ開発を行っています。素材の旨みを生かすために、グルタミン酸ナトリウム(旨み調味料、化学調味料)を使用せず、ハーブで脂のフレーバーを引き出すようにしています。

当社加工品で非常に人気なのがシュウマイです。シュウマイは背脂を多く配合しています。あっさりした脂の質なので背脂が多くてもくどくならず、ジューシーな仕上がりになっています。脂の特徴が生きた商品です。「他のシュウマイを食べると胸焼けするけど、雪乃醸シュウマイはあっさりとしてたくさん食べられた」とネット通販のレビューにありとても嬉しく思いました。

シュウマイ

加工品の試作もいろいろ行いましたが、雪乃醸の特徴が出ない商品は商品化していません。
差別化が難しい豚肉は6次産業化として生産者が販売する場合、「生産者の顔が見えること」「ストーリー性」に頼っているケースが多いように感じます。それ自体は否定しませんが、当たり前ですが豚肉自体の特徴が無いと厳しい消費者の選別眼のもと、すぐに飽きられてしまう可能性があります。

私は6次産業化に限らず、企業活動において重要なのは「存在意義」だと思います。日本で養豚を行う存在意義を少しでも高めるために、エコフィードを使い特徴のある美味しい豚肉を生産していきたいと思っています。

麺

エコフィードの集め方

コロナ禍によりいろいろビジネスに支障がある昨今です。当社のお客様でも影響が出ている業種があります。特に、日本酒、ビールなどのお酒関係は甚大な影響があります。今日日、家では酒を飲まなくなってきているのだと実感します。家では酎ハイや発泡酒が中心で、ビールは飲まない人が多いと言うことです。
当社はビール粕や酒粕などの副産物を取り扱っていますので、発生量が減少傾向にあります。

酒粕

そんな中、製麺工場などコロナの影響が少ない業種からの新規のお仕事のご依頼が非常に多く、おかげさまで当社は仕事はむしろ増加傾向にあります。ご依頼をいただく理由の一つとして、今までそういった食品残さの引き取りを行っていた養豚農家が廃業してしまったというものがあります。

愛知県など都市近郊の養豚農家では古くからいわゆる残飯養豚というスタイルで豚を飼っている農家が存在します。飲食店などから残飯を回収してそれを加工し、豚に給与するというものです。しかし、このようなやり方をしている農家は今は非常に少なくなっています。
残飯などはたいてい無償で提供してもらえますので、養豚で一番コストがかかる飼料費を抑えることができます。しかし、当然ながら回収するのにも手間がかかります。残さを回収してまわることで人件費が発生しているので、見かけほどコストが下がるわけではありません。また、残飯養豚をやっているような農家は小規模なことが多く、回収するために時間を費やすとおのずと豚の面倒を見る時間が短くなり、管理がおそろかになりがちです。
そして、残飯を給与することで、肉質などにも影響がでてしまうことがあります。残飯は一般的に粗脂肪含量が非常に高く、油がそのまま豚肉の脂肪に移行してしまうためにおいなどの原因になりがちです。
このようなことから残飯を給与することが経営的なメリットが相対的に少なくなって廃れてきています。

牛、豚など畜種問わず畜産農家が食品残さを回収するのには

・ある程度のロットで回収することができる

・品質が安定している

・回収担当のスタッフがいる

ことが必要条件では無いかと思います。たとえば、大手パン工場から発生するパンの耳、製麺工場から発生する余剰麺、豆腐工場から発生するおからなどを農家が回収して利用している場合、コストの低減と品質の両立がうまくいっていることが多いです。

当たり前ですが畜産経営においては原価計算をきちんと行い、収支をみて利用の可否を判断することが重要です。他方、食品残さ回収などの作業を当社のような業者にうまくアウトソーシングすることで、コストの低減と生産性の向上をうまく実現し、経営に大きく寄与している例も多くあります。(宣伝ですw)
いずれにせよ、畜産経営においては原価の把握が重要であることは言うまでもありません。原価をもとにそれぞれの経営方針に応じた飼料を使用することが大切です。

家畜防疫にとって必要なもの

先般、飼養衛生管理基準の改定が話題になっていました。
放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」(日本農業新聞)
https://www.agrinews.co.jp/p51016.html

飼養衛生管理基準とは、「家畜伝染病予防法に基づき,家畜の飼養者が家畜伝染病の発生を予防するために,遵守すべき事項について定めたもの」です。
こちらに放牧を禁止する(場合がある)という内容が入っていたため、放牧を行っている畜産関係者等からの反発があり、結果として放牧に関する条項は大幅に割愛されることになりました。
放牧ばかり耳目を集めていたようですがこの飼養衛生管理基準はさまざまな点で規制が強化されており、たとえば農場内で愛玩動物、つまり犬や猫を飼うことが禁止されています。畜産農家に訪問したことがある方はご存じと思いますが、農場で犬や猫を飼っているケースは非常に多いです。しかし、今後は農場内で犬や猫の飼育もできなくなってしまいます。

今回の規制強化は近年の豚熱の流行、そして中国他でのASFや口蹄疫の流行が背景にあります。伝染病の予防や蔓延を防止するために規制を強化することになったわけです。
私は仕事柄様々な畜産農家に訪問する機会がありますが、正直言って防疫対策が不十分な農家も多くあります。規制の強化はやむをえない面もあります。
ただし、当然ながら規制の強化は費用や労力の負担にもなります。ゼロリスクを求めてやみくもに対策するのは非科学的な手法であり、費用便益を考え優先順位を決めてすべきです。犬や猫がいることで本当に伝染病のリスクが高まるのでしょうか。例えば、猫がウイルスを伝播したという事例があれば猫の飼育を禁止するのも当然かと思いますが、そのような事例が報告されているわけではありません。
豚熱の発生の状況を見るに、野生動物に一旦伝染病が広がると(=つまりウイルスが大量にばらまかれると)、感染拡大をおさえるのは非常に困難であり、相当な防疫体制を敷いている農場であっても感染を防ぐことは非常に厳しいということは間違いありません。
であれば、まず第一に行うべきは野生動物への感染をいかに防ぐかであり、いかに国内に伝染病を侵入させないかが第一の対策であるべきです。たとえば、禁忌品、たとえば肉類の持ち込みに関する罰則のレベルは諸外国に比べ低いと言われています。水際対策の強化に対し及び腰にもかかわらず、国内の規制強化に取り組むのは本末転倒です。

今回の改定では

・根拠が明確でないこと、科学的根拠がはっきりしないこと

・改定の決定プロセスが不明確であること

・規制の内容がはっきりしないこと

に関して疑問の声が上がっていたように感じます。

放牧禁止しかり、愛玩動物禁止しかり、なにか明確な根拠があれば意見が噴出することも無かったかと思います。また、これらの改定に関し、農水省から出され原案を専門家委員会で検討をおこなっているのですが、議論の過程はオープンにはなっていません。今回の改定に関する専門家委員会の議事はこちらに公開されていますが、そこには「本年3月に改正された豚等の飼養衛生管理基準の他畜種への反映方針について確認がなされ、大臣指定地域の考え方等について意見があった。」との記載があるのみです。果たして議論が尽くされたのか、これでは全く不明確です。

今回の飼養衛生管理基準の改定の前に、食品残さの加熱基準が強化される改定が行われています。これは、肉を含む食品残さはいままでは70℃30分の加熱だったものの、90℃1時間の加熱が必要になりました。この根拠として、OIE(国際獣疫事務局)の基準が挙げられています。しかしながら、OIEが90℃とした理由は明確に示されていません。70℃30分でウイルスが不活化せず、90℃なら不活化するという実験データが示されるのならいざしらず、とにかくOIEがこう言っているから・・という理由で加熱基準が引き上げられました。この際、専門家委員会では相当議論が紛糾したにもかかわらず、議事要旨には「意見があった」との一文が記載されているのみです。

ゼロリスクを究極的に求めると家畜がいない方が良いことになってしまいます。リスクを回避しながらどうやったら畜産経営を継続していくか、生産現場だけに責任と負担を押しつけるのではなく、俯瞰的な視野の元で実効性のある対策を打ち出して欲しいと願います。

コロナ禍と豚肉のネット通販

新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの事業者が大変な影響を受けています。当社はまだそれほど影響は大きくないですが、周りでも先が見えない状況の中で苦しんでいる人がたくさんいます。特に、飲食店関連の事業者はほんとうに大変です。各種景況調査などを見ると、去年の夏ぐらいから米中貿易戦争などの影響により相当景気が悪化しています。消費税増税前の駆け込み需要でそれがごまかされていたのが、駆け込み反動により去年の冬より景気悪化が顕著になり、コロナ影響によりさらに悪化しています。

豊橋商工会議所景況調査https://www.toyohashi-cci.or.jp/koho/pdf/keikyo01-3.pdf

自分と会社は
・今まで月の1/3は出張しており、飲み会も多かったがほぼ毎日家で夕飯を食べるようになった。会社にいる時間が長くなった。
・展示会などのイベントもことごとく中止。来年以降の受注が心配。
・取引先食品工場も業種によっては生産量が大きく低下している。土産物向け菓子、クラフトビール、外食向け製麺工場など。
・生産量が増えている食品工場もあり。スーパー向け菓子、スーパー向け製麺工場など。
・豚価が爆上げしている。スーパーでの国産需要増加、アメリカの豚肉輸出の混乱などの影響。
といった影響があります。生活は一変しています。

ただ、おかげさまでこの状況下でも新規の取引案件のお話しを多くいただいており、それらの準備などでかなり忙しい日々を過ごしています。

今回の社会情勢の変化に伴って一番驚いたのはネット通販の伸びです。昨年よりポケットマルシェというサイトで細々と豚肉のネット通販にとりくんでいましたが、いきなり売上げ激増して対応に追われています。
ポケットマルシェはSNS的な要素を持つ農家の産直サイトで、消費者と農家がコミニュケーションできるのが特徴です。私の販売ページにもたくさんのコメントが寄せられていて、生産者として励みになります。
昨今は生産者と消費者の関係性が希薄になっています。こういったサイトやSNSを通じて、もっと農業生産が身近なものになって欲しいと思います。

その一方で、消費者との関係性に依存した販売でよいのだろうかと言う思いもあります。豚肉、特に国産豚肉は品質向上がめざましいため、極端な味の差がない傾向にあります。とりわけ銘柄豚で販売されている豚に関してはどれもある一定のレベル以上の水準にはあるため差別化が難しいです。どうしても生産者の顔が見えることに注力した販売となります。それは悪いことでは無いと思いますが、私はやはり食べ物である以上おいしさで差別化していきたいと思っています。そう言う思いのもとで生産している当社の豚「雪乃醸」は飼料原料から一般的な豚の飼料に使われるトウモロコシを一切使用しないことで、かなり特徴がある肉質になっていると思います。とにかくあっさりとしていることで、特に女性の受けが非常に良いようです。

バラ肉

もちろん、差があると言っても和牛とオージービーフほどの差があるわけではなく、おいしさに気づいてくれる人は少数派ではないかと思います。その一部かもしれないですが本当に食べ物にこだわっている人に訴求する豚肉を極めていきたいと考えています。
今後も生産を改善し豚肉品質を向上させるとともに、ネット通販を通じそういった方にどこまでアプローチができるか試行錯誤していきたいと思っています。

豚を飼ってみて思うこと

今年も暑い夏でしたが、急に秋めいてきました。

当社で豚を飼い始めて1年半が過ぎ、2回目の夏を超すことができました。まだまだ未熟ですが、経験を積み重ねて養豚業ということが多少わかってきたように思います。

当初想定したとおり家畜の飼育はいろいろと苦労することがありましたが、ここ最近生産や品質が安定してきたようでほっとしています。
今、農場の調子がよくなったのはひとえにスタッフの成長によるものです。(そもそも私はほとんど農場の管理業務は行っていません・・)飼料の設計もスタッフが行い、スタッフのスキルアップにより疾病の予防や治療も適切になってきました。成長の速度や肉質も当初の予定以上の数字が出るようになりました。

豚コレラもまだまだ安心できませんが、一応ワクチン接種もおわり少しほっとしています。
今回の豚コレラの流行で家畜飼育のリスクを痛感しました。突然他国から侵入した疾病により事業の存続が脅かされる可能性があることをあらためて認識することになりました。農場の立地等の関係もあり、結局当社の農場は都合4回も採血、検査を行っています。その度に「万一陽性だったらどうしようか」と祈る気持ちでした。

養豚事業をはじめた目的の一つは、エコフィードだけで豚を飼育し美味しい豚を作ることです。当社では非常に多くのエコフィードを扱っていますが、その中で特に肉質によいものを選択し給与しています。

主に給与しているのが
炭水化物源として ラーメン、うどん、グミ、シロップ、菓子くず
タンパク質原料として 酒粕、みりん粕、ビール酵母
などを給与しています。
飼料原料はアミノ酸のバランスが取れていること、多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)が少ないことに気をつけています。個人的には、多価不飽和脂肪酸の量が豚肉の味の良し悪しを決める大きな要因だと思います。

肉質に関しては飼料の影響が大きいことからあまり心配はしていませんでしたが、自分で食べるだけではなく、肉質を分析した結果、また販売先の肉屋さんやレストランからの意見をフィードバックして常にエサの改良を心がけています。
おかげさまで、最近は取引先からの評価もよくなり、卸先肉屋さんからも「ブラインドで食味評価したら一番よかったよ」と言われるようになりました。

現在はブランド名「雪乃醸」として東京のレストラン中心に販売も行っています。片手間で販売していることもありまだまだ苦労していますが、今後は多くの皆様に肉を届けたいと思っています。

先日、イベント出店していたら「雪乃醸食べたらおいしかったけどどこで売っているの」とうれしいお話をいただきました。生産者冥利に尽きます。
これからもおいしい豚肉を届けていけるように努力していきたいと思います。

イベントで販売したベーコン串

家畜福祉

年末年始で慌ただしく、すっかり更新が滞ってしましました。
事業を開始したときはそうでもなかったのですが、2つの会社を経営しどちらも12月末決算のため1月は非常に慌ただしい日々を過ごしています。

養豚の事業も豚を実際に飼い始めて1年が経過しました。まだまだ改善するところは多々あり問題山積ですが1年たつといろいろと見えてくるものもあります。

素人ばかりで豚を飼っているのでトラブルも多くありました。その一つに豚のしっぽかじりです。豚は何らかの理由でストレスを感じると、ほかの豚をいじめたりします。いじめの行動の一つがしっぽかじりで、同じ豚房にいる豚のしっぽをかじってしまうというものです。当然、傷ができますので感染症などの原因にもなりますし、かじられた方はストレスになり成長に影響が出たりします。

豚を飼って強く思うのは、豚にいかにストレスを感じさせないかが非常に重要だという点です。暑さ、寒さ、他の豚とのけんか、飼料の嗜好性等々、ストレスを感じると豚の成長に大きな影響があります。養豚生産者はみな、いかにストレスを与えないかに腐心しています。

これは養豚だけではなく、牛でも鶏でも同様です。牛もストレスを感じると乳量が減りますし、鶏も卵を産まなくなってしまいます。快適な環境が畜産においては非常に重要です。

オリンピックに向けて、ヨーロッパなどで一般化しつつある家畜福祉(アニマルウェルフェア)の考え方が日本でも徐々に広まりつつあります。
世間ではよく「大規模な畜産農家は効率を重視するあまり、家畜福祉に反した飼養を行っている」と思われているようですが、実際のところ家畜にストレスを与えるような飼養管理はむしろ生産性が低下するわけであり、効率を重視する大規模生産者こそそういったストレスに対しては敏感であったりします。
家畜がストレスを感じているかは物言わないため明らかではありませんが、ストール飼育だったりウインドレスだったりがもしストレスフルならば生産者が採用するはずがありません。家畜福祉に取り組む動きを否定するわけではありませんが、現状でも規模にかかわらず家畜福祉には常に配慮されているという実態を理解していただけたらと思います。経済動物ではありますが、家畜がよりよい環境で過ごしてほしいと思うのはすべての畜産農家の共通した思いではないかと思います。

エサをたくさん食べ、いびきをかいて寝ている豚たちを見るとなんとなくうれしくなりますが、それは生産者ならばだれしも感じるものである感情です。ゆったり育ち、結果としておいしい畜産物になることがなによりも願いです。