日本の食文化と農業

先日、台湾に旅行してきました。コロナ以降で初の海外でいろいろな体験ができ楽しい旅行でした。台湾は20年ぶりだったのですが、以前と比べ円安になりなんでも価格が高騰しているのかと思いきや、意外に物価も安く食事もいろいろ楽しめました。ただ、なぜかコーヒーだけが高くコンビニコーヒーでも500円ぐらいしていたのは驚きました。

台湾のおこわ 腸詰めがのってます

台湾では会食づづきでたくさん飲んで食べてました。以前より行ってみたかったカバラン蒸溜所にも訪問しました。カバラン蒸溜所は台湾で20年ほど前に設立され、国際的に非常に人気があります。当社はウイスキーの仕事が多く様々な蒸溜所に行く機会があるのですが、カバラン蒸溜所は設備的にも興味深い部分があり面白かったです。

カバラン蒸溜所

と、楽しい日々だったわけですが海外に行くと改めて日本の食文化の素晴らしさを感じます。台湾料理は美味しいのですが、日本の食文化は和食だけでなく、多種多様な世界各国の美味しい料理が非常に高い水準で(しかも安価に)食べられることではないかと思います。

個人的には「日本すごい」的な論調は疑問に思っています。科学技術やものづくりに関してはもはやトップ集団から後れを取っているのは明白であり、イノベーションが起きない文化が蔓延しています。
少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少することで消費も低迷し、国力の低下に伴い円安も進行しています。個人的には日本の未来はお先真っ暗だと思っています。「日本すごい」で現実から目をそらすのではなく、日本の相対的な存在感低下に対し真摯に対応策を考えていくことが必要ではないかと思います。

そんな日本のこれからのグローバル社会における存在意義の大きな柱は「食文化」ではないかと思います。多様な自然環境とそれに伴う豊かな食材はもちろんですが、日本の文化として「食べ物にこだわる」というものがあるように思います。和食が世界文化遺産になりましたが、むしろたとえばラーメンのように、世界中の食べ物を日本に取り入れてアレンジし昇華させていくのが日本の文化ではないでしょうか。

何処ぞやで食べたラーメン

インバウンドを呼び込むために各種施策が行われたりカジノを作るなどの動きもありますが、カジノのように日本ならではの特色が希薄なものではなく、日本の文化である「食」を全面に打ち出す方がより高い競争力を生み出すことかと思います。

そういった食文化の礎となる農業はもっと大切にしていくべきだと考えます。今の日本の政策は短期的な視点に立ちがちであり、長期的な視野から食文化をどう醸成していくかという意識が乏しいように感じます。農業振興を図ることで日本独自の食文化を広げることで得られるものは単純に食糧の供給と言ったものにとどまらず裾野の広い経済効果を必ずや発揮すると思います。

例えば、当社でも養豚を行っていますが、当社の豚は日本でしか得られないエコフィードを用い日本でしか得られない味の豚肉を生産しています。エコフィードだけではなく、日本という国の地域性を生かした食の生産をもっと推し進めることが国家100年の計としても必要ではないかと考えています。それが、広義の日本全体のテロワールになっていき、しいては日本としての魅力を高めることにつながっていくことと思います。

農業政策のあり方について考える

忙しい日々を過ごしているうちにすっかり7月になりました。空梅雨気味で暑い日々が続きすでに夏ばて気味です。
そんな中、当社も半期が過ぎ、来期に向けて今後の事業の方向性を検討しています。
事業のあり方を考える上で外部環境の分析は非常に重要です。めまぐるしく情勢が変わる昨今ですが、先日より報道されている日欧のEPA合意は様々な影響があるのではないかと予想しています。

報道では今回の合意では、ソフトチーズの関税撤廃が含まれており、報道でも大きく取り上げられていました。現在約30%の関税が課されていますので、撤廃によりそれなり価格が低下することが予想されます。しかし、関税がある現時点でもヨーロッパのチーズは国産ナチュラルチーズより安価に販売されていることがほとんどです。ここに農業政策の基本的なスタンスの違いが現れています。
日本の低成長・デフレが20年以上続いた結果、ヨーロッパの物価・賃金水準は日本よりはるかに高くなっています。(最低賃金1,200円ぐらが多いようです)その上、はるばるヨーロッパから運賃をかけて日本に持ってきてなおチーズが安いのは、ヨーロッパの乳価が日本より圧倒的に安いのが大きな理由です。現在の乳価はおよそ40円/kgで、おおむね日本の半額以下です。
ヨーロッパにおける農業保護政策は、農産物価格は安く維持し、農業所得を補填することで農家の生計を維持するというスタイルになっています。生産余剰分は輸出により調整するという方法をとっています。それゆえ輸出先からダンピング批判を受けたりします。
他方、日本の農業政策、特に米と牛乳は、国内で生産調整をして余剰が出ないようにし価格を維持し、不足分は国家管理貿易により輸入するという方法をとっています。

現在の日本の手法は以下のような問題があると私は思います。
1.生産調整がうまくいかず、オーバーシュートしやすい。農産物はすぐに生産の調整がしにくいため、余剰になって生産調整すると不足すると言ったことを繰り返しがちになる。輸入も国家貿易では柔軟に対応出来ない場合がある。
たとえば、牛乳は10年ほど前には生産過剰により廃棄されていましたが、現在は生産拡大、増産が謳われています。米も同様の事態が発生しています。
国内価格を高くする政策のため、輸出により在庫調整する手法が取りにくいのも問題です。

2.食料品価格を高く維持することは、エンゲル係数の高い低所得者層に対して負担が大きくなる。また、消費減退や、代替需要増加の原因になる。
大手メーカーの菓子、パンなどの原料表記を見ると、おどろくほどバターが少なく加工油脂、ファットスプレッドなどが幅をきかせています。バターではなくこれらの代替油脂を使用する大きな理由は価格にあります。

3.世界のグローバル化、複雑化が進んでいく中、品目ごとの関税での保護が難しくなっている。
たとえば、今回のEPAではソフトチーズの関税が撤廃されますが、冷凍ピザだと元から20%程度の関税率です。豚肉も関税撤廃が予定されていますが、ソーセージの関税は10%しかありません。加工製品での輸入は今後も増えていくことが予想されます。

他方、ヨーロッパ他の所得補償制度にも問題があります。
1.財政負担が大きくなる。実質的には、今まで消費者が商品代金として負担していたものを、税金を一旦払いそれを生産者に渡すことになるので負担額が増えるわけでは無いが、感覚的な負担は増えるため理解を進める必要がある。

2.所得補償のやり方によっては、モラルハザードがおこりがち。
日本の飼料米政策では飼料米を作りさえすればお金がもらえる制度になっていたため、作付けだけして生産をきちんと行わない例が問題となりました。耕地面積に応じた単純配分などではこういう問題が起こります。生産量、生産額に応じた配分にする必要があります。

上記のような問題はありますが、私はグローバル化が進む中では関税による保護から農産物価格を抑えることで競争力を高め、輸出入を自由化することで需給バランスを取る方が合理性が高いと思います。

私もEUの農業補助政策については勉強をしているところなので、理解が不足している点も多くあるかと思います。ただ、根本的な農業政策が異なっている背景下で自由化を推進することは影響が大きいのも確かであり、設備や施設の補助をすれば競争力が増えるというものでもありません。価格誘導と生産調整をどのようにしていくか、根本的なところから議論、検討することが望まれます。

食糧を巡る世界情勢

年度末なのに出張続きで、仕事がだいぶたまっています。今日は畜産学会で神戸出張、翌日の予定の関係で関東に移動しています。相変わらず慌ただしい日々を送っています。

出張をしていると、最近ホテル宿泊客は本当に外国人が増えたなぁと思います。昨日は神戸の三宮で夕食を食べたのですが、外国人目当てなのか、KOBE BEEFの看板を掲げた店が目につきました。

先日、こんなニュースがありました。

中国、豪州産牛肉の輸入制限を撤廃=李首相(ロイター)

現在、牛肉の相場が高値安定しています。その理由の一つに豪州産など海外の市場での調達が難しくなってきていることがあります。
豪州の輸出動向

もともと中国や東南アジア諸国への輸出が増え、そのあおりで日本向けの輸出量が減ってきていました。そんな中、中国が制限を撤廃することでさらに日本向けの輸出が減ってしまうとますます日本は買い負けをすることが予想されます。その一方で、和牛の輸出量は増えており、需給バランスがタイトになっています。

一方、豚肉は国内での生産量減少、牛肉、鶏肉の高騰などの原因によりこちらも高値安定しています。

牛乳でも同様の傾向があり、国際乳価が上昇をして、脱脂粉乳などの乳製品国際価格も上昇基調にあります。

このような畜産物価格の高騰により、中国などの諸外国では畜産の生産量が増加傾向にあります。その結果、飼料の需給もタイトになりつつあり、穀物や魚粉の相場もやはり高値安定の傾向が続いています。

他方、日本の一人あたりGDPは下がり続けており、かってのようにお金にものを言わせて食糧を買い集めることが難しい情勢にあります。お金にものを言わせて世界中から食糧を調達することで成り立ってきた日本社会の構造が立ちゆかなくなるような時期が早晩訪れるのではないでしょうか。

会社を営んでいて最近とくに意識しているのが事業の存在意義です。存在意義が無ければ、事業を継続していくことが困難となります。
当社は食品のリサイクルを行っていますが、このような社会情勢のなか、国内で食糧を生産することに貢献することで当社の存在意義を発揮していくことができるものと考えています。社会と時代の要請に常に応えられる会社で有り続けていたいと思っています。

 

「農業改革」の矛盾

イベント、展示会、講演の講師などなどの予定がめじろおしですっかりブログ更新を怠ってしまいました。
もちろん本業も忙しくしています。最近は肥料関係の仕事がまた増えてきており、受発注処理にも追われる毎日です。

と言うわけで、当社は肥料、飼料などの農業資材を扱っています。そう言う立場から見ると、現在マスコミを賑わしている農業改革には非常に疑問を感じています。

こんなニュースがありました。
<自民党>小泉流改革、正念場…「本丸」農協、農家の反発も
自民党の小泉進次郎農林部会長は3日、11月中にもまとめる農業改革の「骨太の方針」に反映させるため、仙台市で農業関係者と意見交換した。・・以下略
この記事によると、”農協改革を「改革の本丸」と位置づける小泉氏の方針”とあります。現在の日本の農業が厳しい状況に置かれていることは間違いない事実ですが、ではそれはそもそも農協の存在のせいなのでしょうか。

以前も投稿しましたが、農家という個人、零細事業者がマーケットと対峙しているためには農協は必要な存在です。資材を共同で購入することで安価に調達が可能になり、出荷を共同で行うことで市場での存在価値を出すことができます。きちんと仕事をしていない農協が多くあることは事実ですが、農協のプレゼンス低下に伴い商系(非農協系)が台頭しており農家にはその選択の自由があります。小泉氏は「農協よりホームセンターの方が肥料が安い」と批判していますが、ホームセンターの方が安ければホームセンターで買えばいいだけの話であり、現在の議論は「吉野家よりすき家の方が牛丼が高い」と政府が批判するようなものです。
そもそも、農協のあり方の問題は農協という存在に起因するものでは無く、多くの原因は肥大化した組織にありがちなセクショナリズムと事なかれ主義にあります。ので、組織運営がきちんとできている農協は存在感があり、運営が官僚化している農協との差が開いてきているわけです。

現在の農業の根本的な問題は、マーケットに介在しすぎる農業施策に根本的な原因があると私は考えています。業界として保護が手厚い米、牛肉、牛乳などの分野の方が競争力が低く、政府保護がほとんど無い野菜や鶏卵のほうが競争力があるのはその証左です。補助メニューが微に入り細に入り作られており、農家の思考を奪っているように思います。
たとえば「子牛に乳酸菌製剤を与える」のに補助が出ていたりしますが、子牛の健康管理のメニューまで補助金で誘導する必要があるかはなはだ疑問です。

本来、農業改革を標榜するならばこれまでの農業政策(そのほとんどが自民党政権下で行われてきたものであるわけですが)の反省と総括を行い、農業保護の仕組み、あり方の大枠フレームをまず議論していくべきであって、資材価格などの重箱の隅をつつくような話でマスコミの耳目を集める作戦は単なる選挙向けのパフォーマンスにすぎず、農業を変えることにはなりません。
郵政民営化、道路公団民営化でなにか変わったかを見てみれば、「農協改革」の行く末も容易に想像できることかと思います。

では、どんな農業施策を進めていくべきなのでしょうか。私は農業政策は所得補償政策に行き着くしか無いと考えていますが
詳しくは別のエントリーにて投稿したいと考えています。

これは農業だけに限ったことではありませんが、理念があり、ビジョンがあっての戦略、政策であるべきです。将来のビジョンが不明確なことが日本の閉塞感の根本原因になっているような気がしてなりません。明確なビジョンが打ち出され、安心して事業を営み、生活ができる日本となって欲しいと願ってやみません。

TPPの影響

久々の更新ですっかり旬を過ぎているような気もしますが、TPPについて少し雑感を書いてみたいと思います。

 

ご存じの通り、TPPの内容がまとまり公表されました。政府発表によると、影響は軽微とのことですが、私はそれなりに影響が出るのではないかと思います。
たとえば米。8万トン弱の輸入枠が設けられました。これは米の生産量の1%程度に相当します。これだけを見るとたいした量では無いと思われますし、また政府は輸入量相当を備蓄米として買い上げするという対策を発表しています。
ところが、今回の合意内容では米粉調整品の関税が削減または撤廃されています。
米に限らず、現在の貿易は非常に複雑となっており、原料の輸入だけではなく半製品の輸入が多くあります。たとえば味淋はほぼ国内で生産されていますが、海外で海外産の米を使用して半製品であるもろみをつくり、国内で絞ることで国産味淋として流通しています。小麦や小麦粉は関税が高いですが、ミックス粉では関税が低くなります。このため、アメリカ産の小麦をFTA締結をしている韓国でミックス粉に加工し、輸入するという方法が行われています。
単純に原料そのものだけ「聖域」として保護しても、加工品規制を撤廃すれば国内マーケットへの影響は確実に出てくるものと思います。

そもそも、影響が軽微だと公表しておきながら対策をするというのは影響が軽微でないと政府が考えている証左です。トータルの関税収入が下がるわけですから、その分国内への価格波及は当然起こりえます。

ただ、私はこのグローバル化が進んだ社会において関税で国内産業を保護するということはもともと無理筋であると思っています。先に挙げたような関税逃れの手法はいくらでもあり、その規制はいたちごっこであり、防ぐことは容易ではありません。TPP自体はメリットがあるとは思えませんので推進する意義は無いと思いますが、TPPに仮に参加しなくともグローバル化は確実に進行していくものと思います。

今回、様々なTPPの対策案がメディアに取り上げられています。しかし、農業分野のメニューを見ていると場当たり的で、本当にこれで国内農業の振興につながるとは思えません。
まず一番重要なのは国内農業をどのような位置づけで保護していくのか、長期的なビジョンを明確に打ち出すことが必要だと思います。そもそも、国内で農業生産を維持していくべきなのか、そこすら方針が明確になっていないように思います。
私は、農業は文化の根底であり、社会を構成する基礎となっているものなのでその維持は必要なものであると考えます。cultureは耕すことであり、agricultureにもcultureが含まれています。

しかし、現在のようにただ設備投資に助成が出たり、価格の補填をする政策は農業生産の自由意思を阻害し、結果農業競争力を弱めていることは間違いないと思います。日本の農業で国際競争力がある分野は、鶏卵、野菜など保護措置がほとんどない領域であり、保護が充実している米や牛肉の競争力が低いことは皮肉なものです。
特に穀物などでは諸外国でも所得補償政策が行われているので、対抗上助成を行っていくことは必要悪であると思います。しかし、現在特に米や牛乳などで行われているようなマーケットに過度に介在する政策は制度矛盾が発生することが避けられないので、もっと単純に販売価格に応じた所得補填(補償ではなくて)を行うべきであると思います。

たとえば、米は飼料米を作ることで多額の助成が出ます。ところが、飼料米の流通体制が整っていないため生産された米がうまく流通しない事態が発生しています。これは、「飼料米を生産すること」に補助を出しているために発生しているわけです。もっと単純に、米の販売金額に応じ単純に所得補填を行うようにすれば、米の生産が増え市場価格は低下し、輸出や加工向けなどの用途への展開が進みます。仕向先のコントロールを政府が行おうとするから矛盾が生じるのです。

今回のTPP対応で、特に牛肉と豚肉は政府の介在が大きくなります。このことが吉と出るか、凶と出るか。よき日本文化の維持発展につながるような政策が摂られることを願います。