飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。

リキッドフィードの欠点

更新が滞っているうちに、すっかり春が過ぎ初夏になってしまいました。

例年、6月~8月ぐらいは豚肉の市場価格が高くなります。価格が上がるのには養豚生産の季節サイクルが影響しています。
豚は生後半年で出荷され、妊娠期間は4ヶ月弱です。逆算するといま出荷されている豚は1月生まれ、前年の9月頃種付けとなります。夏場は暑さのため母豚のコンディションが悪化し、繁殖成績が悪化します。逆に1月は寒いため、生まれた仔豚が調子を崩しやすくなります。そして、出荷時期は暑いためエサの食下量が低下し、大きくなりにくくなります。それに加え、夏に向けて豚肉需要は旺盛であるため、市場価格が上がります。

今年は特に全国的に6月下旬が猛暑であったため豚のコンディションが悪化しており記録的に出荷が減っています。そのため、豚肉の価格が例年以上に上がっています。

そんな中、当社の関連会社「リンネファーム」の豚「雪乃醸」は順調な出荷を維持できています。出荷頭数が多く相場がいいため、市場からの清算金額を見ると少し驚くほどです。

出荷が順調なのは飼料の嗜好性が安定していることが理由の一つです。雪乃醸はリキッドフィードと呼ばれる液状(おかゆ状)の飼料を給与しています。液状であるため、夏場などでも比較的食下量が落ちにくい傾向にあります。人間も暑いときは水っぽいものが食べたくなるように、豚も暑いときには粉のエサより液体のエサのほうを好みます。

夏場でも嗜好性が安定していることはリキッドフィードのメリットですが、最大のメリットは、様々な食品残さを使用することが容易であるということです。食品残さは高水分のものが多く、乾燥処理にはコストがかかります。液状のまま給与できるのは大きなメリットです。

一方、リキッドフィードにもデメリットはあります。夏場の嗜好性が改善することもある一方、液状であるが故に異常発酵しやすい欠点があります。特に、原料に糖が多い場合や、原料にパン生地や酒粕などの酵母を含むものを使用すると酵母発酵が進み、あふれる事故が起きたり、嗜好性が低下する傾向があります。特に、春と秋は気温が酵母の発酵に適した温度となることもあり、発酵が起きやすい傾向にあります。
この欠点を防ぐためには加熱殺菌が有効です。当社ではリキッドフィードを65℃30分間加熱殺菌しています。現在、肉を含む食品残さを飼料に用いる場合、感染症予防のために90℃1時間の加熱が義務付けられています。しかし、当社では肉を含む原料を用いていないため加熱殺菌は本来不要です。しかし、嗜好性の安定のために加熱殺菌を行っています。もちろん、殺菌温度が高いほうが殺菌は確実に行われますが、加熱に必要なエネルギー使用量が増えたり、粘性が上がる欠点があります。バランスを取って65度で加熱殺菌を行っています。
リキッドフィードには他にもいくつか欠点があります。大きな欠点として、尿量が増えることがあります。尿量が増えると排水処理の管理が大変になったり、堆肥の発酵がうまくいかなくなります。尿量が増えるのは飼料の水分含量が多い分水分摂取量が増えることもありますが、一般的に人間の食べ物は塩分(ナトリウム)が多いことが多く、また野菜などに由来するカリウム含量も多いため尿量が増えます。
また、リキッドフィードは酸性であるため、コンクリートや鉄が腐食することも大きな欠点です。コンクリートは酸性に弱く、コンクリートでできたスノコは防食塗装など行っていないと数年でぼろぼろになります。

ときどき、リキッドフィードは水分をたくさん取るので肉が水っぽくなるという人がいますが、これが技術的には誤っています。リキッドフィードの場合食品残さを使用することが多いですが、大豆油などの油脂を多く含む原料を使用すると豚肉の脂の質が変わり、脂の融点が下がることで「水っぽい」豚肉となってしまいます。逆に言うと、適切な原料を選択すればリキッドフィードも配合飼料も肉質に差は出ません。

このようにメリットとデメリットがありますが、繰り返しになりますがリキッドフィードの最大のメリットは多様な食品残さを使用することが容易である点です。現在、輸入穀物で作られている配合飼料の価格が非常に高騰しています。こんな中、リキッドフィードにより食品残さをうまく利用し飼料価格を抑制することは経営的に大きなメリットがあることは言うまでもありません。また、限りある資源を有効に活用することで、存在意義を確立し地域との共生を図ることができます。今後、社会要請に応える畜産や農業がより一層求められる時代になっていくことと思います。リキッドフィードはそういう時代に合った手法の一つであるかと思います。

パイナップル残さの脱水システム

遅ればせながらあけましておめでとうございます。
昨年は新型コロナウイルスに振り回された1年でした。コロナ禍の影響により展示会は軒並み中止になり、出張もままならず業務に様々な影響がありました。
しかし、当社は比較的影響を受けにくい業種であったこと、また以前よりネットを利用した営業を行ってきたことなどが功を奏してなんとか1年間を終え売上げを増やして12月末の決算を終えることができました。これも取引先、スタッフほか関係する皆様のおかげです。ありがとうございます。

パイナップル脱水システム

新しく始まった仕事の一つに、カットフルーツ工場のパイナップル残さリサイクルがあります。パイナップル残さは従来より飼料としての利用がすすんでいました。しかし、排出されるパイナップル残さはそのままの状態では取扱がしにくく、保存性が悪い欠点がありました。
今回の取り組みは、パイナップルを脱水し脱水パイナップルを袋詰めしてサイレージとして保存し牛用の飼料として供給します。脱水したときに発生する脱離液はタンクに保管してタンクローリーで運搬し、豚用の飼料として利用しています。パイナップルを脱水して脱水パイナップルと液体を両方利用するのはおそらく日本で初めての試みではないかと思います。

脱水した液体なんてエサになるのかというご質問をいただくことがよくあります。パイナップルの脱離液はほとんどパイナップルジュースで、だいたい8%ぐらいの糖液です。豚のリキッドフィードは20%強の濃度で製造することが多いです。仮にリキッドフィード製造時に使用する液体をすべてパイナップル脱離液とした場合、約1/3をパイナップルの糖分で供給することができます。保存性もよく、消化性、嗜好性もよいのでリキッドフィードの原料としては非常に有用な原料です。
計算上はパイナップル汁と酒粕(と少々のアミノ酸)だけで豚の飼料をつくることができます。

現在も多種多様なお引き合いをいただいております。今後も新しい挑戦を続けていきたいと考えています。皆様今後ともご協力のほどよろしくお願いします。

養豚における6次産業

今年はいつまでも暑い日々が続きます。暑いと人間同様豚も夏バテして食欲が落ち、結果成長が遅くなります。全国的には出荷頭数が落ちています。おかげで豚枝肉の相場は高値安定です。
一方、当社の豚は最近絶好調でもりもりとエサを食べており、非常に順調に大きくなっています。養豚開始して2年半経ち、ようやく生産も安定してきたように思います。病気の予防や飼料の配合設計のノウハウが蓄積してきたことが大きいです。

昨年夏から力を入れている豚肉販売も少しずつ広がりを見せてきました。コロナ禍により展示会が軒並み中止になり、飲食業界が苦境に立たされている状況であり向かい風が強いですが、それでも様々なご縁でレストランやスーパーなどの取引が増えてきました。
販売は精肉だけではなく、ハムやソーセージなどの加工品も委託製造し、ネット通販などで販売を行っています。

当社はさまざまな6次産業的な取り組みを行っていますが、以前にも書きましたように肉牛や豚などは生産した家畜を直接販売することができませんので、生産者自らが販売する差別化が難しいという特徴があります。
加工品にしても、委託生産先にお任せすると委託生産先の商品との区別ができないものになってしまいます。
このような背景もとに差別化を図るために「特徴のある豚肉の生産」と「特長を生かした加工品の生産」を当社ではめざしています。
当社の銘柄豚「雪乃醸」は飼料にはトウモロコシ、大豆を使用していません。また、飼料中の粗脂肪を低くし、特にリノール酸を含むものを極力減らしています。さらに、タンパク質源としてビール酵母を使用しています。その結果、非常に軽い脂の質になっています。この頃はブラインドで食べてもすぐ雪乃醸がわかるようになりました。
この脂の質を最大限活かして加工品のレシピ開発を行っています。素材の旨みを生かすために、グルタミン酸ナトリウム(旨み調味料、化学調味料)を使用せず、ハーブで脂のフレーバーを引き出すようにしています。

当社加工品で非常に人気なのがシュウマイです。シュウマイは背脂を多く配合しています。あっさりした脂の質なので背脂が多くてもくどくならず、ジューシーな仕上がりになっています。脂の特徴が生きた商品です。「他のシュウマイを食べると胸焼けするけど、雪乃醸シュウマイはあっさりとしてたくさん食べられた」とネット通販のレビューにありとても嬉しく思いました。

シュウマイ

加工品の試作もいろいろ行いましたが、雪乃醸の特徴が出ない商品は商品化していません。
差別化が難しい豚肉は6次産業化として生産者が販売する場合、「生産者の顔が見えること」「ストーリー性」に頼っているケースが多いように感じます。それ自体は否定しませんが、当たり前ですが豚肉自体の特徴が無いと厳しい消費者の選別眼のもと、すぐに飽きられてしまう可能性があります。

私は6次産業化に限らず、企業活動において重要なのは「存在意義」だと思います。日本で養豚を行う存在意義を少しでも高めるために、エコフィードを使い特徴のある美味しい豚肉を生産していきたいと思っています。

家畜防疫にとって必要なもの

先般、飼養衛生管理基準の改定が話題になっていました。
放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」(日本農業新聞)
https://www.agrinews.co.jp/p51016.html

飼養衛生管理基準とは、「家畜伝染病予防法に基づき,家畜の飼養者が家畜伝染病の発生を予防するために,遵守すべき事項について定めたもの」です。
こちらに放牧を禁止する(場合がある)という内容が入っていたため、放牧を行っている畜産関係者等からの反発があり、結果として放牧に関する条項は大幅に割愛されることになりました。
放牧ばかり耳目を集めていたようですがこの飼養衛生管理基準はさまざまな点で規制が強化されており、たとえば農場内で愛玩動物、つまり犬や猫を飼うことが禁止されています。畜産農家に訪問したことがある方はご存じと思いますが、農場で犬や猫を飼っているケースは非常に多いです。しかし、今後は農場内で犬や猫の飼育もできなくなってしまいます。

今回の規制強化は近年の豚熱の流行、そして中国他でのASFや口蹄疫の流行が背景にあります。伝染病の予防や蔓延を防止するために規制を強化することになったわけです。
私は仕事柄様々な畜産農家に訪問する機会がありますが、正直言って防疫対策が不十分な農家も多くあります。規制の強化はやむをえない面もあります。
ただし、当然ながら規制の強化は費用や労力の負担にもなります。ゼロリスクを求めてやみくもに対策するのは非科学的な手法であり、費用便益を考え優先順位を決めてすべきです。犬や猫がいることで本当に伝染病のリスクが高まるのでしょうか。例えば、猫がウイルスを伝播したという事例があれば猫の飼育を禁止するのも当然かと思いますが、そのような事例が報告されているわけではありません。
豚熱の発生の状況を見るに、野生動物に一旦伝染病が広がると(=つまりウイルスが大量にばらまかれると)、感染拡大をおさえるのは非常に困難であり、相当な防疫体制を敷いている農場であっても感染を防ぐことは非常に厳しいということは間違いありません。
であれば、まず第一に行うべきは野生動物への感染をいかに防ぐかであり、いかに国内に伝染病を侵入させないかが第一の対策であるべきです。たとえば、禁忌品、たとえば肉類の持ち込みに関する罰則のレベルは諸外国に比べ低いと言われています。水際対策の強化に対し及び腰にもかかわらず、国内の規制強化に取り組むのは本末転倒です。

今回の改定では

・根拠が明確でないこと、科学的根拠がはっきりしないこと

・改定の決定プロセスが不明確であること

・規制の内容がはっきりしないこと

に関して疑問の声が上がっていたように感じます。

放牧禁止しかり、愛玩動物禁止しかり、なにか明確な根拠があれば意見が噴出することも無かったかと思います。また、これらの改定に関し、農水省から出され原案を専門家委員会で検討をおこなっているのですが、議論の過程はオープンにはなっていません。今回の改定に関する専門家委員会の議事はこちらに公開されていますが、そこには「本年3月に改正された豚等の飼養衛生管理基準の他畜種への反映方針について確認がなされ、大臣指定地域の考え方等について意見があった。」との記載があるのみです。果たして議論が尽くされたのか、これでは全く不明確です。

今回の飼養衛生管理基準の改定の前に、食品残さの加熱基準が強化される改定が行われています。これは、肉を含む食品残さはいままでは70℃30分の加熱だったものの、90℃1時間の加熱が必要になりました。この根拠として、OIE(国際獣疫事務局)の基準が挙げられています。しかしながら、OIEが90℃とした理由は明確に示されていません。70℃30分でウイルスが不活化せず、90℃なら不活化するという実験データが示されるのならいざしらず、とにかくOIEがこう言っているから・・という理由で加熱基準が引き上げられました。この際、専門家委員会では相当議論が紛糾したにもかかわらず、議事要旨には「意見があった」との一文が記載されているのみです。

ゼロリスクを究極的に求めると家畜がいない方が良いことになってしまいます。リスクを回避しながらどうやったら畜産経営を継続していくか、生産現場だけに責任と負担を押しつけるのではなく、俯瞰的な視野の元で実効性のある対策を打ち出して欲しいと願います。

コロナ禍と豚肉のネット通販

新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの事業者が大変な影響を受けています。当社はまだそれほど影響は大きくないですが、周りでも先が見えない状況の中で苦しんでいる人がたくさんいます。特に、飲食店関連の事業者はほんとうに大変です。各種景況調査などを見ると、去年の夏ぐらいから米中貿易戦争などの影響により相当景気が悪化しています。消費税増税前の駆け込み需要でそれがごまかされていたのが、駆け込み反動により去年の冬より景気悪化が顕著になり、コロナ影響によりさらに悪化しています。

豊橋商工会議所景況調査https://www.toyohashi-cci.or.jp/koho/pdf/keikyo01-3.pdf

自分と会社は
・今まで月の1/3は出張しており、飲み会も多かったがほぼ毎日家で夕飯を食べるようになった。会社にいる時間が長くなった。
・展示会などのイベントもことごとく中止。来年以降の受注が心配。
・取引先食品工場も業種によっては生産量が大きく低下している。土産物向け菓子、クラフトビール、外食向け製麺工場など。
・生産量が増えている食品工場もあり。スーパー向け菓子、スーパー向け製麺工場など。
・豚価が爆上げしている。スーパーでの国産需要増加、アメリカの豚肉輸出の混乱などの影響。
といった影響があります。生活は一変しています。

ただ、おかげさまでこの状況下でも新規の取引案件のお話しを多くいただいており、それらの準備などでかなり忙しい日々を過ごしています。

今回の社会情勢の変化に伴って一番驚いたのはネット通販の伸びです。昨年よりポケットマルシェというサイトで細々と豚肉のネット通販にとりくんでいましたが、いきなり売上げ激増して対応に追われています。
ポケットマルシェはSNS的な要素を持つ農家の産直サイトで、消費者と農家がコミニュケーションできるのが特徴です。私の販売ページにもたくさんのコメントが寄せられていて、生産者として励みになります。
昨今は生産者と消費者の関係性が希薄になっています。こういったサイトやSNSを通じて、もっと農業生産が身近なものになって欲しいと思います。

その一方で、消費者との関係性に依存した販売でよいのだろうかと言う思いもあります。豚肉、特に国産豚肉は品質向上がめざましいため、極端な味の差がない傾向にあります。とりわけ銘柄豚で販売されている豚に関してはどれもある一定のレベル以上の水準にはあるため差別化が難しいです。どうしても生産者の顔が見えることに注力した販売となります。それは悪いことでは無いと思いますが、私はやはり食べ物である以上おいしさで差別化していきたいと思っています。そう言う思いのもとで生産している当社の豚「雪乃醸」は飼料原料から一般的な豚の飼料に使われるトウモロコシを一切使用しないことで、かなり特徴がある肉質になっていると思います。とにかくあっさりとしていることで、特に女性の受けが非常に良いようです。

バラ肉

もちろん、差があると言っても和牛とオージービーフほどの差があるわけではなく、おいしさに気づいてくれる人は少数派ではないかと思います。その一部かもしれないですが本当に食べ物にこだわっている人に訴求する豚肉を極めていきたいと考えています。
今後も生産を改善し豚肉品質を向上させるとともに、ネット通販を通じそういった方にどこまでアプローチができるか試行錯誤していきたいと思っています。

豚を飼ってみて思うこと

今年も暑い夏でしたが、急に秋めいてきました。

当社で豚を飼い始めて1年半が過ぎ、2回目の夏を超すことができました。まだまだ未熟ですが、経験を積み重ねて養豚業ということが多少わかってきたように思います。

当初想定したとおり家畜の飼育はいろいろと苦労することがありましたが、ここ最近生産や品質が安定してきたようでほっとしています。
今、農場の調子がよくなったのはひとえにスタッフの成長によるものです。(そもそも私はほとんど農場の管理業務は行っていません・・)飼料の設計もスタッフが行い、スタッフのスキルアップにより疾病の予防や治療も適切になってきました。成長の速度や肉質も当初の予定以上の数字が出るようになりました。

豚コレラもまだまだ安心できませんが、一応ワクチン接種もおわり少しほっとしています。
今回の豚コレラの流行で家畜飼育のリスクを痛感しました。突然他国から侵入した疾病により事業の存続が脅かされる可能性があることをあらためて認識することになりました。農場の立地等の関係もあり、結局当社の農場は都合4回も採血、検査を行っています。その度に「万一陽性だったらどうしようか」と祈る気持ちでした。

養豚事業をはじめた目的の一つは、エコフィードだけで豚を飼育し美味しい豚を作ることです。当社では非常に多くのエコフィードを扱っていますが、その中で特に肉質によいものを選択し給与しています。

主に給与しているのが
炭水化物源として ラーメン、うどん、グミ、シロップ、菓子くず
タンパク質原料として 酒粕、みりん粕、ビール酵母
などを給与しています。
飼料原料はアミノ酸のバランスが取れていること、多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)が少ないことに気をつけています。個人的には、多価不飽和脂肪酸の量が豚肉の味の良し悪しを決める大きな要因だと思います。

肉質に関しては飼料の影響が大きいことからあまり心配はしていませんでしたが、自分で食べるだけではなく、肉質を分析した結果、また販売先の肉屋さんやレストランからの意見をフィードバックして常にエサの改良を心がけています。
おかげさまで、最近は取引先からの評価もよくなり、卸先肉屋さんからも「ブラインドで食味評価したら一番よかったよ」と言われるようになりました。

現在はブランド名「雪乃醸」として東京のレストラン中心に販売も行っています。片手間で販売していることもありまだまだ苦労していますが、今後は多くの皆様に肉を届けたいと思っています。

先日、イベント出店していたら「雪乃醸食べたらおいしかったけどどこで売っているの」とうれしいお話をいただきました。生産者冥利に尽きます。
これからもおいしい豚肉を届けていけるように努力していきたいと思います。

イベントで販売したベーコン串

豚コレラについて

最近、豚コレラについて聞かれる機会が非常に多いです。いろいろな情報が入る立場なので、整理してみたいと思います。
なお、豚コレラは人間には感染しない病気であり、万一食べても影響はありませんので安心ください。

今回の豚コレラで不思議なのは、感染力が強くないにも関わらず、感染が広がっているという点です。
公表されているレポートに出てきませんが、本巣や渥美半島の農場では感染している豚が導入されているにも関わらず、導入されている豚がいる豚房以外では感染した豚がいませんでした。また、豊田の農場では11月ぐらいに母豚が感染していると推測されています。(抗体の上がり方からの推測)にも関わらず、同じ豚舎から出荷された子豚は1月中旬まで感染していませんでした。つまり、同じ豚舎内で作業者が行き来しているような状況であっても、豚同士が接触をしないような状況では感染が起きにくいということは明確です。
それにもかかわらず、多くの農場に感染が広がっているのは非常に不思議です。当然ながら豚舎の中にイノシシが侵入することは想定されず、また各務原や豊田の農場は付近にイノシシがいる環境ではありません。仮に小動物や鳥で感染するぐらい感染力があるようなら、もし感染した場合は農場内全体に一気に感染が広がるはずで感染豚が農場内に遍在するような現在の状況は説明がつかないことになります。

養豚関係者がワクチン接種を望む大きな理由として、このように感染経路が不明確であり、衛生管理を徹底し飼養衛生管理基準を完全に順守することで100%感染を防ぐことが難しいと感じているからです。現に、数年前流行したPEDという伝染病は衛生管理基準を完全に順守しているはずの農水省直轄の家畜改良センターに侵入しています。病気の感染原因によっては衛生管理基準を完全に順守することでも防げないということの証左です。

もちろん、ワクチン接種には様々なデメリットがありそれを理由に農水省は接種に対し否定的です。
デメリットとしてはおもに
・輸出ができなくなる
・現在阻止できている豚コレラ発生国から輸入が増える恐れがある
といったものです。ワクチンを接種すると、「非清浄国」という扱いになり、清浄国へ輸出ができなくなります。また、非清浄国からの輸入は現在はできませんが、その障壁が無くなってしまいます。
しかし、豚肉の輸出額は10億円程度、頭数で約12000頭分と金額的には少なく、仮に輸出が止まったとしても影響は軽微です。また、現在の輸出は香港などが中心であり、非清浄国となっても輸出は可能です。強いて言えば、清浄国であるアメリカやEU諸国への輸出ができなくなるということがありますが、国内の豚はこれらの国に輸出できる競争力は残念ながらほぼありません。
一方、豚の皮の輸出金額は大きく、かっては120億円程度ありました。
原皮の輸出が減ると影響はありますが、輸出先の多くは豚コレラ非清浄国であり、ワクチン接種しても輸出することは可能です。

他方、非清浄国からの輸入が増える恐れがありますが、非清浄国の多くは口蹄疫の非清浄国でもあります。このため、それらの国からは輸入することはできません。アジアでは唯一フィリピンが清浄国でありますが、フィリピンは豚肉の純輸入国であり、輸出余力は無いものと思われます。
もし輸入を阻止したいのであれば、まずは現時点でアフリカ豚コレラが発生している中国から正規の検疫をへて輸入されている豚肉加工品をストップすべきです。あまり知られていませんが、日本は年間1万トンもの豚肉加工品を中国から輸入しています。

このような理由から、私はワクチン接種による非清浄国化は豚肉、原皮などの輸出、輸入に関する制約はすくないものと思います。
むしろ、ワクチン接種する場合、ワクチンの費用負担や接種の労力のほうが影響が大きいと思います。ただ、生産者のほとんどはそれらのデメリットを踏まえたうえでワクチン接種を望んでいます。

このような状況を踏まえ、農水省は壊れたテープレコーダーのように「飼養衛生管理基準の徹底」を謳うだけではなく
1.ワクチン接種に頼らない感染予防が本当にできるのか(感染経路の明確化ができるのか)
2.仮にワクチン接種した場合、輸出入に対しどういった影響があるのかのシミュレーション
を行うべきです。経済動物である以上、リスクベネフィットで判断すべきであるのに、その提示がなされていないことに疑問を感じます。

多くの生産者が不安な心持で過ごす日々が続いています。また、飼料の流通や人の交流など、多岐にわたる影響が発生しています。政府は多くの声に真摯に向き合ってほしいと切に願います。

家畜福祉

年末年始で慌ただしく、すっかり更新が滞ってしましました。
事業を開始したときはそうでもなかったのですが、2つの会社を経営しどちらも12月末決算のため1月は非常に慌ただしい日々を過ごしています。

養豚の事業も豚を実際に飼い始めて1年が経過しました。まだまだ改善するところは多々あり問題山積ですが1年たつといろいろと見えてくるものもあります。

素人ばかりで豚を飼っているのでトラブルも多くありました。その一つに豚のしっぽかじりです。豚は何らかの理由でストレスを感じると、ほかの豚をいじめたりします。いじめの行動の一つがしっぽかじりで、同じ豚房にいる豚のしっぽをかじってしまうというものです。当然、傷ができますので感染症などの原因にもなりますし、かじられた方はストレスになり成長に影響が出たりします。

豚を飼って強く思うのは、豚にいかにストレスを感じさせないかが非常に重要だという点です。暑さ、寒さ、他の豚とのけんか、飼料の嗜好性等々、ストレスを感じると豚の成長に大きな影響があります。養豚生産者はみな、いかにストレスを与えないかに腐心しています。

これは養豚だけではなく、牛でも鶏でも同様です。牛もストレスを感じると乳量が減りますし、鶏も卵を産まなくなってしまいます。快適な環境が畜産においては非常に重要です。

オリンピックに向けて、ヨーロッパなどで一般化しつつある家畜福祉(アニマルウェルフェア)の考え方が日本でも徐々に広まりつつあります。
世間ではよく「大規模な畜産農家は効率を重視するあまり、家畜福祉に反した飼養を行っている」と思われているようですが、実際のところ家畜にストレスを与えるような飼養管理はむしろ生産性が低下するわけであり、効率を重視する大規模生産者こそそういったストレスに対しては敏感であったりします。
家畜がストレスを感じているかは物言わないため明らかではありませんが、ストール飼育だったりウインドレスだったりがもしストレスフルならば生産者が採用するはずがありません。家畜福祉に取り組む動きを否定するわけではありませんが、現状でも規模にかかわらず家畜福祉には常に配慮されているという実態を理解していただけたらと思います。経済動物ではありますが、家畜がよりよい環境で過ごしてほしいと思うのはすべての畜産農家の共通した思いではないかと思います。

エサをたくさん食べ、いびきをかいて寝ている豚たちを見るとなんとなくうれしくなりますが、それは生産者ならばだれしも感じるものである感情です。ゆったり育ち、結果としておいしい畜産物になることがなによりも願いです。

豚の格付け

暑い日が続いていますが、今年は夏バテもせずなんとか乗り切れそうです。現場に出る機会が多かったのですっかりドカタ焼けしてしまいました。ただ、体重は順調に減っており晩酌のビールの量を増やしても体重は増えそうにない感じですw

暑いと人間も食欲なくなりますが、豚も一緒で顕著に飼料摂取量が低下し、その結果として増体が低下し、出荷体重が小さくなったりします。液状飼料(リキッドフィード)を使うメリットの一つとして、夏場の飼料摂取量の低下を抑えることができるといわれています。ただ、実際のところはリキッドフィードを使用していても飼料摂取量の低下が起きている場合も多くあります。
飼料原料の組み合わせなどによって嗜好性が変化しますので、いかに夏場でも飼料摂取量を低下させないかを工夫することが求められています。また、豚舎の環境を適切に維持することも非常に重要です。

 

手前味噌になりますが、自社農場は最近調子がよく、暑いさなかでもかなり飼料摂取量が高い状態を維持できています。おかげで増体もまずまず順調ですが、お盆休みでと畜場が休みのため出荷できなかったこともあり、重量が重すぎて規格を外れた豚が多くなっています。

格付け

豚の場合、格付けは上、中、並、等外という区分になります。格付けが落ちる原因として一般的に多いのは厚脂と重量オーバーです。背脂肪厚がある程度を越える、また重量も80kgを超えると格付けが落ちます。脂肪が厚いと肉の割合が減ってしまい歩留まりが悪くなるため格付けが落ちます。重量に規格があるのは、たとえばロースの大きさがまちまちとなってしまうと、トレーに収まらない、スライス品の重量がまちまちになってしまうなどの問題があるためです。
しかし、業界関係者の間では、重量がある程度大きいものの方がおいしいと言われています。今の規格では、じつはおいしさがスポイルされているということになります。柔らかさに影響を与える脂肪交雑なども格付けには考慮されません。低価格な海外産豚肉との競合を考えれば、本来は歩留まりや大きさだけではなく、味も基準となる格付けであってほしいものです。

今回の出荷が重量大きめだった理由の一つは、小さいよりは大きい方がおいしい肉を供給できるという思いがあったこともあります。個人的には最終的には自社で販売することで、規格にとらわれずおいしい肉を提供できるようになりたいと思っています。
とは言え、まだ生産には課題が多く、販売以前にやらないといけないことがたくさんある訳ですが・・。