飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。