石鹸と化学合成

仕事柄、有機農業と関わり合うことが多くあります。価格が高い有機農産物を購入される人は、自然や健康にこだわる方が多いです。この前、そういう方とお話ししていて「化学合成されたものではなく、石鹸を使いたい」と言われているのを聞いて、ちょっと違和感を感じました。
高校の化学でも習うかとおもいますが、石鹸というのは高級脂肪酸のアルカリ塩です。油脂(脂肪酸のグリセリンエステル)をエステル置換し製造されます。これは立派な化学反応です。
合成洗剤というとイメージが悪いですが、石鹸もある意味合成されているわけです。合成洗剤の主成分である界面活性剤の代表的なものの1つに、LAS(直鎖ベンゼンアルキルスルホン酸ナトリウム)という物質があります。名前だけ聞くと非常におどろおどろしいのですが、石鹸も「オレイン酸ナトリウム」というと同じような響きに聞こえてきたりします。
家庭でも廃食用油を使って石鹸を作ったりもできますが、廃食用油のような不純物が多い油脂を使用しますと、化学反応の過程でおもわぬ物質が生成する可能性があります。工場での大規模なプラントで製造する合成界面活性剤の方が「何が入っているかわからない」という状態は少ないと思います。
石鹸の危険性を喧伝したいわけではなく(私も家では石鹸中心です)、われわれの豊かで文明的な生活において化学合成というものはもはや切り離すことができなくなっているので、化学合成したものを排除するというのはナンセンスだということです。人類が鉄と火を手にした時点で化学合成が始まっているわけですから。
私はよりよい地球環境を構築することを目標に(微力ですが)努力していますが、世間一般における環境にたいして優しい行動というのが本質とずれているような気がしてなりません。イメージではなく、実質で環境を考える必要があると思います。当社の手がけているリサイクルでもそうですが、世の中にある「エコ」な商品の多くはイメージが先行している気がしてなりません。リサイクルだから、自然由来だから、素朴な作り方だから環境に優しいとは限らないのです。 
そもそも、現代の日本人の生活というのはエネルギーの大量消費と「化学合成」されたものを含む大量の物質消費に依存しているわけです。この大量消費社会を本質的に変換しなければ、石鹸を使う運動というのは大海の一滴で自己満足の世界に過ぎないと思います。これだけ豊かな生活を送っている日本人が「環境に優しい」なんて言葉を使うというのはある意味皮肉ではないかと思ったりもします。自分も含めて反省をしなければいけないですね。