豚コレラについて

最近、豚コレラについて聞かれる機会が非常に多いです。いろいろな情報が入る立場なので、整理してみたいと思います。
なお、豚コレラは人間には感染しない病気であり、万一食べても影響はありませんので安心ください。

今回の豚コレラで不思議なのは、感染力が強くないにも関わらず、感染が広がっているという点です。
公表されているレポートに出てきませんが、本巣や渥美半島の農場では感染している豚が導入されているにも関わらず、導入されている豚がいる豚房以外では感染した豚がいませんでした。また、豊田の農場では11月ぐらいに母豚が感染していると推測されています。(抗体の上がり方からの推測)にも関わらず、同じ豚舎から出荷された子豚は1月中旬まで感染していませんでした。つまり、同じ豚舎内で作業者が行き来しているような状況であっても、豚同士が接触をしないような状況では感染が起きにくいということは明確です。
それにもかかわらず、多くの農場に感染が広がっているのは非常に不思議です。当然ながら豚舎の中にイノシシが侵入することは想定されず、また各務原や豊田の農場は付近にイノシシがいる環境ではありません。仮に小動物や鳥で感染するぐらい感染力があるようなら、もし感染した場合は農場内全体に一気に感染が広がるはずで感染豚が農場内に遍在するような現在の状況は説明がつかないことになります。

養豚関係者がワクチン接種を望む大きな理由として、このように感染経路が不明確であり、衛生管理を徹底し飼養衛生管理基準を完全に順守することで100%感染を防ぐことが難しいと感じているからです。現に、数年前流行したPEDという伝染病は衛生管理基準を完全に順守しているはずの農水省直轄の家畜改良センターに侵入しています。病気の感染原因によっては衛生管理基準を完全に順守することでも防げないということの証左です。

もちろん、ワクチン接種には様々なデメリットがありそれを理由に農水省は接種に対し否定的です。
デメリットとしてはおもに
・輸出ができなくなる
・現在阻止できている豚コレラ発生国から輸入が増える恐れがある
といったものです。ワクチンを接種すると、「非清浄国」という扱いになり、清浄国へ輸出ができなくなります。また、非清浄国からの輸入は現在はできませんが、その障壁が無くなってしまいます。
しかし、豚肉の輸出額は10億円程度、頭数で約12000頭分と金額的には少なく、仮に輸出が止まったとしても影響は軽微です。また、現在の輸出は香港などが中心であり、非清浄国となっても輸出は可能です。強いて言えば、清浄国であるアメリカやEU諸国への輸出ができなくなるということがありますが、国内の豚はこれらの国に輸出できる競争力は残念ながらほぼありません。
一方、豚の皮の輸出金額は大きく、かっては120億円程度ありました。
原皮の輸出が減ると影響はありますが、輸出先の多くは豚コレラ非清浄国であり、ワクチン接種しても輸出することは可能です。

他方、非清浄国からの輸入が増える恐れがありますが、非清浄国の多くは口蹄疫の非清浄国でもあります。このため、それらの国からは輸入することはできません。アジアでは唯一フィリピンが清浄国でありますが、フィリピンは豚肉の純輸入国であり、輸出余力は無いものと思われます。
もし輸入を阻止したいのであれば、まずは現時点でアフリカ豚コレラが発生している中国から正規の検疫をへて輸入されている豚肉加工品をストップすべきです。あまり知られていませんが、日本は年間1万トンもの豚肉加工品を中国から輸入しています。

このような理由から、私はワクチン接種による非清浄国化は豚肉、原皮などの輸出、輸入に関する制約はすくないものと思います。
むしろ、ワクチン接種する場合、ワクチンの費用負担や接種の労力のほうが影響が大きいと思います。ただ、生産者のほとんどはそれらのデメリットを踏まえたうえでワクチン接種を望んでいます。

このような状況を踏まえ、農水省は壊れたテープレコーダーのように「飼養衛生管理基準の徹底」を謳うだけではなく
1.ワクチン接種に頼らない感染予防が本当にできるのか(感染経路の明確化ができるのか)
2.仮にワクチン接種した場合、輸出入に対しどういった影響があるのかのシミュレーション
を行うべきです。経済動物である以上、リスクベネフィットで判断すべきであるのに、その提示がなされていないことに疑問を感じます。

多くの生産者が不安な心持で過ごす日々が続いています。また、飼料の流通や人の交流など、多岐にわたる影響が発生しています。政府は多くの声に真摯に向き合ってほしいと切に願います。