米騒動とバター不足に見る農業政策

米が足りないことが大きな話題になっています。スーパーも産直もどこも棚がすっからかんになっており、ニュース報道やSNS拡散が不足に輪をかけている気がします。自分は米農家の友達が多いので、無事入手できました。

おかげで米の価格が上がり、米農家の友人達はほっとしているように感じます。ただ、個人的にはこの混乱で価格が上がったことを手放しで喜んでいいものなのか不安に思う部分があります。今回、米の需給がタイトになったのは複数の理由が挙げられています。昨年が猛暑で米の品質が悪く精米時のロスが多いこと、インバウンドでの需要、南海トラフ地震予想による備蓄需要の増加などが理由として挙げられていますが、もっとも根本的な理由として米の生産を抑制するような政策が継続して行われてきたことがあります。

もともと、米の生産量はピーク時は1100万トン以上あったものが現在は700万トン切っています。これは米の消費量が減少を続けることで、かっては減反政策が行われ、現在も転作に対して助成を行うことで生産の抑制を行ってきた結果です。米が余ることは禁忌であり、消費量に応じた生産となるように調整が行われています。田んぼで米を作らず麦や大豆、飼料用の米を作ることに対し補助金が支払われる仕組みとなっています。つまり、生産量を調整することで需給バランスを調整する政策が行われているわけです。

ただ、農業生産は天候に左右される上に、急激な調整が難しい特性があります。また、需要も様々な要因で変動していきます。もちろん米は国家備蓄がありますが市場価格の調整に使う仕組みにはなっていません。結果、少しの需給バランスの変動により価格や流通在庫の変動につながることで今回のような米騒動が発生することになります。

同様の事態は牛乳でも発生しています。牛乳は需給調整を牛の頭数の調整とバターと脱脂粉乳の生産量の管理で行っています。牛乳が余剰になると日持ちがするバターと脱脂粉乳に仕向ける量を増やす仕組みとなっています。しかし、バターと脱脂粉乳では調製しきれなくなり、脱脂粉乳が過剰在庫になったりバターが足りなくなったりという自体が発生します。

そもそも、穀物も牛乳も自給率が100%ではない国で需給の乱れが起きるのは生産調整を国が行う仕組みがうまくいってない証左です。現在のような仕組みがもはや機能していないことはこれまでの多くの混乱事例からも明らかです。今回、米価が上がったことで飼料米の作付け量が減ることはほぼ確実です。食料米の生産量が増加するとまた米が余ることになり、転作に躍起になったり米価がまた下がったりします。このような混乱が発生するたびに結果として農家の疲弊を招き生産基盤が損なわれていきます。

私の友人の生産農家は非常に優れた技術を持っていたり販売がうまかったりして安定した経営を行っているケースが多いです。SNSの投稿を見るに、常に生産方法を研鑽し技術をしのぎ合っています。しかしながら、生産技術の向上には注力していても農業政策についての関心は乏しいように感じます。農家の生殺与奪に与える影響は生産技術より農業政策のほうが間違いなく影響大きい訳ですから、本来は農業技術について学ぶのと同じぐらいの熱意をもってそのあり方を考えて行くべきではないかと思います。

いずれにせよ生産者サイドからも例えば米農家から転作の政策に関する政策提言がある、そんなことがあってしかるべきではないかと感じます。個人的には、グローバル商品である米や乳製品は国家管理での需給調整はもはや困難であり、農家への直接支払い(所得補償)により農産物価格を引き下げ、民間ベースで輸出入での需給調整を行うことが現実解ではないかと思っています。これが正しいかはわかりませんが、全農の米の価格決定方法に対してだれも疑義を唱えてないのは正直不思議です。所得補償には大きな予算が必要となり簡単にできるものではありませんが、本来は農水省予算水準が適正かどうかも含め議論していくことが重要だと感じます。

同じような政府の介入が大きい牛乳においても、酪農家は牛乳の乳価決定プロセスを知ることができず、加工乳補給金(価格の安い加工乳向けに出荷した際にでる補助金)の算定方法も把握していないケースがほとんどです。

農業生産を向上させるためには需給や価格決定のプロセスをどうするかが非常に大きな要因であり、それに触れず生産技術の向上に取り組んでも片手落ちではないかと思います。生産者はもちろん、消費者も農業政策が日常生活に大きな影響を与えることが実感できた今回を契機にもっと農業生産に関わる政策をどうしていくか議論することが必要かと思います。

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