久々の更新ですっかり旬を過ぎているような気もしますが、TPPについて少し雑感を書いてみたいと思います。
ご存じの通り、TPPの内容がまとまり公表されました。政府発表によると、影響は軽微とのことですが、私はそれなりに影響が出るのではないかと思います。
たとえば米。8万トン弱の輸入枠が設けられました。これは米の生産量の1%程度に相当します。これだけを見るとたいした量では無いと思われますし、また政府は輸入量相当を備蓄米として買い上げするという対策を発表しています。
ところが、今回の合意内容では米粉調整品の関税が削減または撤廃されています。
米に限らず、現在の貿易は非常に複雑となっており、原料の輸入だけではなく半製品の輸入が多くあります。たとえば味淋はほぼ国内で生産されていますが、海外で海外産の米を使用して半製品であるもろみをつくり、国内で絞ることで国産味淋として流通しています。小麦や小麦粉は関税が高いですが、ミックス粉では関税が低くなります。このため、アメリカ産の小麦をFTA締結をしている韓国でミックス粉に加工し、輸入するという方法が行われています。
単純に原料そのものだけ「聖域」として保護しても、加工品規制を撤廃すれば国内マーケットへの影響は確実に出てくるものと思います。
そもそも、影響が軽微だと公表しておきながら対策をするというのは影響が軽微でないと政府が考えている証左です。トータルの関税収入が下がるわけですから、その分国内への価格波及は当然起こりえます。
ただ、私はこのグローバル化が進んだ社会において関税で国内産業を保護するということはもともと無理筋であると思っています。先に挙げたような関税逃れの手法はいくらでもあり、その規制はいたちごっこであり、防ぐことは容易ではありません。TPP自体はメリットがあるとは思えませんので推進する意義は無いと思いますが、TPPに仮に参加しなくともグローバル化は確実に進行していくものと思います。
今回、様々なTPPの対策案がメディアに取り上げられています。しかし、農業分野のメニューを見ていると場当たり的で、本当にこれで国内農業の振興につながるとは思えません。
まず一番重要なのは国内農業をどのような位置づけで保護していくのか、長期的なビジョンを明確に打ち出すことが必要だと思います。そもそも、国内で農業生産を維持していくべきなのか、そこすら方針が明確になっていないように思います。
私は、農業は文化の根底であり、社会を構成する基礎となっているものなのでその維持は必要なものであると考えます。cultureは耕すことであり、agricultureにもcultureが含まれています。
しかし、現在のようにただ設備投資に助成が出たり、価格の補填をする政策は農業生産の自由意思を阻害し、結果農業競争力を弱めていることは間違いないと思います。日本の農業で国際競争力がある分野は、鶏卵、野菜など保護措置がほとんどない領域であり、保護が充実している米や牛肉の競争力が低いことは皮肉なものです。
特に穀物などでは諸外国でも所得補償政策が行われているので、対抗上助成を行っていくことは必要悪であると思います。しかし、現在特に米や牛乳などで行われているようなマーケットに過度に介在する政策は制度矛盾が発生することが避けられないので、もっと単純に販売価格に応じた所得補填(補償ではなくて)を行うべきであると思います。
たとえば、米は飼料米を作ることで多額の助成が出ます。ところが、飼料米の流通体制が整っていないため生産された米がうまく流通しない事態が発生しています。これは、「飼料米を生産すること」に補助を出しているために発生しているわけです。もっと単純に、米の販売金額に応じ単純に所得補填を行うようにすれば、米の生産が増え市場価格は低下し、輸出や加工向けなどの用途への展開が進みます。仕向先のコントロールを政府が行おうとするから矛盾が生じるのです。
今回のTPP対応で、特に牛肉と豚肉は政府の介在が大きくなります。このことが吉と出るか、凶と出るか。よき日本文化の維持発展につながるような政策が摂られることを願います。