事業を始めて12年、豊川に住んで7年になりました。愛知県は大きく尾張、知多、西三河、東三河にわかれ、豊川市は東三河に属します。東三河は名古屋から遠いこともあり、愛知県内でも独自の文化経済圏を築いています。東三河には事業を始めるまで縁がなかったのですが、住めば都、東三河弁にもすっかり馴染んできた気がします。余談ですが、全国的には愛知県というと名古屋弁というイメージがありますが旧国が異なる三河は言葉がかなり違い、また東三河は西三河とも若干言葉が異なりどちらかと言うと浜松あたりの遠州弁に近いです。(「だがや」とか「どえりゃー」という言葉はほぼ使いません)
豊川市は人口18万人、愛知県東部に位置し、戦前の海軍工廠の流れをくんで工業生産が盛んな地域です。もともと、日本車輌、ミノルタ(現コニカミノルタ)などの工場があり、また近年は自動車関連の工場が増え、その下請けの工場も多く存在しています。これらの工場は豊川市内全域にあり、いくつかの工場団地も存在します。こういった小さな工場や貸し工場がたくさんあるのが豊川市の特徴です。
当社が東三河に居を構えることになったのも、小さな貸し工場があったからです。
しかし、近年は工業生産にも陰りが見えているように思われます。コニカミノルタでは以前はコピー機などが生産されていましたが、近年は海外への生産移管が進んでいます。日立のコンピュータ製造工場もありましたが、事業の撤退に伴い工場も閉鎖されてしまいました。スズキ自動車は豊川工場があり、二輪車の生産を行っていましたがこちらも閉鎖が決まっています。スズキの工場は当社のすぐ近傍にあるのですが、今は出入りするトラックも少なく閑散とした様子です。
そんなスズキの工場の跡地にイオンモールができるという話が持ち上がっています。新聞報道などでは、すでに既成事実として語られています。
しかし、実はイオン建設予定地は本当はショッピングモールを作ることができない場所です。用途地域が工業専用地域であるためです。
用途地域というのは、「都市計画法の地域地区のひとつで、用途の混在を防ぐことを目的としている。住居、商業、工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、第一種低層住居専用地域など12種類がある。(Wikipediaより)」というもので、不動産広告などにも記載されています。工業専用地域はその名前の通り、基本的に工場以外の建設ができないことになっています。しかし、用途地域は市町村によって変更が可能であり、今回はイオンモールができるようにするために豊川市が工業地域の指定を外す処置をすることを想定している模様です。
イオンモールができると言う話が広まっていたのは、スズキの撤退が報道されるようになった頃です。その頃からスズキ自動車は工場跡地をイオンに売却することを計画していたようです。豊川市はスズキ自動車から打診を受けていた模様ですが、どのような交渉がおこなわれいるかは開示されていません。私は今年の正月の賀詞交換会で豊川市長にどのような交渉過程状況なのか聞いてみたのですが、「守秘義務契約があるので」と説明はありませんでした。
おそらく、スズキ自動車としては工場用地として販売するより土地価格が高いショッピングモールへの売却を希望しているのではないかと推測され、それは民間企業としては当然の行為です。豊川市はスズキ自動車の意向に沿って用途地域の変更を行なう方針です。(先だっての賀詞交換会で市長は「スズキさんがイオンに売りたいと言っているから」とおっしゃってました。)
しかしながら、行政当局としては地域にとって最善の土地利用を考えることが責務です。今回の土地が、工場用地として売却される場合と、ショッピングモールに使われる場合とどちらが地域にとって良いかを考え、それに基づき対応することが必要です。
豊川市は用途地域という強力な権限があるわけですから、「ここは工業専用地域なので、ショッピングモール建設はできない」とスズキ自動車に通告することもできる訳です。
私も試算を行ったわけではありませんが、一般論としては工場は多くの付加価値をうみ、それが地域経済に環流することで地域の発展を生みます。ショッピングモールの生み出す付加価値額は低く、しかもその付加価値の多くはモール運営者に渡り地域に落ちるお金はごく一部に過ぎません。
私が今回の一連の流れで疑問に思うのは
・本来、工場である用地をショッピングモール建設ができるように用途地域変更を行う経済効果を比較検討していないこと
・スズキ自動車との交渉プロセスが開示されていないこと(市議にも不開示)。秘密保持契約の必要性、内容が開示されていないこと。(秘密保持契約は不要ではないか)
・撤退する工場に対し、配慮(いわゆる忖度)する理由が明確でないこと
といった点です。もし、第三者の検証により工場ができるよりショッピングモールができるほうが経済効果が高いなら現在の方向性には賛同しますが、そう言った検証が行われず、行政内部で秘密裏に決定がされていくことに非常に憤りを感じます。また、交渉がうまい民間企業に対し、経験がすくない行政当局が果たしてまともな交渉ができているのか、不安があります。
なお、実際、現在標高が高い地域の工場団地は人気であり、豊川市でも先だって販売した工業団地は半年で完売しました。私の知り合いの工場経営者でも工場用地を探している人が何人もいます。また、今回のスズキ豊川工場は交通の便が非常に良く、工場用地として販売してもすぐうれることは間違いありません。
我々民間事業者は、税金も補助金も常にエビデンスを求められています。行政の意思決定においても、「なぜこのような政策をおこなっているのか」を説明できることが必要であり、それができないの市民、国民に対する背任行為であることを自覚して欲しいと強く願う次第です。