財務の分析

相変わらず慌ただしい日々を送っていますが、気がつくともう11月も後半で、年の瀬も迫ってきました。
当社は12月末決算なので、決算数字が見えてきたところです。事業を始めてから1年過ぎるのがあっという間で、本当にすぐに決算になってしまうことに驚くばかりです。

現在は決算に向けて財務諸表をみながら来期の計画を練っています。経営者の役割として、資金の調達と調達した資金の配分を計画することが重要な仕事です。社長を10年もやっていると、決算書をながめていろいろなことが見えるようになってきました。

私はいろいろな経営者向け勉強会に参加しています。財務の勉強の機会も多くありましたが、案外勉強会に参加するような人でも決算書が読めない人がたくさんいます。肌感覚的には、中小企業経営者できちんと決算書が読めるのは2~3割では無いでしょうか。

決算書が読めたらすぐに儲かるようになる訳ではありません。あくまでも現状の把握に過ぎません。でも、現状把握ができなければ将来の道筋を立てることができません。かっての高度経済成長時代では、とにかくがんばれば結果がついてきたかもしれませんが、マーケットの大きな拡大が見込めないこの時代では繊細な舵取りが求められています。
以前、ある勉強会で「決算書は社長の経営の性格がでる」というお話しを聞いてなるほどと感心したことがあります。どうやって資金調達し、その資金をどのように投資して、どういった結果が得られているかが会社の通信簿として出ているのが決算書ではないかと思います。

会社の経営状況について税理士に相談している経営者をよく見かけます。税理士は税金を適切に納税するのが仕事であり、経営の状況を把握することは資格の範囲に入っていません。もちろん、経営コンサルタント的に経営相談を受けるスキルを持つ税理士の方は多く見えますが、それは資格とは無縁なものです。また、コンサルタントは様々なアドバイスや手法を提供してくれますが、会社のことを一番よく知っているのは経営者自身であり、特に投資計画は経営者が判断すべき事項であるかと思います。「こういう機械を買ってもいいか?」と税理士に聞くのはナンセンスです。

私は事業を始めて数年間は自分で記帳をしていたので、会計の知識がつきました。その後、本を読んだり勉強会に参加して決算書を読むことができるようになりました。決算書を読むと言ってもそれほど大仰なことではなく、四則演算ができればだれでもできるものです。それを「自分は数字には弱いから」と言って勉強しようとしない経営者が多くいるのは残念なところです。

分析をすればするほどわかるまだまだ不十分な自社の経営も、数字把握により改善し、目指す方向に進めていきたいと思っています。

 

「農業改革」の矛盾

イベント、展示会、講演の講師などなどの予定がめじろおしですっかりブログ更新を怠ってしまいました。
もちろん本業も忙しくしています。最近は肥料関係の仕事がまた増えてきており、受発注処理にも追われる毎日です。

と言うわけで、当社は肥料、飼料などの農業資材を扱っています。そう言う立場から見ると、現在マスコミを賑わしている農業改革には非常に疑問を感じています。

こんなニュースがありました。
<自民党>小泉流改革、正念場…「本丸」農協、農家の反発も
自民党の小泉進次郎農林部会長は3日、11月中にもまとめる農業改革の「骨太の方針」に反映させるため、仙台市で農業関係者と意見交換した。・・以下略
この記事によると、”農協改革を「改革の本丸」と位置づける小泉氏の方針”とあります。現在の日本の農業が厳しい状況に置かれていることは間違いない事実ですが、ではそれはそもそも農協の存在のせいなのでしょうか。

以前も投稿しましたが、農家という個人、零細事業者がマーケットと対峙しているためには農協は必要な存在です。資材を共同で購入することで安価に調達が可能になり、出荷を共同で行うことで市場での存在価値を出すことができます。きちんと仕事をしていない農協が多くあることは事実ですが、農協のプレゼンス低下に伴い商系(非農協系)が台頭しており農家にはその選択の自由があります。小泉氏は「農協よりホームセンターの方が肥料が安い」と批判していますが、ホームセンターの方が安ければホームセンターで買えばいいだけの話であり、現在の議論は「吉野家よりすき家の方が牛丼が高い」と政府が批判するようなものです。
そもそも、農協のあり方の問題は農協という存在に起因するものでは無く、多くの原因は肥大化した組織にありがちなセクショナリズムと事なかれ主義にあります。ので、組織運営がきちんとできている農協は存在感があり、運営が官僚化している農協との差が開いてきているわけです。

現在の農業の根本的な問題は、マーケットに介在しすぎる農業施策に根本的な原因があると私は考えています。業界として保護が手厚い米、牛肉、牛乳などの分野の方が競争力が低く、政府保護がほとんど無い野菜や鶏卵のほうが競争力があるのはその証左です。補助メニューが微に入り細に入り作られており、農家の思考を奪っているように思います。
たとえば「子牛に乳酸菌製剤を与える」のに補助が出ていたりしますが、子牛の健康管理のメニューまで補助金で誘導する必要があるかはなはだ疑問です。

本来、農業改革を標榜するならばこれまでの農業政策(そのほとんどが自民党政権下で行われてきたものであるわけですが)の反省と総括を行い、農業保護の仕組み、あり方の大枠フレームをまず議論していくべきであって、資材価格などの重箱の隅をつつくような話でマスコミの耳目を集める作戦は単なる選挙向けのパフォーマンスにすぎず、農業を変えることにはなりません。
郵政民営化、道路公団民営化でなにか変わったかを見てみれば、「農協改革」の行く末も容易に想像できることかと思います。

では、どんな農業施策を進めていくべきなのでしょうか。私は農業政策は所得補償政策に行き着くしか無いと考えていますが
詳しくは別のエントリーにて投稿したいと考えています。

これは農業だけに限ったことではありませんが、理念があり、ビジョンがあっての戦略、政策であるべきです。将来のビジョンが不明確なことが日本の閉塞感の根本原因になっているような気がしてなりません。明確なビジョンが打ち出され、安心して事業を営み、生活ができる日本となって欲しいと願ってやみません。

動物性タンパク質の効果

すっかり更新がご無沙汰になってしまいました。相変わらず書類の締めきりに追われる毎日です。

忙しい毎日で子供の相手もあまり出来ませんが、予定が無ければ朝食は子供と一緒に食べています。最近は好き嫌いがはっきりしてきて、キュウリやピーマンを食べさせるのに苦労しています(^^)キュウリは嫌いですが、肉や乳製品、特にチーズが好物で、ブルーチーズでもなんでももりもり食べます。

 

豚の飼料でも動物性のタンパク質を与えることがあります。ただし、昨今は動物性タンパク質をあまり使用しなくなってきています。大きな理由として動物性タンパク質原料の高騰です。魚粉は需要の増加と漁獲量の低迷が相まって高値安定状態になっています。脱脂粉乳なども需要の増加で一時はかなり国際相場が高騰しました。

また、BSE以降、動物性タンパク質の給与に関しては使用に制限がかかる原料もあることも要因のひとつです。

このような背景で、市販の配合飼料のうち特に出荷間近の豚にあたえる飼料はほとんど動物性タンパクが使用されていません。魚粉を給与すると肉ににおいが移行する傾向にあります。個人的な意見として、魚粉が原因と言うより、魚粉に含まれている脂肪の影響が大きいと思っています。したがって全国的に豚肉がにおいが少ない、あっさりとした脂のものが多くなっていいます。

一方、子豚の飼料には動物性タンパク質が使用されているものが中心です。脱脂粉乳や魚粉などが飼料原料として利用されています。理論的には飼料はアミノ酸のバランスがとれていれば問題ありませんので、大豆由来のタンパク質であってもアミノ酸のバランスを補正すれば動物性タンパク質と同等であるはずですが、実際には動物性タンパク質の方が増体がよい傾向にあります。特に子豚の段階での発育は非常に重要であるため、高価格な動物性タンパク質が原料として利用されています。動物性タンパク質が優位である理由として、嗜好性がよいこと、消化率がよいことなどがありますが、それだけでは説明できない部分があります。
当社でもゆで卵の廃棄品や脱脂粉乳(のB品)などを飼料原料として取り扱いしており、子豚の飼料として活用しています。未利用な資源は多くありますが、適材適所で有効活用していくことが必要かと思います。

ゆで卵

廃棄ゆで卵

飼料を取り扱うなかで栄養学が発展してもまだまだわからないことが多くあることを知り、生き物の奥深さを感じます。うちの子供はチーズが好きな割に身長が低めなのもどうなっているのだろうと思う今日この頃です(^^)

エコフィードの保存性

ここ数年来、東京ビッグサイトで行われる環境展に出展しています。東京で4日間の展示会は営業担当者が私一人の当社にとって結構負担も大きいのですが、ビッグサイトだけに多くの方の来場を頂けるので継続して出展しています。おかげで毎年5月は非常に忙しく過ごしており、ブログの更新も滞りがちになっています。(言い訳ですが・・)

展示内容は毎年あまり代わり映えもせず、食品工場でのオンサイト処理に関するものです。オンサイト処理とは、食品工場で食品廃棄物を処理するシステムのことです。腐敗しやすい食品廃棄物も現場で処理を行うことで、長期間の保存が可能となり、飼料としての利用が容易になります。例えば、以前も投稿しましたが当社ではビール粕のリサイクルに取り組んでいます。ビール粕も適切な処理を行わなければすぐに腐敗変性してしまいますが、処理を行うことで高品質な飼料となります。

展示会ではよく、「保存処理とはどういった処理をするのか?」というお問い合わせをいただくことがあります。食品工場から排出される食品残さは、業種によってももちろん異なりますし、工場によっても差異があります。このため、現場によって処理方法を変えることが必要です。当社はこれまでの実績でノウハウを蓄積しており、コストをできるだけかけず、品質を確保できる手法を選択しています。

たとえば、当社ではもやしをサイレージ化して飼料にする実績が多くあります。もやしは高タンパクであり、遊離アミノ酸やカルシウムを多く含むため緩衝能が高くpHが下がりにくい傾向があります。密閉保管しておけば乳酸発酵も行われますが、それだけではpHが十分に下がらないため品質が不安定になります。このためもやしの保存処理はギ酸を添加する必要があります。

他方、同じ野菜加工残さでもゴボウの場合はギ酸の添加は不要です。ゴボウは想像に反し糖含量が高いため密閉保管することで容易に乳酸発酵がおきます。このため、サイレージ化は比較的容易です。

廃棄ゴボウ
廃棄ゴボウ

無論、乾燥処理を行えば安定した品質のものができます。しかし、高水分の食品廃棄物の場合、乾燥処理のランニングコストが高くなるため乾燥処理は事業収支が厳しいケースが多いです。製造される飼料の価格も踏まえ、乾燥処理を選択することが重要になります。

また、当社では保存処理を行うだけでは無く、飼料としての有効性を確認するために各種分析も実施しています。上記のゴボウも共同研究先の大学で消化性試験を実施し、飼料価値を見いだしています。

様々な原料を扱うに当たっては、科学的なアプローチを駆使することが求められます。仮説を立て、実験し、そして実用化することで食品メーカーにも畜産農家にも喜んでもらえる飼料ができる、この一連の新たな価値を創出するプロセスはとてもやりがいがありますし、おもしろくもあります。これからも新たな価値創出をめざし取り組んでいきたいと思います。

 

農業におけるシステムの導入

新年度も始まりましたが、相変わらずバタバタと落ち着きの無い日々を過ごしています。当社の決算は12月なので、数年前までは年度末と言っても関係なかったのですが、最近は補助事業をいくつか取り組んでいますので年度末、年度初めの書類作成が多く追われる日々です。

そんな中で、当社では販売管理システムを導入することを検討しており、システム導入の費用に充当すべく補助事業の書類を作成しています。最近、業務拡大に伴いお客さまとの取引件数が増加してきており、どうにもこうにも手が回らなくなってきたので業務効率の向上をはかるためにシステム導入を検討している次第です。手書き伝票とFAXで処理することの限界を感ている今日この頃です。

零細企業である当社が販売管理システムを導入するのは大きな投資ですが、顧客情報の集約化により業務効率の向上だけではなく、データ分析により次の仕事への展開を図っていきたいと思っています。これからの時代はシステムをいかにうまく使いこなしていくかが求められています。

最近、当社のお客さまである農家でもシステム導入が徐々に進んでいます。たとえば、稲作オペレータ向けのクラウドシステムでは、圃場とGPS位置データをひもづけし、それぞれの圃場での作業履歴、収量データなどを蓄積できるような仕組みがとられています。それぞれの田んぼでどんな作業をし、どれぐらい収穫したかを記録することでそれぞれの田んぼの成績がきちんと把握できるようになるわけです。いわゆる「見える化」というやつです。作業効率が悪い圃場、収量が劣っている圃場(さらには作業効率が悪いスタッフ)がどこなのかが一目瞭然になるということです。

豊作計画
豊作計画

事業の改善には現状の成績を正確に把握することが非常に重要です。現在の成績把握がその次の「カイゼン」につながります。自社内での比較、さらには他社との比較をすることで今の立ち位置が明確になるわけです。

 

同様のシステムは畜産農家向けのものもあります。畜産農家も個体の成績を把握することで、成績改善、事業収支の向上につなげることができます。たとえば、豚屋さんでは母豚あたりの離乳頭数、離乳体重、出荷日齢、日増体量、投薬履歴、飼料給与量といった項目を管理することが求められており、これらの管理項目をクラウドを利用してデータを蓄積すると言ったことが行われています。

ただ、システムは非常に大きな武器ではありますが、所詮は道具であり手段に過ぎません。本当に成績がよい農家は紙ベース、Excelベースでもデータをきちんと残す習慣があり、データから分析を行なう事を実践しています。Excelでも使いこなしようでは強力なデータベースとして利用することができ、当社のお客さまでもExcelに過去のデータをすべて入力して、成績の推移を把握されている方がみえます。
逆に言うと、今まで記録するという習慣が無い人がシステムを入れたからすぐに記録するようになるかは怪しいところです。記録する習慣が無ければ、いくらシステム導入しても結局は記録を残すことは無く終わってしまいます。(昔からの真の職人気質の方は記録すること無くあらゆるデータを記憶されていることがありますが・・・。)システムは便利な道具ではありますが、目的では無いことを念頭に置くことが重要です。また、単に記録するだけでは無く、それを比較分析する能力も必要となります。

これは、農業だけでは無く、あらゆる分野においても言えることかと思います。データ記録する習慣を確立し、いかに記録を活用していくかがこの激動する社会情勢で生き残っていくために求められています。当社も自社の立ち位置を把握し、次への戦略を打ち出すことができる企業になれるように努力していきたいと思います。

産廃業者はブラックな存在なのか

相変わらず慌ただしい日々を送っています。常に締めきりのある書類を抱えているという状態がここ数年来続いており、少々疲れ気味です。仕事することは楽しいのですが、たまにはTODOリストが空になって欲しいと切に願う今日この頃です。

忙しい理由の一つは、カツの横流し事件をきっかけに、当社の取引先の食品メーカーの担当の方が監査のため当社に来社される機会が増えたためです。以前書いたように、お越し頂くのは歓迎なのですが予定が埋まってしまいスケジュールがタイトになっています。

しかし、立ち入り監査をしても、24時間見張っているわけに行きませんから本当に悪意を持っている業者がいた場合、今回のような事件を防ぐことは困難です。
実は、廃棄物業界は構造的にこのような犯罪がおきやすくなっています。それは、産廃業者がブラックというわけではなく、廃棄物の取引の形態に起因するものです。

一般の商取引の場合、商品やサービスの引き渡しと引き替えに対価が支払われます。つまり、商品、サービスとお金が逆方向の流れになります。ところが、廃棄物の取引の場合、商品(廃棄物)の引き渡しとあわせて対価の引き渡しが行われます。つまり、商品とお金が同じ方向に流れるわけです。

商品の流れ

一般的な商取引の場合お金を支払った側にはサービスや商品が渡されるため、もし商品に瑕疵や不正があった場合には発覚が容易ですが、廃棄物取引の場合、お金を払った時点で手元から商品(廃棄物)が無くなってしまうため仮に不正があったとしても発覚しにくいことになります。このため、不正が起こりやすい環境にはあります。
食品の産地偽装などが散発しているのも、同様に確認するすべがないため発覚しにくいことがその一因かと思います。
また、このようなものの流れがあり、品質が悪くとも排出事業者には直接的な影響がないため、とかく安ければいいという風潮になりがちです。このことも今回の事件の一つの理由かと思います。

逆に、廃棄物はこのような特色があるため、許可取得には高いハードルがあり、また不祥事を起こすと許可取り消しなどの厳しい処分があります。廃棄物業界は不正を行う=即利益という性質があるために許認可に際しては法知識を有することを求められるのはもちろん、財務内容などの審査も行われます。

また、廃棄物の処理に関しては必ず契約書を締結することが法で義務づけられています。不正が起きないように契約面でも担保しようという意味もあります。今回の横流しは廃棄物処理法での立件はかなり厳しいものがあると思いますが、契約に違反していることは明らかです。

産廃業界に足を踏み入れた頃よく、産廃業界って悪い人がいっぱいいるのでは無いか?と聞かれました。許可取得に際しては警察に暴力団関係者で無いことの照会がおこなわれますし、先に述べたように許可取得もかなりハードルが高いため世間一般の人がイメージするようなブラックな業界ではありません。今回のような事件を起こすのはごく一部の業者であることを強調しておきたいと思います。

食品廃棄物の横流しに関する業界人の意見

例によって更新を怠っているため書こうと思っているネタがたまっているのですが、世間を騒がしている廃棄カツの事件についてお問い合わせが多いので業界人の立場からすこし書いておこうと思います。

まず、世間の皆様に最初にご理解頂きたいのは、ほとんどすべての廃棄物は適正に処理されており、今回のような事件は非常にレアケースであると言うことです。日本では食品廃棄物は2000万トン弱の発生量が推定されており、その中には今回ような製品も多く含まれています。仮に横流しが横行しているようでしたら、もっと大変な量が出回っていることとなります。

また、産業廃棄物処分業は非常に厳しい規制があり、今回のような問題が発生すれば間違いなく事業を続けることができません。許認可を受けるためには法律を含んだ講習を受講することが義務づけられており、廃棄物業界の人は「なにをやったら違法なのか」ということは十分承知しています。

加えて、今回のような冷凍食品は取り扱いが難しいため、横流しすることはきわめて困難です。(廃棄物の収集運搬車で冷凍車はほとんどありません)食品として買取したいというブローカーが暗躍しているという一部報道があったようですが、少なくとも当社に食品として買い取りしたいと言って来た人間はいません。普通に考えて産廃業者からまともな「食品」が出てくるわけがありませんから、それを買おうと思う人間は相当な確信犯であり、そういう人間が多いとは思えません。

なお、産業廃棄物として受け入れたものを有価売却すること自体は法に問われるかどうかは微妙です。たとえば解体工事で出てきた鉄筋はスクラップとして販売されることが普通です。問題なのは、「食品として使えないから処分したい」という依頼に対し「堆肥として処理する」という契約を締結しているにも関わらず「食品」として転売したという点にあります。
今回の事件ではマニフェスト(産業廃棄物管理表)に虚偽記載がされていたわけですが、これは不適正な処理を行ったから正確な記載ができなかったという結果であり、原因ではありません。

なお、今回の事件で私が一番おかしいと思うのは、少なからず「法制度に不備があったからこのような事件が起きた」「監視体制が悪かったから」などの報道が行われているという点です。
なにかを委託するなどの取引の場合、どれだけ厳しく法律などで縛っても悪意ある人間がいた場合不正を100%防ぐことは困難です。

たとえば、新聞記者は記事のねつ造をしたり、マスコミがやらせをしたりすることは本当に悪意ある人間がその気になれば簡単にできてしまいます。監視やチェックだけで防ぐことは無理で、良識と常識によって担保されているに過ぎません。

日経新聞にこんな記載がありました。記者の知見があまりにお粗末なので無断転載します。

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「廃棄カツ、なぜ食卓に 自己申告悪用浮き彫り」 2016/1/20 2:02

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD18H47_Z10C16A1CN8000/

性善説で運用

ダイコーはマニフェストにうその情報を書き込んで廃棄食品を処分したように装っていた。壱番屋は処分結果をマニフェスト上で確認しただけで、実際に堆肥にしたかは確認していなかったという。ダイコーの自己申告であり、記録だけ見ても不正を見抜くことはできなかった。壱番屋の担当者は「報告通り、処分したと信じていた」としており、廃棄物を産廃業者に委託する際の対応を厳格化する再発防止策を発表した。

廃棄物処理法は、委託先が契約通りに処理したかについて、処理を発注する事業者が、立ち会い確認などすることを努力規定としている。いわば、廃棄物処理は処理業者がうそをつかないことを前提とした「性善説」で運用されているのが実情だ。愛知県の担当者は「発注元はできる限り、実地確認をしてほしいが、マニフェストには第三者のチェックが入らず、うそを見破るのは難しい」と話す。

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実地確認したって24時間張り付いているわけではないので限界がありますし、仮に24時間張り付いていたとしても本当に悪意ある人間は防げません。先に述べたようにすでに法律が厳しく運用されており、行政の立ち入り検査も頻繁にあります。一般的な商取引よりはるかに厳しく監視されている状態ですらこのような事件を行うのは相当な確信犯であり、そういった人間を規制や監視で防げると思うのがおかしいです。世の中は社会システムは基本的に性善説で運用されているわけであり、むしろ産廃業界(や食品業界)は疑われやすい業界であるが故に一般的な事業と比較し監視体制が厳しく行われています。中国ならいざ知らず、相手が不正を行うことを前提で商取引を行う業界が日本にあるのかと言う話です。先に述べたように新聞記者の記事もいわば性善説で書かれているわけですから、この事件で「性善説で運用」なんて見出しをつける日経記者の思考回路は相当一般社会常識から乖離していることは間違いないでしょう。

今回に限りませんが、食品になると鬼の首を取ったように大騒ぎするマスコミの姿勢には本当にうんざりです。そもそも廃棄品が出たのも異物混入などの事件でマスコミが繰り返しあおり立てるためむやみに廃棄品が増えているわけです。(おかげで業界及び当社の仕事は増えていますが)本来、健康被害が出る恐れがないものに関しては回収や廃棄する必要はないと思いますが、センセーショナルな報道やそれに影響された一部の消費者により異常なほど食品業界の規格が厳しくなっています。仕事を長くやっていると当たり前のようにそのような廃棄品を受け入れていますが、いまなお飢えた人がいる社会の中でほんとうにこれで本当によいのか、時々自問自答する日々です。もちろん当社では今回のように食品として流通させることはなく飼料、肥料としてリサイクルしているのですが、食べるのに全く問題無いものを家畜飼料にすることに背徳感を感じることもあります。

マスコミの皆さんは本質的になにが大事なことかよく考え報道を行っていただきたく思います。報道機関には耳目を集めることだけを考えるのでは無く、これからの社会構築に必要なことを報道することが求められています。

年頭所感

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

今年は正月の休みの並びがよく、1日から3日まで会社はお休みとすることができました。当社は年間通じて土日休み、祝日完全出勤で土日以外の休みは元旦のみです。なお、年間休日は105日と休みは少ないですが、1日7時間勤務なのでブラック企業という範疇には入らないと思っております(笑)

元旦

短い休みですが、当社は12月末が決算であり今期以降の事業の組み立てをいろいろと思索しています。残念ながら、昨期は自分としては不本意な内容でした。これも、社長の力量の至らなさによるものと思っています。今期は昨年の反省を踏まえ、たしかな事業進展を目指していきたいと考えています。

このごろ事業を行っていく上で、会社の存在意義の重要性について強く感じています。当社はリサイクルという事業を行っており、社会において無くてならないものであると自負しています。しかし、飼料、肥料という製品として製造しているものの、そのニーズは不安定であり付加価値の創造はまだまだ不十分であり、事業の存在意義は脆弱であると思います。
リサイクルによって製造される飼料、肥料はバージン素材が安価であるため、どうしてもリサイクル製品の価格はそれよりも低く抑えられてしまいます。たとえば、輸入された飼料用トウモロコシは1kg30円程度であり、鉄や石油より遙かに安価です。
存在意義を高め、事業の継続発展を目指すために、更なる川下である農業分野にも参入を行い付加価値の確固たる確立を行っていきたいと考えています。例えば、生産者が販売する価格は豚肉が1kg500円、牛乳は1L100円であり、しかも普遍的な価値を持つものとなっています。高いノウハウが要求される農業への参入は簡単ではないことは十分承知していますが、難しいからこそやりがいがあると感じています。

他方、これからの日本の農業はTPPをはじめとするグローバル化の影響が増大していくことは間違いありません。しかしながら、ファンダメンタルズとしての世界人口の増加による食糧供給の不安定化は確実な将来であり、日本の相対的な国際競争力の低下により食糧の供給に対する存在意義は増大していくことと考えています。

ドラスティックに変化していく社会の中、中小ベンチャー企業が世間の荒波のなかどう進んでいくか非常に繊細な舵取りが要求される時代となっています。社会の中で確かな存在意義を確立するとともに、当社の事業を通じすこしでも社会変革を行えることができたらという壮大な野望を持ち、今後の事業を進めていきたいと思います。

対照区の重要性

恒例となった年末の北海道出張(忘年会とも言う)から戻って来ました。連日の宴会ですっかり弱った感のある胃腸を年末年始に向けて復調させる必要を痛感しておりますw

数年来毎回参加しているTHE EARTH CAFE忘年会は農業関連を中心とした様々な業種の集まりです。ともすれば異業種交流会はただの営業名刺の交換会になりがちですが、この会は崇高な目的(言い過ぎか?)の基に集まっている方が多く、非常の有意義な会話ができます。

忘年会
忘年会

忘年会の前にはプレゼンが行われます。毎年そちらもお話ししているのですが、私は汚泥発酵肥料についてというテクニカルなお話しをしました。汚泥発酵肥料は非常に面白い特性を持つ有益な肥料であり、その特性を当社が実験を行っている名古屋大学附属農場での試験の結果を交えてお話しさせていただきました。

汚泥発酵肥料の特性についてはまた改めて書かせていただこうかと思いますが、プレゼンではテクニカルなこととは別に対照区の重要性についてもすこしお話ししました。

対照区(対象区ではありません)とは、たとえば新しい肥料の実験を行う際、従来のやり方の処理区と新しい肥料の処理区を設けるような手法をいい、この場合新しい肥料の処理区は「試験区」、従来の肥料は「対照区」ということになります。

比較試験をするのはあたりまえのこと・・・と思われますが、我々の日常生活でなにか試みる際にも対照区をきちんと設けることができていないことが多々あります。例えば「ダイエット食品を食べるとやせるのか」というような疑問があったとしても、我々はダイエット食品を食べる自分と食べない自分を作ることはできません。仮にダイエット食品を食べ始めて食べる前と比べてやせたとしても、それはもしかすると一緒にライザップをはじめた効果かもしれません。つまり、我々はダイエット食品を食べる前と食べた後で他の条件が変わっていないという前提の元に判断しているのですが、その前提、「他の条件が変わっていない」という前提が崩れてしまったらその結果は何の意味も持たないことになります。

 

ひるがえって、農業の場合、天候などによる影響が非常に大きく、毎年、毎作同じような栽培を行うことは困難です。畜産分野でも疾病や環境の影響でさまざまな状況が大きく変化しますので、長期間にわたり同じ環境に維持していくことは簡単ではありません。そういった状況下で、たとえば新しい資材や肥料、飼料などを全面的に使用してしまうと、果たして効果があったかどうかは全くわからなくなってしまいます。

たとえば肥料でしたら畑の一部だけ施肥し、飼料でしたら一部の家畜だけ給与するなどの方法により比較することで、その効果がはじめて明確になります。農業は生産者の経験が非常に重要であり、熟練した農家は生産物に対し、きめ細やかな観察眼で接しその変化を見逃さないことは言うまでもありませんし、そのことを否定するつもりはありません。しかし、対照区を設け、比較試験を行なう事で観察眼がより発揮されることもまた間違いの無い事実です。特に、四季のはっきりとした日本では対照区を設けることがとても大きな意義を持ちます。

 

当社の取り扱っている肥料、飼料はその品質、内容には自信があります。ぜひ対照区を設け、試験をしてその良さを実感して欲しいものと思います。(宣伝です^_^)

TPPの影響

久々の更新ですっかり旬を過ぎているような気もしますが、TPPについて少し雑感を書いてみたいと思います。

 

ご存じの通り、TPPの内容がまとまり公表されました。政府発表によると、影響は軽微とのことですが、私はそれなりに影響が出るのではないかと思います。
たとえば米。8万トン弱の輸入枠が設けられました。これは米の生産量の1%程度に相当します。これだけを見るとたいした量では無いと思われますし、また政府は輸入量相当を備蓄米として買い上げするという対策を発表しています。
ところが、今回の合意内容では米粉調整品の関税が削減または撤廃されています。
米に限らず、現在の貿易は非常に複雑となっており、原料の輸入だけではなく半製品の輸入が多くあります。たとえば味淋はほぼ国内で生産されていますが、海外で海外産の米を使用して半製品であるもろみをつくり、国内で絞ることで国産味淋として流通しています。小麦や小麦粉は関税が高いですが、ミックス粉では関税が低くなります。このため、アメリカ産の小麦をFTA締結をしている韓国でミックス粉に加工し、輸入するという方法が行われています。
単純に原料そのものだけ「聖域」として保護しても、加工品規制を撤廃すれば国内マーケットへの影響は確実に出てくるものと思います。

そもそも、影響が軽微だと公表しておきながら対策をするというのは影響が軽微でないと政府が考えている証左です。トータルの関税収入が下がるわけですから、その分国内への価格波及は当然起こりえます。

ただ、私はこのグローバル化が進んだ社会において関税で国内産業を保護するということはもともと無理筋であると思っています。先に挙げたような関税逃れの手法はいくらでもあり、その規制はいたちごっこであり、防ぐことは容易ではありません。TPP自体はメリットがあるとは思えませんので推進する意義は無いと思いますが、TPPに仮に参加しなくともグローバル化は確実に進行していくものと思います。

今回、様々なTPPの対策案がメディアに取り上げられています。しかし、農業分野のメニューを見ていると場当たり的で、本当にこれで国内農業の振興につながるとは思えません。
まず一番重要なのは国内農業をどのような位置づけで保護していくのか、長期的なビジョンを明確に打ち出すことが必要だと思います。そもそも、国内で農業生産を維持していくべきなのか、そこすら方針が明確になっていないように思います。
私は、農業は文化の根底であり、社会を構成する基礎となっているものなのでその維持は必要なものであると考えます。cultureは耕すことであり、agricultureにもcultureが含まれています。

しかし、現在のようにただ設備投資に助成が出たり、価格の補填をする政策は農業生産の自由意思を阻害し、結果農業競争力を弱めていることは間違いないと思います。日本の農業で国際競争力がある分野は、鶏卵、野菜など保護措置がほとんどない領域であり、保護が充実している米や牛肉の競争力が低いことは皮肉なものです。
特に穀物などでは諸外国でも所得補償政策が行われているので、対抗上助成を行っていくことは必要悪であると思います。しかし、現在特に米や牛乳などで行われているようなマーケットに過度に介在する政策は制度矛盾が発生することが避けられないので、もっと単純に販売価格に応じた所得補填(補償ではなくて)を行うべきであると思います。

たとえば、米は飼料米を作ることで多額の助成が出ます。ところが、飼料米の流通体制が整っていないため生産された米がうまく流通しない事態が発生しています。これは、「飼料米を生産すること」に補助を出しているために発生しているわけです。もっと単純に、米の販売金額に応じ単純に所得補填を行うようにすれば、米の生産が増え市場価格は低下し、輸出や加工向けなどの用途への展開が進みます。仕向先のコントロールを政府が行おうとするから矛盾が生じるのです。

今回のTPP対応で、特に牛肉と豚肉は政府の介在が大きくなります。このことが吉と出るか、凶と出るか。よき日本文化の維持発展につながるような政策が摂られることを願います。