食品廃棄物の横流しに関する業界人の意見

例によって更新を怠っているため書こうと思っているネタがたまっているのですが、世間を騒がしている廃棄カツの事件についてお問い合わせが多いので業界人の立場からすこし書いておこうと思います。

まず、世間の皆様に最初にご理解頂きたいのは、ほとんどすべての廃棄物は適正に処理されており、今回のような事件は非常にレアケースであると言うことです。日本では食品廃棄物は2000万トン弱の発生量が推定されており、その中には今回ような製品も多く含まれています。仮に横流しが横行しているようでしたら、もっと大変な量が出回っていることとなります。

また、産業廃棄物処分業は非常に厳しい規制があり、今回のような問題が発生すれば間違いなく事業を続けることができません。許認可を受けるためには法律を含んだ講習を受講することが義務づけられており、廃棄物業界の人は「なにをやったら違法なのか」ということは十分承知しています。

加えて、今回のような冷凍食品は取り扱いが難しいため、横流しすることはきわめて困難です。(廃棄物の収集運搬車で冷凍車はほとんどありません)食品として買取したいというブローカーが暗躍しているという一部報道があったようですが、少なくとも当社に食品として買い取りしたいと言って来た人間はいません。普通に考えて産廃業者からまともな「食品」が出てくるわけがありませんから、それを買おうと思う人間は相当な確信犯であり、そういう人間が多いとは思えません。

なお、産業廃棄物として受け入れたものを有価売却すること自体は法に問われるかどうかは微妙です。たとえば解体工事で出てきた鉄筋はスクラップとして販売されることが普通です。問題なのは、「食品として使えないから処分したい」という依頼に対し「堆肥として処理する」という契約を締結しているにも関わらず「食品」として転売したという点にあります。
今回の事件ではマニフェスト(産業廃棄物管理表)に虚偽記載がされていたわけですが、これは不適正な処理を行ったから正確な記載ができなかったという結果であり、原因ではありません。

なお、今回の事件で私が一番おかしいと思うのは、少なからず「法制度に不備があったからこのような事件が起きた」「監視体制が悪かったから」などの報道が行われているという点です。
なにかを委託するなどの取引の場合、どれだけ厳しく法律などで縛っても悪意ある人間がいた場合不正を100%防ぐことは困難です。

たとえば、新聞記者は記事のねつ造をしたり、マスコミがやらせをしたりすることは本当に悪意ある人間がその気になれば簡単にできてしまいます。監視やチェックだけで防ぐことは無理で、良識と常識によって担保されているに過ぎません。

日経新聞にこんな記載がありました。記者の知見があまりにお粗末なので無断転載します。

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「廃棄カツ、なぜ食卓に 自己申告悪用浮き彫り」 2016/1/20 2:02

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD18H47_Z10C16A1CN8000/

性善説で運用

ダイコーはマニフェストにうその情報を書き込んで廃棄食品を処分したように装っていた。壱番屋は処分結果をマニフェスト上で確認しただけで、実際に堆肥にしたかは確認していなかったという。ダイコーの自己申告であり、記録だけ見ても不正を見抜くことはできなかった。壱番屋の担当者は「報告通り、処分したと信じていた」としており、廃棄物を産廃業者に委託する際の対応を厳格化する再発防止策を発表した。

廃棄物処理法は、委託先が契約通りに処理したかについて、処理を発注する事業者が、立ち会い確認などすることを努力規定としている。いわば、廃棄物処理は処理業者がうそをつかないことを前提とした「性善説」で運用されているのが実情だ。愛知県の担当者は「発注元はできる限り、実地確認をしてほしいが、マニフェストには第三者のチェックが入らず、うそを見破るのは難しい」と話す。

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実地確認したって24時間張り付いているわけではないので限界がありますし、仮に24時間張り付いていたとしても本当に悪意ある人間は防げません。先に述べたようにすでに法律が厳しく運用されており、行政の立ち入り検査も頻繁にあります。一般的な商取引よりはるかに厳しく監視されている状態ですらこのような事件を行うのは相当な確信犯であり、そういった人間を規制や監視で防げると思うのがおかしいです。世の中は社会システムは基本的に性善説で運用されているわけであり、むしろ産廃業界(や食品業界)は疑われやすい業界であるが故に一般的な事業と比較し監視体制が厳しく行われています。中国ならいざ知らず、相手が不正を行うことを前提で商取引を行う業界が日本にあるのかと言う話です。先に述べたように新聞記者の記事もいわば性善説で書かれているわけですから、この事件で「性善説で運用」なんて見出しをつける日経記者の思考回路は相当一般社会常識から乖離していることは間違いないでしょう。

今回に限りませんが、食品になると鬼の首を取ったように大騒ぎするマスコミの姿勢には本当にうんざりです。そもそも廃棄品が出たのも異物混入などの事件でマスコミが繰り返しあおり立てるためむやみに廃棄品が増えているわけです。(おかげで業界及び当社の仕事は増えていますが)本来、健康被害が出る恐れがないものに関しては回収や廃棄する必要はないと思いますが、センセーショナルな報道やそれに影響された一部の消費者により異常なほど食品業界の規格が厳しくなっています。仕事を長くやっていると当たり前のようにそのような廃棄品を受け入れていますが、いまなお飢えた人がいる社会の中でほんとうにこれで本当によいのか、時々自問自答する日々です。もちろん当社では今回のように食品として流通させることはなく飼料、肥料としてリサイクルしているのですが、食べるのに全く問題無いものを家畜飼料にすることに背徳感を感じることもあります。

マスコミの皆さんは本質的になにが大事なことかよく考え報道を行っていただきたく思います。報道機関には耳目を集めることだけを考えるのでは無く、これからの社会構築に必要なことを報道することが求められています。

年頭所感

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

今年は正月の休みの並びがよく、1日から3日まで会社はお休みとすることができました。当社は年間通じて土日休み、祝日完全出勤で土日以外の休みは元旦のみです。なお、年間休日は105日と休みは少ないですが、1日7時間勤務なのでブラック企業という範疇には入らないと思っております(笑)

元旦

短い休みですが、当社は12月末が決算であり今期以降の事業の組み立てをいろいろと思索しています。残念ながら、昨期は自分としては不本意な内容でした。これも、社長の力量の至らなさによるものと思っています。今期は昨年の反省を踏まえ、たしかな事業進展を目指していきたいと考えています。

このごろ事業を行っていく上で、会社の存在意義の重要性について強く感じています。当社はリサイクルという事業を行っており、社会において無くてならないものであると自負しています。しかし、飼料、肥料という製品として製造しているものの、そのニーズは不安定であり付加価値の創造はまだまだ不十分であり、事業の存在意義は脆弱であると思います。
リサイクルによって製造される飼料、肥料はバージン素材が安価であるため、どうしてもリサイクル製品の価格はそれよりも低く抑えられてしまいます。たとえば、輸入された飼料用トウモロコシは1kg30円程度であり、鉄や石油より遙かに安価です。
存在意義を高め、事業の継続発展を目指すために、更なる川下である農業分野にも参入を行い付加価値の確固たる確立を行っていきたいと考えています。例えば、生産者が販売する価格は豚肉が1kg500円、牛乳は1L100円であり、しかも普遍的な価値を持つものとなっています。高いノウハウが要求される農業への参入は簡単ではないことは十分承知していますが、難しいからこそやりがいがあると感じています。

他方、これからの日本の農業はTPPをはじめとするグローバル化の影響が増大していくことは間違いありません。しかしながら、ファンダメンタルズとしての世界人口の増加による食糧供給の不安定化は確実な将来であり、日本の相対的な国際競争力の低下により食糧の供給に対する存在意義は増大していくことと考えています。

ドラスティックに変化していく社会の中、中小ベンチャー企業が世間の荒波のなかどう進んでいくか非常に繊細な舵取りが要求される時代となっています。社会の中で確かな存在意義を確立するとともに、当社の事業を通じすこしでも社会変革を行えることができたらという壮大な野望を持ち、今後の事業を進めていきたいと思います。

対照区の重要性

恒例となった年末の北海道出張(忘年会とも言う)から戻って来ました。連日の宴会ですっかり弱った感のある胃腸を年末年始に向けて復調させる必要を痛感しておりますw

数年来毎回参加しているTHE EARTH CAFE忘年会は農業関連を中心とした様々な業種の集まりです。ともすれば異業種交流会はただの営業名刺の交換会になりがちですが、この会は崇高な目的(言い過ぎか?)の基に集まっている方が多く、非常の有意義な会話ができます。

忘年会
忘年会

忘年会の前にはプレゼンが行われます。毎年そちらもお話ししているのですが、私は汚泥発酵肥料についてというテクニカルなお話しをしました。汚泥発酵肥料は非常に面白い特性を持つ有益な肥料であり、その特性を当社が実験を行っている名古屋大学附属農場での試験の結果を交えてお話しさせていただきました。

汚泥発酵肥料の特性についてはまた改めて書かせていただこうかと思いますが、プレゼンではテクニカルなこととは別に対照区の重要性についてもすこしお話ししました。

対照区(対象区ではありません)とは、たとえば新しい肥料の実験を行う際、従来のやり方の処理区と新しい肥料の処理区を設けるような手法をいい、この場合新しい肥料の処理区は「試験区」、従来の肥料は「対照区」ということになります。

比較試験をするのはあたりまえのこと・・・と思われますが、我々の日常生活でなにか試みる際にも対照区をきちんと設けることができていないことが多々あります。例えば「ダイエット食品を食べるとやせるのか」というような疑問があったとしても、我々はダイエット食品を食べる自分と食べない自分を作ることはできません。仮にダイエット食品を食べ始めて食べる前と比べてやせたとしても、それはもしかすると一緒にライザップをはじめた効果かもしれません。つまり、我々はダイエット食品を食べる前と食べた後で他の条件が変わっていないという前提の元に判断しているのですが、その前提、「他の条件が変わっていない」という前提が崩れてしまったらその結果は何の意味も持たないことになります。

 

ひるがえって、農業の場合、天候などによる影響が非常に大きく、毎年、毎作同じような栽培を行うことは困難です。畜産分野でも疾病や環境の影響でさまざまな状況が大きく変化しますので、長期間にわたり同じ環境に維持していくことは簡単ではありません。そういった状況下で、たとえば新しい資材や肥料、飼料などを全面的に使用してしまうと、果たして効果があったかどうかは全くわからなくなってしまいます。

たとえば肥料でしたら畑の一部だけ施肥し、飼料でしたら一部の家畜だけ給与するなどの方法により比較することで、その効果がはじめて明確になります。農業は生産者の経験が非常に重要であり、熟練した農家は生産物に対し、きめ細やかな観察眼で接しその変化を見逃さないことは言うまでもありませんし、そのことを否定するつもりはありません。しかし、対照区を設け、比較試験を行なう事で観察眼がより発揮されることもまた間違いの無い事実です。特に、四季のはっきりとした日本では対照区を設けることがとても大きな意義を持ちます。

 

当社の取り扱っている肥料、飼料はその品質、内容には自信があります。ぜひ対照区を設け、試験をしてその良さを実感して欲しいものと思います。(宣伝です^_^)

TPPの影響

久々の更新ですっかり旬を過ぎているような気もしますが、TPPについて少し雑感を書いてみたいと思います。

 

ご存じの通り、TPPの内容がまとまり公表されました。政府発表によると、影響は軽微とのことですが、私はそれなりに影響が出るのではないかと思います。
たとえば米。8万トン弱の輸入枠が設けられました。これは米の生産量の1%程度に相当します。これだけを見るとたいした量では無いと思われますし、また政府は輸入量相当を備蓄米として買い上げするという対策を発表しています。
ところが、今回の合意内容では米粉調整品の関税が削減または撤廃されています。
米に限らず、現在の貿易は非常に複雑となっており、原料の輸入だけではなく半製品の輸入が多くあります。たとえば味淋はほぼ国内で生産されていますが、海外で海外産の米を使用して半製品であるもろみをつくり、国内で絞ることで国産味淋として流通しています。小麦や小麦粉は関税が高いですが、ミックス粉では関税が低くなります。このため、アメリカ産の小麦をFTA締結をしている韓国でミックス粉に加工し、輸入するという方法が行われています。
単純に原料そのものだけ「聖域」として保護しても、加工品規制を撤廃すれば国内マーケットへの影響は確実に出てくるものと思います。

そもそも、影響が軽微だと公表しておきながら対策をするというのは影響が軽微でないと政府が考えている証左です。トータルの関税収入が下がるわけですから、その分国内への価格波及は当然起こりえます。

ただ、私はこのグローバル化が進んだ社会において関税で国内産業を保護するということはもともと無理筋であると思っています。先に挙げたような関税逃れの手法はいくらでもあり、その規制はいたちごっこであり、防ぐことは容易ではありません。TPP自体はメリットがあるとは思えませんので推進する意義は無いと思いますが、TPPに仮に参加しなくともグローバル化は確実に進行していくものと思います。

今回、様々なTPPの対策案がメディアに取り上げられています。しかし、農業分野のメニューを見ていると場当たり的で、本当にこれで国内農業の振興につながるとは思えません。
まず一番重要なのは国内農業をどのような位置づけで保護していくのか、長期的なビジョンを明確に打ち出すことが必要だと思います。そもそも、国内で農業生産を維持していくべきなのか、そこすら方針が明確になっていないように思います。
私は、農業は文化の根底であり、社会を構成する基礎となっているものなのでその維持は必要なものであると考えます。cultureは耕すことであり、agricultureにもcultureが含まれています。

しかし、現在のようにただ設備投資に助成が出たり、価格の補填をする政策は農業生産の自由意思を阻害し、結果農業競争力を弱めていることは間違いないと思います。日本の農業で国際競争力がある分野は、鶏卵、野菜など保護措置がほとんどない領域であり、保護が充実している米や牛肉の競争力が低いことは皮肉なものです。
特に穀物などでは諸外国でも所得補償政策が行われているので、対抗上助成を行っていくことは必要悪であると思います。しかし、現在特に米や牛乳などで行われているようなマーケットに過度に介在する政策は制度矛盾が発生することが避けられないので、もっと単純に販売価格に応じた所得補填(補償ではなくて)を行うべきであると思います。

たとえば、米は飼料米を作ることで多額の助成が出ます。ところが、飼料米の流通体制が整っていないため生産された米がうまく流通しない事態が発生しています。これは、「飼料米を生産すること」に補助を出しているために発生しているわけです。もっと単純に、米の販売金額に応じ単純に所得補填を行うようにすれば、米の生産が増え市場価格は低下し、輸出や加工向けなどの用途への展開が進みます。仕向先のコントロールを政府が行おうとするから矛盾が生じるのです。

今回のTPP対応で、特に牛肉と豚肉は政府の介在が大きくなります。このことが吉と出るか、凶と出るか。よき日本文化の維持発展につながるような政策が摂られることを願います。

有機肥料を使うことは難しいのか。

最近は飼料の話が多かったですが、当社では有機肥料の製造から事業をスタートしました。
大学の専攻は肥料であり、その縁もあり事業開始した頃から出身の大学の付属農場で肥料の連用試験を行っています。先日はその試験を行っている圃場で白菜の定植作業を行ってきました。試験圃場では処理区をもうけ、それぞれに同じ肥料を毎年施用しています。実験を開始したのが25年前で、私がちょうど大学に入学する前ぐらいです。長期間連用を行うことで肥料の種類による違いが顕著に現れます。

ところで、有機肥料を使っている農家では有機JASの認証を取っているケースがあります。有機JASとは、有機(オーガニック)であることを認証機関が確認を行い、認証されたものだけが「有機」の表示ができるというものです。
有機JASに関しては賛否両論がありますが、私はある基準を決め、それにのっとり表示を行うという制度自体は必要であると思います。多分、有機JASの制度がなければいい加減な表示やインチキが横行するものと思います。問題はその基準ですが、これに関しては長くなりますので別のエントリーでまた書きたいと思います。

「有機」表示で私が従来より疑問に思うのは、有機JASには農薬を使用しないことも入っているという点です。有機という言葉の定義は有機物(炭素化合物)という意味であり、肥料の定義であり農薬の使用は言葉には含まれていないと思います。ですので、有機肥料を使って農薬を使うというパターンもあっていいのではないかと考えています。
と言うのも、個人的には時期や作物にもよりますが有機肥料を使った栽培より、無農薬で栽培することの方が難しいと思うからです。逆に、誤解を恐れずに言えば有機肥料を使うことは、技術とデータがあればそれほど難しくないと思います。
有機肥料と化成肥料の違いは、成分の面から端的に言えばある特定の成分だけを抽出したものが化成肥料であり、有機肥料はそれが化合物の形になっていること、様々な成分が含まれているのが有機肥料であります。
特に、窒素成分に関しては有機肥料と化成肥料には大きな違いがあります。有機肥料の場合、窒素成分の多くはタンパク質、アミノ酸などの有機化合物の形で含まれているのに対し、化成肥料では硝酸イオンや尿素、アンモニアなどの化合物で含まれています。有機肥料に含まれる窒素成分はそのままアミノ酸などの吸収されるものもありますが、多くは土壌中の微生物などにより分解され、硝酸イオンなどの形で吸収されます。有機肥料を使うに当たって、この窒素の分解がどのように進むかがポイントです。分解は微生物反応であるため、肥料の種類、温度や環境によってその速度が大きく変わります。ざっくり言うと、分解が早いほうが窒素の肥効が出やすく、遅いと窒素が効きにくくなります。
この分解速度の予想さえできれば、有機肥料を使いこなすことは難しくありません。例えば水稲は窒素の肥効時期によって食味や倒伏などの影響があり、分解を予測することは非常に重要です。
現在は、分析手法の向上、知見の集積により分解速度の推定がよりできるようになってきています。要するに、技術を持った人なら有機肥料を使いこなすことができるってことです。

有機肥料を使用することで、土壌に有機物や様々な微量要素が持ち込まれます。これにより、土壌の微生物の菌叢が種類、量とも増えていきます。このことが土壌環境を改善し、団粒構造の発達、病原微生物の抑制につながっていく訳です。有機肥料は、「土を作る」ことができる訳です。

他方、有機JASの要件である農薬の不使用は、季節や作物によっては非常に難しいケースがあり、技術で対応出来ないケースも多くあります。例えば、愛知県では8月下旬にキャベツを定植する作型がありますが、虫害の発生が非常に多いため、無農薬で栽培することはかなりの困難を伴います。家庭菜園でしたら手で取る作戦も有効ですが、コマーシャルベースでは現実的ではありません。

日本で有機農業が普及しない理由の一つに、温暖な気候による虫害、病害、雑草発生の多さゆえの農薬の不使用の難しさがあると思います。ただ、上で書いたように、有機の要件のうち、肥料に関してはハードルが低いと思います。有機肥料の利用は、土壌をゆたかにし、場合によってはコストの削減にもつながります。技術が普及し、更なる普及が行われることを願っています。

インターンシップの受け入れ

このところ、多忙な日々が続いており、久々の更新となりました。
そんな忙しい夏でしたが、今年は新しい試みとしてインターンシップの受け入れを行いました。

今回はご紹介で会社の近くの人間環境大学の学生さん4名がインターンシップとして参加されました。
学生さんは授業の一環としてインターンシップに参加されているのですが、受け入れ企業としてもいろいろと勉強になることがあります。
今時の学生の気質がわかるだけではなく、教育体制や社員教育のあり方なども考えせられるものがありました。

実習内容は、現場での選別作業、回収作業の同行、お客さま訪問の同行等々、多岐にわたる作業でした。
普段は重機で行なう切返しを人力でやってもらったのですが、さすがにこたえたようです。人力でやることで内部の状況などを体感することができ、より理解が深まる・・と思ったのですが体力的には結構きつかったようです。

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インターンシップを受け入れて、当社のスタッフも若い人が入ることで刺激を受けていたようです。当社は現在は中途採用だけですので年齢構成が偏っていますが、今後は新卒採用も行うことで将来的な社内体制の整備をはかっていくことが必要ではないかということを意識させられました。

当初は地域への貢献という意味でインターンシップを受け入れしたのですが、当社にとっても有意義な経験をつむことができました。地域社会との共生は、実は自社にとっても意味あることである・・改めて考えさせられ、良い機会でした。

エコフィードを使えば儲かるのか

ビジネス向けサイトとか見ていると、「儲かっている会社の社長はこれをやっている」みたいな記事をみることがあります。例えば、新聞を3紙以上読んでいる社長の会社の方が経常利益が高い・・と言ったようなネタです。

この手の話、いつも思うのですが、どちらが原因でどちらが結果なのかわからないのではないかと思います。

新聞をたくさん読むことで知識が付いて経営が良くなってきたのか、それとも経営が良いから余裕ができて新聞を読む時間が取れているのか・・。新聞を読むことが無駄になることは無いと思いますが、効果を期待しすぎるのは禁物であると思います。

ホルスタイン
 

当社では有機肥料やエコフィードの生産を行っています。当社のお客さまや知り合いは有機肥料やエコフィードを使いこなしている方がたくさんみえます。
そういった方は概して経営がよいことが多い傾向にあります。有機肥料は一概に言えませんが、エコフィードは一般に配合飼料、輸入飼料と比較して価格が安く、飼料コストが生産コストの大部分を占める畜産農家がエコフィードを使用することでコストが下がります。
当社のお客さまでエコフィードをメインにしている方は概して経営がよいのです。そういった状況を見るとコストの安い飼料をうまく使っているから経営が良くなっているという印象があります。

でも、個人的にはエコフィード使用により経営が良くなっているのはコストが下がっていることが大きな要因では無いと思っています。エコフィードは配合飼料と異なり、成分もまちまちであり自分で配合する必要があったりします。使用に際して工夫が必要ですし、購入飼料と比べ手間もかかります。こういったものをうまく使うには、技術レベルが高く、前向きで意欲がある人で無ければ難しいです。
購入飼料を使うだけでしたら飼料の成分などのことを知らなくても問題ありませんので、残念ながら畜産農家でも飼料の知識に詳しくない人が多く見えます。小規模農家であっても数千万単位で購入しているわけですから、その内容を知ろうとしないのは大きな問題です。
要は、エコフィードをうまく使いこなせる方はもともと経営が良い農家が多いのでは無いかと思います。逆に、コストが下がるからと言って知識が無い人がむやみに使用すると、生産効率がわるくなったり手間がかかったり、畜産物の品質が下がったりと言ったことが発生しかえって経営が悪化するケースも散見されます。

当社のお客さまの酪農家さんは酪農教育ファームに参加されているケースが多いです。酪農教育ファームとエコフィードは関連がありませんが、酪農教育ファームに参加されるような農家さんは前向きな方が多いので、エコフィードなどの新しい技術に積極的なのではと思います。

耕種農家でも土壌分析をしなかったり、肥料の設計をお任せにしているケースはすくなくありません。そういった農家では肥効がまちまちで取り扱いが難しい有機肥料をうまく使用できるはずがありません。有機肥料をうまく使いこなしている農家は肥料に対して知識が深く、収量が多く高品質な農産物を生産できているため経営が良くなっているのではないかと思います。なお、そういった農家は案外有機JASを取得するわけではなく、慣行栽培でありながら減農薬、減化学肥料で有機肥料をうまく使いこなしている場合が多いと感じます。有機肥料を使うのはJASを取るためでも化学肥料を危険視ししているわけでもなく、有機肥料の方がうまく使用すると効果を発揮するからではないかと推察しています。

逆に言うと、そういったハイレベルな農家はエコフィードや有機肥料を使わなくても経営がよかったりします。レベルが高い農家が使いこなすのが難しいけどうまく使うと効果を発揮する・・これがエコフィードや有機肥料ではないでしょうか。
これからの厳しい環境下では、農業生産においても高い技術レベルと前向きな姿勢が求められていくことと思います。私もそういったお客さまとお付き合いするために更に勉強と技術研鑽をしていきたいと思っています。

研究機関とのお付き合い

先々週、今週と展示会続きで少々お疲れモードです。貧乏性のため展示会出展費を回収するべく気合いを入れて接客をするのでかなり体力を消耗します。今年の展示会はいろいろな出会いがあり、今後に期待できるものでした。

展示会
展示会

展示会出展していると都道府県の農業試験場などの研究機関の方や、大学などの研究者のかたが数多くブース来場されます。そういった方々から「どういった研究テーマを行ったら良いか」という質問を受けます。

当社は様々な食品廃棄物をリサイクルしており、今まで利用されていなかった原料の受け入れも行っております。新規アイテムを利用する場合(特に飼料として利用する場合)には大学などの研究機関に委託し、特性や性状を確認すると言うことを行っています。最近は非常に多岐にわたるアイテムの相談があるため、研究機関との連携は欠かせないものがあります。

例えば飼料の場合、研究機関での試験は成分分析、保存性試験などから消化試験、家畜への給与試験など、様々な段階の試験を依頼しています。そういった試験の成果は実際の飼料の流通販売において基礎データとして活用されています。研究機関での試験が現場で生きているわけです。

他方、学会などに参加すると「この研究内容はいったいどのように実用化していくのだろうか」と思うような試験が少なくありません。どう考えてもコストが合うはずのないアイテムだったり、現場でのニーズが全くない分野だったり。「研究のための研究」になっているようにも感じられます。そのようなことが起こる理由として、もちろん現場の声をくみ上げていない研究機関の体制にも問題あると思いますが、我々のような民間事業者が研究機関への積極的なアプローチを行っていないこともその一因ではないかと思います。

当社の場合、目新しいアイテムが多くあるため研究機関の先生方の興味を引くものが多くあります。研究テーマとしておもしろいことと実用性があることの両立をはかったものを提供してきたことがこれまでの成果につながっているように思います。

研究機関の運営には多くの税金が投入されているわけですから、”役に立つ”研究を行ってもらいたいと思います。それが民間事業者の事業拡大にもつながり社会全体の利益に結びついていくことになります。最終的に当社にその利益が分配されることになればさらに喜ばしい限りですヽ(^0^)ノ

6次産業化を進めるためには

年度末、年度初めの報告書もようやくだいたい終わり、少しだけホッとしている今日この頃です。時間があるときはたまに子供のために離乳食を作ったりしています。どうやらチーズとかイカみたいなアミノ酸たっぷりのものが好きなようで、酒飲みな将来は約束されているようなものです(^^)

当社のお客さまの酪農家さんでもチーズを作られているところが何件かあり、美味しいチーズを食べる機会が増えたのはこういう仕事をしている役得というものです。

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もともと牛乳はその商品の性質上個々の農家さんをわけて集めることが難しいため、酪農家さん個々の特徴を出すことが難しいですが、チーズを作ることで、牛乳の持つ個性を発揮できる場面が出てきます。特に、チーズやバターは牛乳の成分が濃縮されるので、牛乳の特徴がはっきりと出てくるように感じます。将来、「チーズスペシャル」な飼料を作ることができたら・・・と夢想する今日この頃です。

昨今は酪農に限らず、こういった6次産業化が増えてきており、政府も政策的に奨励を行っています。美味しいチーズが食べられるのは歓迎ですが、個人的には安易な6次産業化推進には疑問を持っています。

6次産業化に限ったことではありませんが、新規分野に事業展開をする際にもっとも必要なことはその事業を行う存在意義があるかどうかだと考えています。例えば、養豚や肉牛の場合、法律によってと畜を自分で行うことができません。(仮にできたとしても非常に非効率でコスト高になってしまいますが)6次産業化で肉を販売すると言ってもと畜場から買い戻す形態となり、一般の肉屋さんと流通経路が変わらないことになります。もともとの肉屋さんとの相違がなければ、新規参入しても競争力があるわけではありません。
6次産業化で肉を販売して成功している農家さんは、品質が高いにもかかわらず規格などの理由で市場価格が安いものを適正価格で販売しているケースが多いように思います。この場合、「生産者が知っている価値を伝える」ことが存在意義になっているかと思います。

 

また、農業はそれで生計を立てているような規模になると労働時間の拘束が長いケースがほとんどです。家族全員が労働力としてカウントされていて余裕が無い場合に、新たな事業を展開すると言うことは本業である農業の労働時間を削ることになります。農業は農作物や家畜をきちんと見なければよいものを生産することができません。生産の品質が落ちたり、生産量に影響が出たりします。果ては6次産業化を進めたら農業を辞めると言う笑えない事例があったりします。

事業を新規に展開する以上、ヒト、モノ、カネを確保して事業計画をきちんと立てなければ事業が成り立たないのは言わずもがなです。農業はまだまだ市場出荷していても成立することが多くあり、「ものを売る」ってことを1回もやったことが無い人がいきなり”商売”を始めるということがいかにハードルが高いかは想像に難くありません。

 

と、辛辣なことを書いてしまいましたが、どんな事業であっても新しい分野に挑戦し続けることは重要ですし、6次産業化は新たな価値を創造することにつながると思います。今後も当社のお客さまのそういった取り組みを応援できたらと思っています。

酒粕の成分と酒造り


最近、ホームページからのお問い合わせで酒粕の買い取り依頼が非常に増えています。食品としての需要低迷が主因のようですが、Webという媒体によって需給の状況がわかることも興味深いです。

私は酒と名前が付くものはたいがい好きですが、日本酒ももちろん愛好しています。飲むだけではなく、酒蔵見学や杜氏とお話しで酒造りの方法を聞いたりすることも好きです。日本酒の作り方は非常に複雑なプロセスを経ますが、微生物学的な知見が皆無であった江戸時代にこのような技術が確立されていることに非常に驚きを感じます。

酒粕

 

日本酒の作り方はWikipediaの記載が詳しい(異常にw)ですが、超概略として

1.米を精米し、蒸す。

2.コウジカビをふりかけ、麹を作る

3.麹、別に蒸した米、酵母を混ぜもろみをつくり、発酵させる

4. もろみを絞り、濾過して酒になる。

と言ったプロセスとなります。

一連の反応で米に含まれるデンプンがコウジカビが出すアミラーゼによりブドウ糖となります。酵母はデンプンをエサにすることはできず、ブドウ糖は使えるのでカビを使ってデンプンを糖に変えることで米を使って酒を造ることができます。ビールやウィスキーではデンプンの糖化を麦芽の持つアミラーゼを用いて行い、ワインはブドウに含まれている糖をそのまま用いていることが日本酒との違いです。

酒粕を飼料として取り扱うにあたって、成分分析を行っているのですが分析結果を見ているとびっくりするぐらい成分が異なります。一番差が出るのは粗タンパク質含量の差で、最も低いものは乾物換算で20%程度、高いものは乾物換算で60%と大きな差があります。傾向として、安い酒ほど酒粕の粗タンパク質含量が高い傾向にあるようです。

酒粕の粗タンパク質は米に8%程度含まれる粗タンパク質が濃縮されたものです。この値が大きく違う原因として

・高い酒ほど精米歩合が高い。米は表面ほど粗脂肪、粗タンパク質が高いため、精米歩合が高くなるとそもそも原料中の粗タンパク質含量が低くなる。

・安い酒は麹の活性を高め、米を良く溶かしている(=糖化反応をすすめている)糖化がすすむと糖はエタノールに変換され、酒の歩留りが上がる。その分残った粕に粗タンパク質が濃縮される。

・安い酒は酒粕を絞る際にしっかり絞るので、水溶性の糖などの割合が下がるため相対的に粗タンパク質含量が高くなる。

などが推定されます。飼料としては水分が少なく、タンパク質の含量が高いほうが好まれますので、安い酒の酒粕が飼料に向いていると言うことになります。酒粕を見ると酒造りの奥深さを感じるとともに、自分の飲む酒選びにも役立っています ^^;
こう言う仕事をしていると食品メーカーの裏事情が垣間見えてとてもおもしろいですね。