クラフトビールの麦芽粕

今年も暑い日々が続いています。おかげで個人的にはビールの消費量がふえています。当社ではクラフトビールの麦芽粕(ビール粕)をリサイクル取り組みを10年ほど続けています。↓は開始した当初、お取引先のコエドビールさんが出されたプレスリリースです。
工場で発生するビール麦を飼料として完全リサイクル!

当社では現在10社弱のクラフトビールメーカーとお取引があります。大手ビールメーカーのビールも飲みますが個人的にはクラフトビール好きなので、お取引先のビールをいろいろ飲むのが楽しみの一つです。クラフトビールは大手メーカーとは異なる豊かな味わいの個性のあるビールが多いですが、実はリサイクルする麦芽粕においても違いがあります。

ビールは麦芽とホップが原料です。麦芽を粉砕し、お湯につけると麦芽に含まれる糖化酵素の働きで、麦芽のデンプンが糖に変わります。糖液を酵母発酵させるとアルコールができ、そこにホップを加えるとビールになります。糖を取り終わった麦芽を脱水したものがビール粕(麦芽粕)で、飼料として利用されます。大手ビールメーカー4社の麦芽粕はすべて飼料として利用されていますが、クラフトビールの麦芽はリサイクルされていないものが多くあります。

大手ビールメーカーの麦芽粕は、飼料に加工する際に脱水するとともに、乳酸菌や糖蜜、繊維分解酵素などを入れています。麦芽粕は乳酸発酵することで保存性や嗜好性が高くなり、飼料としての価値が高くなります。乳酸発酵を促進するための資材が糖蜜や繊維分解酵素です。他方、当社が取り扱いしているクラフトビールの麦芽粕は、脱水をするだけでとくに何も添加していません。クラフトビールの麦芽粕には糖が多く含まれているため、特に添加しなくても乳酸発酵がきれいにすすみ、良い品質のサイレージ(乳酸発酵飼料)ができあがります。

麦芽粕サイレージの製造

これは、大手ビールメーカーは糖を限界まで取ってできるだけビール製造の歩留まりを上げているのに対し、クラフトビールは設備の限界と、味わいを損ねないようにするため絞りきりすぎないようにしているため糖が残存しているという違いだと推測されます。お客様の酪農家さんで大手ビールメーカーの麦芽粕と当社取扱のクラフトビールの麦芽粕を併用してる現場がありますが、明らかにクラフトビールの麦芽粕のほうが嗜好性が高いとのことです。ビール製造時の手法の違いが飼料となる副産物にまで現れるのは本当におもしろいと思います。廃棄物から食品製造工程を推測することができる興味深い仕事です。

せっかく良い麦芽粕ができあがるクラフトビールではありますが、ほとんどのブルワリーは規模が小さく、なかなか麦芽粕のリサイクルができるほどのスケールではありません。リサイクルするためにはある程度の規模が必要となります。制約はありますが、少しでも多くの麦芽粕を有効に活用してクラフトビール業界に貢献していきたいと思っています。クラフトビールファンとしてもやりがいがある仕事です。


リサイクルから見る食品マーケット

忙しい日々を過ごしているうちにすっかり夏になってしまいました。春は展示会の出展など多く、引き合いがたくさんあり対応に追われています。対応できないのに展示会出展するなと言う話もありますが・・。

当社はさまざまな廃棄物をリサイクルしていますが、特定の業種からたくさん問い合わせがくる傾向があります。最近特に増えているのがパイナップルのリサイクルの案件です。カットフルーツ工場から発生するパイナップル残さリサイクルの問い合わせが増えています。

カットフルーツ工場では様々なフルーツをカットしていますが、中心となるのはパイナップルです。パイナップルが多いのには理由があります。

  • 通年入手できる
  • 比較的安価
  • カットした後の保存性がいい(賞味期限を長く取れる)

といったことでパイナップルが選択されています。パイナップルをカットフルーツとして処理すると皮と芯が廃棄されます。パイナップルは可食部位の割合が低く、場合によっては歩留まりは40%程度しか無く半分以上は廃棄されることもあります。加工品にはほとんどフィリピン産が使用されています。輸入統計から見るとフィリピンからのパイナップル輸入量は約15万トン、輸入金額は160億円に上ります。ここから逆算すると、パイナップルは輸入金額で110円/kg程度になります。カットフルーツとして販売されるとおおむね100gあたり200円程度での販売が主流です。100gのカットフルーツを作るために必要なパイナップルは250g程度で、原材料原価は45円程度となります。つまり、パイナップルは安価であるため利益率が大きく、その一方副産物として廃棄物が大量に出るという特性があります。他方、カットフルーツとしてみるとメロンやブドウはどうしても原価が高くなる傾向があります。

カットパイン用パイナップル 葉っぱが無い

また、カットフルーツのマーケット自体が伸長しており、当社の既存取引先も毎年売上が増えています。特に、都心部での売上が大きい傾向にあります。単身世帯の増加で世帯人口が減っていること、共働き世帯が増え家で調理が減っていることなどにより加工食品のマーケットが伸長していて、カットフルーツもその流れから増えていると推察されます。

また、カットフルーツは比較的少ない設備投資で事業を行うことができます。完全に手作業だけで切っている工場も多くあります。参入障壁が低いため、新規参入も増えています。

リサイクルの仕事をしていると食品マーケットの動向がよくわかるのがとても面白いです。パイナップルは飼料としても有用であり、畜産農家からも非常に好評をいただいています。大量に発生しているカットフルーツ残さをもっと有効に利用されるようお手伝いをしていきたいと思います。

「アップサイクル」はエコなのか

秋は展示会出展などで出張が多く、忙しい日々が続いています。展示会に出展していると思わぬ問い合わせがいろいろあり、当社にとってマーケットニーズを捉える意味でも重要な機会です。

最近、展示会に出していて多いのが「アップサイクルしたい」というお話です。ここ数年、アップサイクルについて非常に相談される方が増えているように感じます。

たとえば、飲料工場で排出される緑茶のお茶がらを加工し、プラスチックに混合して成形することで有効利用したい・・的なお問い合わせがよくあります。
捨てられていたお茶がらがリサイクルされて、価値あるものに変換される・・イメージがいいこともありこういう取り組みが増えています。

しかし、実際のところ「捨てられている」というお茶がらもほとんどが堆肥もしくは飼料としてリサイクルされています。堆肥の価格が安いため、原料にお金がかけられず費用をもらって堆肥を作ることが一般的ではありますがリサイクルされていることには変わりません。
一方、プラスチックに混合するためにはお茶がらを乾燥させ、粉砕する必要があります。また、乾燥したお茶がらを混合成形するためには手間がかかり、それらのコストを考慮すると通常のプラスチック成形よりコストアップすることになります。廃棄費用がかからないとしても、できあがった製品を高く買うことで結局排出事業者である飲料メーカーが間接的に費用負担していることになります。

お金をかければ大抵のものがリサイクルはできますが、費用がかかるということはエネルギーが投入されているということの証左でもあります。乾燥や粉砕のためにエネルギーを投入してプラスチックの使用量を抑えるというのは矛盾した行為であり、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)的には環境負荷低減できているかは微妙なところです。お茶柄を混ぜることで何らかの機能性がアップするならいざしらず、通常はただの増量剤としての機能しかありません。

さまざまなリサイクル手法がありますが、個人的には重要なのは「コスト低減できていること」だと思います。リサイクルは手段であり目的ではなく、最終的な目的は環境負荷を下げることです。当社はさまざまな食品リサイクルを行っていますが、コストアップするような場合は当初よりおすすめしないケースがほとんどです。たとえばコンビニ弁当などのように包装分別が大変なものだったり、ロットが小さく運搬にコストがかかる場合などは最初からお断りしています。逆に、資源の低投入で有効利用できるものは結果としてリサイクル製品にするための費用を抑えることができます。
企業としてCSR報告書に「アップサイクルしています」と書くためのリサイクルでは無く、環境負荷が本当に低減できる手法を採用すべきでは無いかと思います。コストも資源も抑えることで、長く継続できる取り組みとなりえます。当社はそういう社会課題の解決を通じ環境と経済で貢献できる仕組みを提供していきたいと思っています。

飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。

廃棄される麺

廃棄物の量

相変わらずせわしない日々を送っています。
忙しい理由の一つに、新規の案件が多いことがあります。当社は一件一件の案件に対しそれぞれ個別対応しているため、新しいお問い合わせごとに電話で聞き取りをしたり、現地に訪問して確認したり‥と言った作業が発生します。多くの案件があると電話やWEBミーティングだけでもかなりの時間が費やされます。

廃棄されるパン

新規案件で電話を頂いた場合、「どんな廃棄物が」「どれぐらい」「どのような状態で」発生するかを確認します。よくあるのが「いっぱい出るんです」というお問い合わせです。これがやっかいで、お客様によって「いっぱい」の幅が非常に広いです。一日100kgでも中小零細企業にとっては大量ではあるのですが、食品リサイクル業界では一日100kgだと量が少ない方に部類されます。逆に、一日数十トンの廃棄物が発生している現場で「いっぱい」があまりに多くて業界人である私も驚くこともあります。今まで訪問した中で一番多かったのは某飲料工場ですが、一日100トン単位でお茶ガラ、コーヒー粕などが発生しているとのことで、量の多さに圧倒されました。

他方、納品する先の畜産農家における使用量の把握が重要です。とくに酪農の場合、エサの配合を細かく設計するために使用量の変動が難しい傾向にあります。また、牛の頭数が変わるとそれに応じて使用量が変動するため、一頭に何キロ給与し今何頭牛がいるのかを聞き取りしておくことはこの業界では重要です。

発生量を細かく確認するのは、エサにした場合いかに発生したものをうまく捌けさせるかが重要だからです。食品工場からは多量の廃棄物が常に発生し、処理する先がなければすぐに滞留してしまいます。発生量が多い場合はとくにいかに安定的に引取できるかが大きなポイントとなります。

小規模な農家

最近、当社は小規模の農家さんとの取引が増えてきました。一日数十kg、数百kgの単位の発生だと業界としては量は少ないですが小規模経営の農家さんにとっては結構大きな効果がある場合もあります。たとえば、一日100kgでも年間では40トン弱であり配合飼料に換算すると数百万円になり、100万円単位のコストが下がる場合もあります。当然ながら家族経営にとって100万円単位のコスト削減は非常に大きく、当社もお客様の経営に寄与できているという実感が得られやりがいにつながります。

当社の経営スタンスは「他の会社がやらないことをやる」です。他の会社が手を出さない小さな案件も少しずつ掘り起こしていて食品メーカー、農家の経営に寄与していきたいと思います。

豚を飼う理由

忙しさにかまけてブログ更新できずはや数ヶ月経ってしまいました。今年も残りあとわずかとなりました。今年はお陰様で本業の食品リサイクルの仕事は増えておりまずまず順調でした。養豚事業も豚を飼ってはや4年、なんとかそれなりに安定した成績をだすことができ、出荷も順調、肉質も安定してきました。

改めてなぜ当社が豚を飼うようになったか、あらためて触れてみたいと思います。

当社はもともと食品廃棄物から肥料をつくることを目的として創業しました。しかし、創業後なかなか事業が軌道に乗らず、廃業の一歩手前まで行きました。その時、たまたま縁あってお伺いした養豚農家から「おまえ、肥料なんか作らずエサつくって俺に売れ」って言われたのが飼料製造することになったきっかけです。

その後、また縁あって地元の農協が中心となって行われたエコフィードの実証試験事業に参画することになりました。愛知県の試験場で試験を行ったのですが、エサを変えるとおどろくほど豚の状態や肉質が変わることに感心して、「養豚っておもしろい」と思ったのが豚を飼ってみたいと思うようになったきっかけです。それから10年ほど経過して実際に豚を飼うようになるとは当時は全く思っていませんでしたが。

もう一つ、豚を飼おうと思ったのはエサを扱かうようになって養豚農家に説明をするようになった時、いろいろ解説したところ「高橋くん、説明はわかったけど豚飼ったことないじゃん」と言われたこともきっかけです。そうか、豚を飼わないとわからないことが多いから豚飼ってみようと安直に思った次第です。もともと動物は好きな方ですが、大学も農学部農学科で植物や微生物相手の仕事をしてきて豚を飼うノウハウもろくにもたずよくいきなり養豚を始めたものだと我ながら思います。

飼料として利用されるパン

そういったきっかけはあるものの、現在、以下のような目的を持って豚を飼っています

・食品残さで美味しい豚が育つことの証明

 食品残さを使った養豚は以前より行われていますが、食品残さの種類によっては肉質が悪くなったり、大きくならなかったりします。食品廃棄物がこれだけたくさん発生しているのにもかかわらず、食品残さを使っている養豚場は一部にとどまっている大きな理由の一つに肉質の問題があります。
しかし、適切な原料を選択し、きちんと計算して給与すれば配合飼料と遜色ない肉質とすることもできます。また、配合飼料では価格やハンドリングで使用が難しい原料もあり、その中には肉質によいものもたくさんあります。例えば茹でうどんはとても良好な原料ですが、配合飼料には使用することが難しいです。こういった原料を使用することで、特徴のある高い品質の豚肉生産が可能となります。当社も紆余曲折がありましたが現在は肉の品質を高いレベルで維持できています。

・ちゃんと大きくなることの証明

食品残さが使われなくなったもう一つの理由として、農場成績の低下(成長の低下)があります。今の豚は成長が早く、半年で出荷されます。半年で出荷するためには栄養バランスをきちんと整えて給与することが必要となります。逆に言えば、きちんと設計さえすれば決して成長が悪くなることはなく、むしろ嗜好性や消化率が良いことから成長が良くなるケースも多々あります。

・飼料製造や給与方法のノウハウ蓄積

食品残さが使われない理由には、ハンドリングの問題もあります。スイッチひとつで給与できる配合飼料とは異なり、飼料の給与するためにはさまざまな工夫、装置が必要となります。原料の種類に応じて適切な設備を導入して給与するためのノウハウを蓄積することも自社で養豚を行う目的の一つです。これまでの経験を元に、最近はいろいろな養豚農家で飼料利用のお手伝いをできるようになってきました。

自社で養豚を行うことで、「エコフィードの良さを証明する」ことは少しずつできてきたように思います。これからのステップとして、このエコフィードの良さを全国に広めていきたい、さらには世界に普及させていきたいという大きな野望があります。今は自社の養豚での実績を元に、さまざまな農家のエコフィード利用のアドバイスをすることができるようになってきました。これをもっと広げていきたいと思っています。

当社養豚場「リンネファーム」

これまで、日本の畜産は輸入飼料に依存して発達してきました。これまでの社会の時流にのったものだったかと思いますが、世界的な人口増加を背景とした資源の逼迫により従来のモデルの継続が難しくなってきています。資源が不足する時代において、リサイクルは避けられない選択肢になるでしょう。
当社が行っている養豚は非常に小さな規模ではありますが、このような時代において、畜産業界の新しい方向性を示す道標になり、日本の畜産の存在意義の向上に貢献したい、そんな大きな夢があります。国内で資源循環することで海外の影響をうけず、そして日本にしかない美味しい畜産物ができる、そんなことが目標です。当社の小さな取り組みがどんどん広がり、大きな社会変革に繋がったら‥そんなことを考えながらエコフィードからエサを作り、豚にやっています。

畑

有機肥料の可能性

資源価格の上昇や食料の需要の高まりに伴い肥料の価格が上がっています。国内の農産物価格は低迷しており、農業の生産現場は厳しい状況に置かれています。
化学肥料の値上がり当面続くか、国際的な需要高で 農家がとれる対策は?

ただ、肥料の原料であるリンとカリは天然鉱物でありその逼迫は数十年前から言われてきたことです。私は20年ほど前のサラリーマン時代に水処理の会社で研究開発に携わっていましたが、その当時からリンの枯渇と排水中に含まれるリンの回収の必要性が叫ばれていました。人口増加と食料生産の増加のトレンドは継続しており、需給のバランスが崩れるのは想定されてきたことなので、厳しい言い方かもしれませんが今になって肥料価格の上昇や肥料原料の逼迫に右往左往するのは先見性に欠けるように感じます。

このような状況のもと、有機肥料に対する注目が上がっています。日本はたくさんの食品、飼料を輸入しています。輸入されている食品や飼料に含まれている窒素、リン、カリの量は非常に多く、元素の物質収支で言うと国内で肥料として必要とされる量を超えています。つまり、理論的には日本は1kgも肥料を輸入しなくても国内の農業で必要な量を確保することができるということです。
逆に言うと、国内の循環資源で賄えるはずの肥料を輸入しているため窒素、リン、カリなどが国内で過剰となり環境負荷を引き起こしているとも言えます。

では、有機肥料をどんどん使用できるかというと簡単な話ではありません。一番の課題はどうやって散布するということです。
有機肥料は化成肥料とくらべ散布量が多くなります。まず、肥料の有効成分の量が大きくことなるため、散布量が多くなります。また化成肥料は粒状になっているものがほとんどで機械散布が容易にできますが、有機肥料は水分を含んでいたり固まり状になっているため、散布に手間がかかるものがほとんどです。たとえば、堆肥はマニアスプレッダーという機械がないと機械散布は難しいです。農業現場は人手不足が著しく、手間が増える有機肥料は敬遠されがちです。

マニアスプレッダ-(デリカ社ホームページより)

また、有機肥料はその名前の通り有機物を含んでいます。有機物が分解することで肥料として効果を発揮するため、肥料の効果がでるまでに時間がかかります。またいつどれぐらい肥料が効果がでるかが気候や土壌などの条件によって変わるため、経験が無いと予測しにくいという欠点もあります。

しかし、有機肥料をうまく使うと化成肥料だけより間違いなく収量が増えます。私は自分の出身大学で行われている肥料の試験のサポートをさせていただいており、毎年試験圃場の収量調査に参加しています。試験結果を見ると、有機肥料を使う方が顕著に収量が増加します。


これは、有機肥料には微量要素や有機炭素が含まれているため、土壌の改良や微量要素の補給効果などにより収量が増えます。また適切な使用により病害虫も減少する傾向を感じます。有機肥料の効果は非常に高いものがあります。
一方、肥料の価格を考えると実は有機肥料はそれほど安価なものではありません。たとえば一般的にホームセンターなどで安価に販売されている鶏糞も有効成分あたりで計算すると化成肥料とそれほど遜色ない価格となってしまいます。これは、有機肥料の方が有効成分含量が低く、実際に効果を発揮する肥料分が少ないため割高になるためです。
鶏糞の場合、通常は窒素が3%程度含まれています。このうち、実際に植物が利用できるのは半分程度ですので、実際は1.5%程度が有効な窒素成分と言うことになり、窒素15%の化成肥料の1/10となります。つまり、鶏糞は化成肥料の1/10の価格でないとコスト削減することができないということになります。ものの値段が安くなると相対的に運賃や容器代コストの比率が高くなり、コストの低減が難しくなります。

これからの時代、資源が安くなる要素はほぼありません。世界人口増加による食料生産の増加に伴い、肥料の使用量も確実に増加していきます。確かに有機肥料を使えない理由はたくさんありますが、できない理由を挙げるよりどうしたら使えるようになるかを考える姿勢が重要だと思います。当社は「資源循環により持続可能な社会実現に貢献する」ことを経営理念に掲げています。これからも微力ながら資源循環のお手伝いをしていきたいと思います。

穀物価格の上昇

一般にはあまり話題になっていませんが、飼料価格が大変な勢いで値上がりしています。

配合飼料4700円上げ 原料高騰、円安も 全農7~9月(日本農業新聞)
JA全農は18日、7~9月期の配合飼料供給価格を前期(4~6月)に比べて全国全畜種総平均で1トン当たり4700円値上げすると発表した。値上げは4期連続。飼料原料の国際相場の高騰、海上運賃の上昇、円安が重なった。


配合飼料の主原料はトウモロコシと大豆粕です。どちらもアメリカ産が多く使われており、アメリカの穀物取引市場の相場により価格が形成されます。日本の配合飼料価格は全農が基準となっており、全農の価格を基にして他のメーカーの価格も決められます。
昨年末よりシカゴの先物市場でトウモロコシ価格が暴騰しており、また為替や船賃などの影響も有り飼料価格は半年で3割以上上がっています。

シカゴコーンチャート(豊トラスティ証券サイトより

トウモロコシの先物価格を決める要因は様々なものがありますが、今回の価格上昇の大きな要因は中国の輸入量の増加です。トウモロコシの世界貿易量は1億5千万トン程度で、日本は1600万トンを輸入する世界最大の輸入国でした。しかし、数年前ではほとんど輸入を行っていなかった中国が今年度は2000万トン以上輸入を行って世界最大の輸入国となる見込みです。この急激な輸入増加によりトウモロコシ価格が上昇し、他の穀物にも価格上昇が波及しています。

畜産は畜種問わず生産費のうち飼料価格が占める割合が一番高く、生産費の50%~60%に達する場合もあります。飼料価格が3割上昇すると当然ながら非常に影響は大きく、経営的に厳しい事業者も増えることが予想されます。
突然の価格上昇に戸惑う声も多く聞かれますが、穀物価格の上昇は以前から予想されていました。

 

穀物の需給(農水省サイトより

 

穀物の需要は世界人口の増加や畜産物の消費拡大に伴い増加していますが、これまでは生産量もそれに応じて増加していました。しかし、穀物の生産量増加は耕地面積の拡大ではなく主として単位あたりの収穫量増加により実現されており、その伸びしろには限界があります。トウモロコシの単収は現在180ブッシュエル/エーカー程度で有り、これは1200kg/10a程度です。米の単収が600kg程度なのでいかに単収が多いかわかります。
これまでは肥料などの投入量の増加、遺伝子組換えなども含む作物の品種改良により単位収量が増えてきていますが、これまでのようなペースで増加することは難しくなると予想されています。需要の伸びに生産が追いつかなくなってきて需給バランスが崩れ始めたのが今回の穀物価格高騰のきっかけのように思います。これから数十年のうちにさらに世界人口は現在の1.5倍の100億人になることが想定されていますが、果たして地球で100億人の食料を供給することができるのでしょうか。

アメリカのトウモロコシの単収の推移(農水省サイトより)

当社は食品リサイクルの事業を営んでおり、飼料価格の上昇は短期的なビジネスの視点では追い風になります。しかし、本当に食品の需給が逼迫したとき果たして当社の行なっている食品リサイクルシステムが継続して行えるか、リスクファクターが増えているように感じています。畜産業だけではなく、食料の輸入や流通なども含めた食に関わるあらゆる業界に大きな変革が訪れることは間違いないと思います。

しかし、大多数の人は危機感が薄いように感じます。食の安全保障という基本的な部分のみならず、事業者にとっては継続性についても大きな不確定要素であり、消費者にとっては生活の基盤に関わる問題です。簡単に答えが見つかる訳ではありませんが、方向性を模索することが必要ではないかと強く感じます。

パイナップル残さの脱水システム

遅ればせながらあけましておめでとうございます。
昨年は新型コロナウイルスに振り回された1年でした。コロナ禍の影響により展示会は軒並み中止になり、出張もままならず業務に様々な影響がありました。
しかし、当社は比較的影響を受けにくい業種であったこと、また以前よりネットを利用した営業を行ってきたことなどが功を奏してなんとか1年間を終え売上げを増やして12月末の決算を終えることができました。これも取引先、スタッフほか関係する皆様のおかげです。ありがとうございます。

パイナップル脱水システム

新しく始まった仕事の一つに、カットフルーツ工場のパイナップル残さリサイクルがあります。パイナップル残さは従来より飼料としての利用がすすんでいました。しかし、排出されるパイナップル残さはそのままの状態では取扱がしにくく、保存性が悪い欠点がありました。
今回の取り組みは、パイナップルを脱水し脱水パイナップルを袋詰めしてサイレージとして保存し牛用の飼料として供給します。脱水したときに発生する脱離液はタンクに保管してタンクローリーで運搬し、豚用の飼料として利用しています。パイナップルを脱水して脱水パイナップルと液体を両方利用するのはおそらく日本で初めての試みではないかと思います。

脱水した液体なんてエサになるのかというご質問をいただくことがよくあります。パイナップルの脱離液はほとんどパイナップルジュースで、だいたい8%ぐらいの糖液です。豚のリキッドフィードは20%強の濃度で製造することが多いです。仮にリキッドフィード製造時に使用する液体をすべてパイナップル脱離液とした場合、約1/3をパイナップルの糖分で供給することができます。保存性もよく、消化性、嗜好性もよいのでリキッドフィードの原料としては非常に有用な原料です。
計算上はパイナップル汁と酒粕(と少々のアミノ酸)だけで豚の飼料をつくることができます。

現在も多種多様なお引き合いをいただいております。今後も新しい挑戦を続けていきたいと考えています。皆様今後ともご協力のほどよろしくお願いします。

バックヤードからみた食品マーケット

今年ももうすぐ終わろうとしています。年を取り1年過ぎるのは本当に早く感じます。
今年はコロナに翻弄された一年でした。

毎年出展している環境展も中止になり、営業活動があまりできない状況でしたがおかげさまで新規の仕事も多く会社の売上げ的にはなんとか体裁を保つことができました。これもコロナ以前よりホームページ等多方面への営業活動を行ってきたことが成果を結んでいるように思います。

今年大きく増えた仕事の一つがパイナップルです。カットフルーツ工場から排出されるパイナップルの残さをリサイクルする仕事が大きく増えました。コンビニ、スーパーでのカットフルーツマーケットの伸張により、パイナップの排出量が大きく増えています。パイナップルは可食部位の比率が50%に満たず、1kgのカットフルーツを製造すると1kg以上のゴミが発生します。
もともと世帯人口の減少、共働き世帯の増加によりカットフルーツの需要は伸びていたのですが、コロナ禍による内食の高まりにより、更に需要が増えています。
このため、当社へのカットフルーツ残さリサイクルのご依頼が増加しています。

パイナップル残さ

他方、テレワークや学校のリモート授業により、お弁当やおにぎりの需要が落ちているます。このため、米の需要は落ちています。家で食べるとしても、簡単に調理できるものが主体になっていることがよくわかります。
また、外食が減り中食が増えることにより、国産豚肉の需要が高まり今年は高豚価が続きました。今年一年通してみて、外食と中食ではかなり食べるものが変わるというのが新しい発見でした。
バックヤード稼業をやっていると世間の食マーケットの動きがよくわかり興味深く思います。

パイナップルに話を戻すと、現在当社では関東地区4カ所(神奈川2カ所、埼玉2カ所)、静岡、兵庫のカットフルーツ工場から発生するパイナップル残さのリサイクルを行っています。
パイナップル残さの取扱量は年間4000トン程度になり、パイナップル換算すると約9000トン程度の取扱量となります。日本のパイナップル輸入量は15万トンぐらいなので、当社は全国のパイナップルの6%の残さを取り扱いしていることとなります。零細企業の割にシェアが高いものだと自分で計算して驚いた次第です(^^)

パイナップルサイレージ

新しく始まった静岡の現場では、パイナップルを脱水し、粕と汁に分けて再利用しています。粕は高消化性繊維、汁は糖が成分の主体であり、パイナップル粕はサイレージとして牛に、絞り汁は液体のまま豚向けに供給を行っています。

さまざまな食品リサイクルが取り組まれていますが、まだまだリサイクルされていない食品残さはたくさんあります。来年もまたバックヤード稼業として新たなリサイクルに取り組んでいきたいと思います。