クラフトビールの麦芽粕

今年も暑い日々が続いています。おかげで個人的にはビールの消費量がふえています。当社ではクラフトビールの麦芽粕(ビール粕)をリサイクル取り組みを10年ほど続けています。↓は開始した当初、お取引先のコエドビールさんが出されたプレスリリースです。
工場で発生するビール麦を飼料として完全リサイクル!

当社では現在10社弱のクラフトビールメーカーとお取引があります。大手ビールメーカーのビールも飲みますが個人的にはクラフトビール好きなので、お取引先のビールをいろいろ飲むのが楽しみの一つです。クラフトビールは大手メーカーとは異なる豊かな味わいの個性のあるビールが多いですが、実はリサイクルする麦芽粕においても違いがあります。

ビールは麦芽とホップが原料です。麦芽を粉砕し、お湯につけると麦芽に含まれる糖化酵素の働きで、麦芽のデンプンが糖に変わります。糖液を酵母発酵させるとアルコールができ、そこにホップを加えるとビールになります。糖を取り終わった麦芽を脱水したものがビール粕(麦芽粕)で、飼料として利用されます。大手ビールメーカー4社の麦芽粕はすべて飼料として利用されていますが、クラフトビールの麦芽はリサイクルされていないものが多くあります。

大手ビールメーカーの麦芽粕は、飼料に加工する際に脱水するとともに、乳酸菌や糖蜜、繊維分解酵素などを入れています。麦芽粕は乳酸発酵することで保存性や嗜好性が高くなり、飼料としての価値が高くなります。乳酸発酵を促進するための資材が糖蜜や繊維分解酵素です。他方、当社が取り扱いしているクラフトビールの麦芽粕は、脱水をするだけでとくに何も添加していません。クラフトビールの麦芽粕には糖が多く含まれているため、特に添加しなくても乳酸発酵がきれいにすすみ、良い品質のサイレージ(乳酸発酵飼料)ができあがります。

麦芽粕サイレージの製造

これは、大手ビールメーカーは糖を限界まで取ってできるだけビール製造の歩留まりを上げているのに対し、クラフトビールは設備の限界と、味わいを損ねないようにするため絞りきりすぎないようにしているため糖が残存しているという違いだと推測されます。お客様の酪農家さんで大手ビールメーカーの麦芽粕と当社取扱のクラフトビールの麦芽粕を併用してる現場がありますが、明らかにクラフトビールの麦芽粕のほうが嗜好性が高いとのことです。ビール製造時の手法の違いが飼料となる副産物にまで現れるのは本当におもしろいと思います。廃棄物から食品製造工程を推測することができる興味深い仕事です。

せっかく良い麦芽粕ができあがるクラフトビールではありますが、ほとんどのブルワリーは規模が小さく、なかなか麦芽粕のリサイクルができるほどのスケールではありません。リサイクルするためにはある程度の規模が必要となります。制約はありますが、少しでも多くの麦芽粕を有効に活用してクラフトビール業界に貢献していきたいと思っています。クラフトビールファンとしてもやりがいがある仕事です。


ウイスキー蒸留所のリサイクル

新型コロナウイルスの流行も1年以上経過し、社会全体が疲弊している感じが強くなっています。自分は酒好きなので飲みに行くことができないことにストレスを感じます。
当社は様々な食品副産物をリサイクルしていますが、酒造関係の醸造副産物の仕事も多いため酒の生産量が減っている影響が出ています。業務的な側面からも早く元の社会に戻れることを切に願います。

当社では酒造関係の仕事はビール、日本酒、焼酎などを取扱しています。最近取扱量が急激に増えているのがウイスキーの製造副産物のリサイクルの仕事です。昨今のジャパニーズウイスキーの流行に伴い、国内のウイスキー蒸留所の数が増えています。ウイスキー(モルトウイスキー)の作り方はおおざっぱに言うと以下のようなプロセスです。
1.麦芽を粉砕し、お湯に浸漬します。麦芽中の酵素(アミラーゼ)によりデンプンが糖化します。
2.麦汁をしぼります。
3.麦汁を発酵タンクにいれ、数日程度酵母発酵させます。
4.発酵したもろみをポットスチルと呼ばれる蒸留器で蒸留します。アルコール分を高めるため2回蒸留します。
5.蒸留した液を木樽に詰めて3年以上熟成させます。

詳しくはさまざまなサイトに載っていますのでそちらをご参照ください。
例→サントリーのサイト

このような製造過程で麦芽の粕と蒸留廃液が発生します。大手ウイスキーメーカーでは従来より麦芽(ウイスキー粕)のリサイクルが行われていましたが、小規模な蒸留所では麦芽リサイクルのノウハウが乏しく有効な活用があまり行われていませんでした。当社ではノウハウの蓄積によりウイスキー粕と蒸留廃液のリサイクルを行っており、現在全国の5カ所の蒸留所の現場でリサイクルのお手伝いを行っています。また、新規蒸留所からのお問い合わせも増えており、近日中に数カ所の蒸留所でリサイクルがスタートする見込みです。
麦芽は乳酸発酵させサイレージとして保存し、主に酪農向けの飼料として販売しています。蒸留廃液はタンパク質が豊富で有り、養豚向け飼料および発酵飼料原料として利用しています。

ウイスキー粕飼料化システム

ウイスキーの原料はビールの麦芽と同じものですが、ビールと少し製造工程が異なるため飼料とする際の発酵が上手くいかない傾向にあります。当社は発酵のやり方を試験しノウハウも確立できてきたので先日特許も出願しました。

自分はお酒の中でもウイスキーがかなり好きで、コロナ禍以前はショットバーに行きウイスキーを飲むのが楽しみでした。でも、ウイスキーの作り方について詳しくは知りませんでした。仕事で蒸留所に行きウイスキーの製造方法や原料について詳しく知ることができ、またいろいろなウイスキーを試飲したりと役得を堪能しています。通常は見学できない製造工程も見学できたりもします。
ジャパニーズウイスキーをいろいろ飲み比べると、繊細で奥深いものがあります。また作り手の熱い想いを知り、これからのジャパニーズウイスキーの広がりに期待しています。