「脂の質」を科学する

最近、年を取ってあっさりしたものを食べたくなることが多くなりました。背脂マシラーメンよりも醤油ラーメン、醤油ラーメンよりもウドン。

以前のブログでは、当社のブランド豚「雪乃醸(ゆきのじょう)」の脂が驚くほどあっさりしているとことをお伝えしました。今回はその裏側にある飼料設計について、少し専門的な技術について解説をしたいと思います。

お肉の美味しさ、特に脂のキレは、実は科学的な裏付けによって作られています。

豚肉の脂が重く感じたり、口の中に残ったりする原因の一つに、脂に含まれる多価不飽和脂肪酸の一種のリノール酸の含有量があります。

リノール酸は体に必要な栄養素ですが、飼料に含まれる量が多くなりすぎると、豚肉の脂に移行し脂のリノール酸含量が上がります。その結果、脂が酸化しやすくなったり、食後の重さにつながることがあります。また、融点(溶ける温度)が下がりすぎて、取り扱いしにくく肉屋さんから敬遠される原因となります。

そこで、雪乃醸の飼料設計においては「飼料中のリノール酸含量を極限まで下げる」という設計を行っています。

一般的な養豚飼料ではトウモロコシが主原料となりますが、実はトウモロコシにはリノール酸が比較的多く含まれています。雪乃醸の「究極のあっさり」を実現するため、当社ではエコフィード(リサイクル飼料)のノウハウを駆使し、トウモロコシの代替としてお米やパン屑を活用しています。米やパンはリノール酸含量が少ない原料です。飼料中のリノール酸含量が少ないと、リノール酸は体内で合成できないため豚肉の脂のリノール酸含量が下がります。

リノール酸を抑えることで、その結果として相対的にオレイン酸の比率が高まります。オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれる一価不飽和脂肪酸で、酸化しにくく、口の中の温度ですっと溶ける性質を持っています。オレイン酸は体内で合成することができるので、飼料のリノール酸が少ないと相対的にオレイン酸の割合が増えます。

ただ、脂肪の添加量が少ないとカロリーが不足して増体に影響が出てしまいます。そこで、配合設計に飼料原料としてバターなどを多く含むお菓子、たとえばパイやバームクーヘンを組み入れてます。バターはパルミチン酸などの飽和脂肪酸(融点が高い)が多く含まれています。パルミチン酸が含まれている原料を与えることで、脂肪の融点もコントロールできます。このように飼料中の脂肪酸組成をコントロールすることで、豚肉の脂肪は自由にコントロールできます。

このリノール酸を減らし、オレイン酸を増やすという設計をおこなうことで、雪乃醸の脂に透明感を与えています。雪乃醸は国内はもとより海外の銘柄豚よりも圧倒的にリノール酸が少なくなっています。分析を行うと一般的な国産銘柄豚に含まれるリノール酸の数分の1の値を実現できています。

ただ豚を大きくする飼料を食べさせるのは簡単ですが、不要な成分を削ぎ落として、理想の脂質を作るのは幅広い原料とノウハウがなければ実現できません。当社が持つ食品リサイクル技術を基に、原料それぞれの成分まで把握し、この高度な飼料設計を実現することができました。地域から出た未利用資源を緻密な計算で配合し「雪のようにとろける脂」を創り上げていきます。


雪乃醸をしゃぶしゃぶやステーキで食べた後、お皿に残った脂を見るとその脂肪酸の違いが実感できます。残った脂を手の甲に乗せるとすっと溶けていきます。

「脂身は苦手だけど、雪乃醸ならいくらでも食べられる」

そう言っていただける豚肉を召し上がって頂けることを目標に、飼料設計から養豚生産まで取り組んでいます。


飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。