豚肉の販売の難しさ

今年に入ってからずっとバタバタしており、ブログの更新もだいぶ怠っていました。
忙しい理由の一つに、豚肉の販売店を始めたことがあります。

豚専門店雪乃醸

豚肉の販売店はもちろんのところ、小売り自体が全くの未経験のため様々な課題があり、少しずつ問題解決しながら販売を進めています。
そもそも、豚肉の販売を生産者が行うことは基本的にはかなりハードルが高いです。肉の場合、生体を売るわけにはいかないので必ずと畜場でと畜する必要があり(法律で決まっています)、と畜してできた枝肉を脱骨し整形して始めて小売りすることができるようになります。卵や野菜は収穫したものをそのまま販売することができるのと異なり、流通の過程がどうしても介在するため生産者が販売する差別化が難しい特性があります。
また、豚肉の場合、品質差が少ない傾向にあります。もちろん個々の豚肉には歴然とした違いはあるのですが、絶対的な品質が底上げされており、日本を含め世界中基本的には飼料や品種の差異が大きくないため絶対的な品質差は少なくなっています。日本では配合飼料を給与する場合が多いですが、配合飼料メーカーも当然ながら豚肉品質の改善に注力しているため基本的に美味しい豚肉が生産されています。また、海外の豚肉も日本の商社が介在し、日本の消費者ニーズに合わせた豚肉を生産していたりします。
いきおい、豚肉のブランド化はストーリー性だったり、生産者の情報発信に注力をおくことになりがちになっています。

そういった背景のもとではありますが、当社の養豚は一般的な養豚とは餌の原料が大きく異なるため味の差が通常よりはっきりと出ており、差別化できる可能性はあると思い販売を開始しています。飼料が異なるため、当社の豚肉「雪乃醸」は脂肪中のリノール酸含量が圧倒的に少なく、一般的な豚の半分以下しか含まれていません。脂の質には特徴が出ており、脂の軽さには自信があります。実際、ネット通販のレビューではかなり好評をいただいています。
ただ、そうは言っても脂が軽いことを求めてあえて割高な豚肉専門店に足を運ぶ層はごく一部であり、マーケットとしては限りなくニッチであることは間違いないかと思います。

先日、イベントに出店してベーコンなどを焼いていたのですが、そこで召し上がっていただいた方が「美味しかったから」と来店いただきました。こういうお客様が地域の中に少しずつ根付いていってほしいと思っています。おいしさをもっと知ってもらうため、地道にコツコツがんばっていくつもりです。

飼料と豚肉の味

先日、豚肉勉強会で少しお話をする機会がありました。豚肉の食味に及ぼす飼料の影響についてお話をしました。

豚肉勉強会にて

講演では飼料は豚肉の肉質に影響を与え、特に脂の質に影響を与えるということを中心にお話しました。牛などの反芻動物は第一胃(ルーメン)で脂肪の組成が変化しますが、人間、豚などの単胃動物は摂取した脂肪の種類がそのまま体に蓄積します。
一般的な飼料に使用されるトウモロコシ、大豆は含まれている脂肪の中にリノール酸が多いため、豚肉の脂肪のリノール酸含量が多くなります。リノール酸自体は必須栄養素でありますが、比率が高いと脂の食感の重さの原因となります。

また、脂肪酸組成によって脂の融点が変わります。融点が高く、特に体温より高い場合は口溶けの悪い脂になります。逆に、不飽和脂肪酸が多く融点が低いと脂のくどさにつながります。
エコフィードを使用した場合に問題になることが多いのは脂肪の量と質です。レストランやスーパなどのいわゆる食べ残し系の食品残渣の場合、揚げ物比率が高い傾向があります。そのような原料は脂の含量が20%以上のこともあり、リノール酸の含量が高いことがほとんどです。また、調理の過程で脂肪の酸化がすすんでいることもあり、匂いの原因となることもあります。魚などが含まれると、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが豚肉に移行しますがこれも生臭さの大きな要因となります。

当社生産している豚「雪乃醸」はトウモロコシ、大豆不使用で、エコフィードでもリノール酸が多い原料は極力排除しています。その結果、リノール酸含量が非常に低い値となっています。食べると「あっさりしている」という評価をいただく場合が多いです。また、融点は若干低めとなっていますが、肉の締まりはよく、肉屋さんからも好評を頂いています。

雪乃醸の脂肪酸組成分析(ロース筋内脂肪)

豚肉のブランド化において、飼料による差別化を図ろうとしても通常はコストの制約からトウモロコシ、大豆粕主体とせざる得ないです。その結果、脂肪酸組成の大きな差がつかない傾向にありますがエコフィードを使うことで脂肪酸組成に特色を出すことができます。

しかし、どんな肉が美味しいかは個人の好みであり、当社雪乃醸のようなあっさり路線も一つの方向性でありますが、こってり路線だったり肉肉しさを追求するのもやり方の一つです。飼料原料を選択することでどんな脂肪酸組成になるか、そしてどんな味にするかを決めることができるのが養豚の面白さだと思います。

残念ながらブランド豚肉の中には飼料の差異が少なく、一般豚との味の差が少ないケースも散見されます。そういったブランドの中にはストーリー性や生産者の顔が見えることを差別化のポイントとしている例もあります。ただ、当たり前ですが食べ物のブランドとして販売するためにはきちんと特徴を出した肉であることが必要かと思います。特徴のある豚肉生産をすることで、国産豚肉の存在意義を出していくことがこれからの日本の養豚の存続発展のために必要だと思います。