生ハムとうまみ調味料

かなり前になりますが、秋田で行われた国産生ハムフェスティバルに参加してきました。

生ハムフェスティバル

実は私はの生ハム好きが高じて三河トコ豚極め隊として生ハム工房を立ち上げることを計画しており、以前より豊根村の廃校で生ハムの試作を行っています。今回、生ハムサミットでいろいろ情報交換できたのは非常に参考になりました。

豊根生ハム

私は酒好きで、生ハム、からすみ、ハードチーズ、塩辛、鮒寿司などなどを嗜好しています。共通するのは旨みを多く含まれていると言うことです。こういう、熟成して作られた食品の旨みは何にも代えがたいものがあり、最高に酒に合います(笑)

では、なぜ熟成をすると旨みが増えるのでしょうか。もともと、これらの食品にはタンパク質が多く含まれています。タンパク質はアミノ酸が多数結合されてできています。

タンパク質の構造

こちらの図にある小さな丸1つ1つがアミノ酸です。タンパク質はおよそ20種類のアミノ酸から構成されています。タンパク質そのものは分子構造が大きく、水に溶けませんので基本的に旨みがあるわけではありません。食品を熟成させる過程で、タンパク質が分解してアミノ酸が生成することで旨みがでてきます。熟成といってもその作用機構はそれぞれことなっており、例えば生ハムの場合、肉にもともと含まれているタンパク質分解酵素が働くことで、タンパク質が分解されていきます。また、麹を使った食品などでは、コウジカビが分泌するタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が作用することでタンパク質が分解されアミノ酸が生成することで、うまみが増えていきます。

なお、豚肉(生肉)のアミノ酸分析を行うと、アミノ酸含量は低い水準で、味覚閾値(感じることができる濃度)より低いことがほとんどです。基本的に、生肉はアミノ酸の味は無く、脂や香りを旨みとして感じています。

市販の「生ハム」にはラックスハムに分類されるものが多くあります。これは、長期熟成させず短い期間塩蔵したものを調味料で味付けしたものです。熟成期間が短いため、アミノ酸があまり生成されず旨みがたりないため、グルタミン酸ナトリウムなどのうまみ調味料を使用していることがほとんどです。

グルタミン酸ナトリウムなどのうまみ調味料、いわゆる化学調味料を健康に影響があるなどの理由で敬遠されることあります。しかし、グルタミン酸ナトリウムは昆布のうまみ成分であり、一般的な濃度でしたら健康に影響はありません。もし、グルタミン酸ナトリウムで健康に影響が出るなら、昆布だしたっぷりの懐石料理も食べられないことになってしまいます。

ただ、自然の熟成を行うと、単純な一種類のアミノ酸が生成するわけでは無く、タンパク質を構成するさまざまなアミノ酸が生成し、またアミノ酸がいくつか結合したペプチドも生成します。また、熟成の過程で脂肪の分解もおき、それがフレーバー生成にもつながります。多種多様なうまみ、香りがあることが味の奥深さにつながります。

つまり、うまみ調味料を使うと、危険なものが入るのでは無く、うまみを形成するものが足りないので味が単調になってしまうという点が問題であると言うことです。

残念ながら、効率を重視する現在の食品産業ではうまみ調味料を多用する傾向があります。たとえば、市販の塩辛はほとんどがアミノ酸が添加されていますし、サラミなどもうまみ調味料添加されているものが大多数です。しかし、生ハムや塩辛などはきちんと熟成を行うことで、うまみ調味料を使用するよりもうまみを引き出すことができます。
※そういった実験を行った例がデイリーポータルZに載っています。

 

個人的にはこういった知見が広まることで、もっと美味しい生ハム、塩辛が広まることを期待しています。スーパーの塩辛の原料表示に「アミノ酸」とあるのを見てそっと棚に戻すことが減り、美味しいつまみで酒が飲める機会が増えることを心より願っています。