産廃業者はブラックな存在なのか

相変わらず慌ただしい日々を送っています。常に締めきりのある書類を抱えているという状態がここ数年来続いており、少々疲れ気味です。仕事することは楽しいのですが、たまにはTODOリストが空になって欲しいと切に願う今日この頃です。

忙しい理由の一つは、カツの横流し事件をきっかけに、当社の取引先の食品メーカーの担当の方が監査のため当社に来社される機会が増えたためです。以前書いたように、お越し頂くのは歓迎なのですが予定が埋まってしまいスケジュールがタイトになっています。

しかし、立ち入り監査をしても、24時間見張っているわけに行きませんから本当に悪意を持っている業者がいた場合、今回のような事件を防ぐことは困難です。
実は、廃棄物業界は構造的にこのような犯罪がおきやすくなっています。それは、産廃業者がブラックというわけではなく、廃棄物の取引の形態に起因するものです。

一般の商取引の場合、商品やサービスの引き渡しと引き替えに対価が支払われます。つまり、商品、サービスとお金が逆方向の流れになります。ところが、廃棄物の取引の場合、商品(廃棄物)の引き渡しとあわせて対価の引き渡しが行われます。つまり、商品とお金が同じ方向に流れるわけです。

商品の流れ

一般的な商取引の場合お金を支払った側にはサービスや商品が渡されるため、もし商品に瑕疵や不正があった場合には発覚が容易ですが、廃棄物取引の場合、お金を払った時点で手元から商品(廃棄物)が無くなってしまうため仮に不正があったとしても発覚しにくいことになります。このため、不正が起こりやすい環境にはあります。
食品の産地偽装などが散発しているのも、同様に確認するすべがないため発覚しにくいことがその一因かと思います。
また、このようなものの流れがあり、品質が悪くとも排出事業者には直接的な影響がないため、とかく安ければいいという風潮になりがちです。このことも今回の事件の一つの理由かと思います。

逆に、廃棄物はこのような特色があるため、許可取得には高いハードルがあり、また不祥事を起こすと許可取り消しなどの厳しい処分があります。廃棄物業界は不正を行う=即利益という性質があるために許認可に際しては法知識を有することを求められるのはもちろん、財務内容などの審査も行われます。

また、廃棄物の処理に関しては必ず契約書を締結することが法で義務づけられています。不正が起きないように契約面でも担保しようという意味もあります。今回の横流しは廃棄物処理法での立件はかなり厳しいものがあると思いますが、契約に違反していることは明らかです。

産廃業界に足を踏み入れた頃よく、産廃業界って悪い人がいっぱいいるのでは無いか?と聞かれました。許可取得に際しては警察に暴力団関係者で無いことの照会がおこなわれますし、先に述べたように許可取得もかなりハードルが高いため世間一般の人がイメージするようなブラックな業界ではありません。今回のような事件を起こすのはごく一部の業者であることを強調しておきたいと思います。

食品廃棄物の横流しに関する業界人の意見

例によって更新を怠っているため書こうと思っているネタがたまっているのですが、世間を騒がしている廃棄カツの事件についてお問い合わせが多いので業界人の立場からすこし書いておこうと思います。

まず、世間の皆様に最初にご理解頂きたいのは、ほとんどすべての廃棄物は適正に処理されており、今回のような事件は非常にレアケースであると言うことです。日本では食品廃棄物は2000万トン弱の発生量が推定されており、その中には今回ような製品も多く含まれています。仮に横流しが横行しているようでしたら、もっと大変な量が出回っていることとなります。

また、産業廃棄物処分業は非常に厳しい規制があり、今回のような問題が発生すれば間違いなく事業を続けることができません。許認可を受けるためには法律を含んだ講習を受講することが義務づけられており、廃棄物業界の人は「なにをやったら違法なのか」ということは十分承知しています。

加えて、今回のような冷凍食品は取り扱いが難しいため、横流しすることはきわめて困難です。(廃棄物の収集運搬車で冷凍車はほとんどありません)食品として買取したいというブローカーが暗躍しているという一部報道があったようですが、少なくとも当社に食品として買い取りしたいと言って来た人間はいません。普通に考えて産廃業者からまともな「食品」が出てくるわけがありませんから、それを買おうと思う人間は相当な確信犯であり、そういう人間が多いとは思えません。

なお、産業廃棄物として受け入れたものを有価売却すること自体は法に問われるかどうかは微妙です。たとえば解体工事で出てきた鉄筋はスクラップとして販売されることが普通です。問題なのは、「食品として使えないから処分したい」という依頼に対し「堆肥として処理する」という契約を締結しているにも関わらず「食品」として転売したという点にあります。
今回の事件ではマニフェスト(産業廃棄物管理表)に虚偽記載がされていたわけですが、これは不適正な処理を行ったから正確な記載ができなかったという結果であり、原因ではありません。

なお、今回の事件で私が一番おかしいと思うのは、少なからず「法制度に不備があったからこのような事件が起きた」「監視体制が悪かったから」などの報道が行われているという点です。
なにかを委託するなどの取引の場合、どれだけ厳しく法律などで縛っても悪意ある人間がいた場合不正を100%防ぐことは困難です。

たとえば、新聞記者は記事のねつ造をしたり、マスコミがやらせをしたりすることは本当に悪意ある人間がその気になれば簡単にできてしまいます。監視やチェックだけで防ぐことは無理で、良識と常識によって担保されているに過ぎません。

日経新聞にこんな記載がありました。記者の知見があまりにお粗末なので無断転載します。

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「廃棄カツ、なぜ食卓に 自己申告悪用浮き彫り」 2016/1/20 2:02

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD18H47_Z10C16A1CN8000/

性善説で運用

ダイコーはマニフェストにうその情報を書き込んで廃棄食品を処分したように装っていた。壱番屋は処分結果をマニフェスト上で確認しただけで、実際に堆肥にしたかは確認していなかったという。ダイコーの自己申告であり、記録だけ見ても不正を見抜くことはできなかった。壱番屋の担当者は「報告通り、処分したと信じていた」としており、廃棄物を産廃業者に委託する際の対応を厳格化する再発防止策を発表した。

廃棄物処理法は、委託先が契約通りに処理したかについて、処理を発注する事業者が、立ち会い確認などすることを努力規定としている。いわば、廃棄物処理は処理業者がうそをつかないことを前提とした「性善説」で運用されているのが実情だ。愛知県の担当者は「発注元はできる限り、実地確認をしてほしいが、マニフェストには第三者のチェックが入らず、うそを見破るのは難しい」と話す。

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実地確認したって24時間張り付いているわけではないので限界がありますし、仮に24時間張り付いていたとしても本当に悪意ある人間は防げません。先に述べたようにすでに法律が厳しく運用されており、行政の立ち入り検査も頻繁にあります。一般的な商取引よりはるかに厳しく監視されている状態ですらこのような事件を行うのは相当な確信犯であり、そういった人間を規制や監視で防げると思うのがおかしいです。世の中は社会システムは基本的に性善説で運用されているわけであり、むしろ産廃業界(や食品業界)は疑われやすい業界であるが故に一般的な事業と比較し監視体制が厳しく行われています。中国ならいざ知らず、相手が不正を行うことを前提で商取引を行う業界が日本にあるのかと言う話です。先に述べたように新聞記者の記事もいわば性善説で書かれているわけですから、この事件で「性善説で運用」なんて見出しをつける日経記者の思考回路は相当一般社会常識から乖離していることは間違いないでしょう。

今回に限りませんが、食品になると鬼の首を取ったように大騒ぎするマスコミの姿勢には本当にうんざりです。そもそも廃棄品が出たのも異物混入などの事件でマスコミが繰り返しあおり立てるためむやみに廃棄品が増えているわけです。(おかげで業界及び当社の仕事は増えていますが)本来、健康被害が出る恐れがないものに関しては回収や廃棄する必要はないと思いますが、センセーショナルな報道やそれに影響された一部の消費者により異常なほど食品業界の規格が厳しくなっています。仕事を長くやっていると当たり前のようにそのような廃棄品を受け入れていますが、いまなお飢えた人がいる社会の中でほんとうにこれで本当によいのか、時々自問自答する日々です。もちろん当社では今回のように食品として流通させることはなく飼料、肥料としてリサイクルしているのですが、食べるのに全く問題無いものを家畜飼料にすることに背徳感を感じることもあります。

マスコミの皆さんは本質的になにが大事なことかよく考え報道を行っていただきたく思います。報道機関には耳目を集めることだけを考えるのでは無く、これからの社会構築に必要なことを報道することが求められています。