娘(3歳)が風邪を引いたようで、39度ぐらい熱が出ています。普段は元気いっぱいで大変な騒ぎですが、今日は大人しく寝ているのでブログなど書いています。
明日は日曜日で休日診療に行くか様子を見ているところです。
医者に行くと薬の処方があるわけですが、熱が出ているだけでも割と抗生物質が出されることが多いように思います。
畜産関連の仕事をしていると抗生物質の話題も良く出ますが、実は畜産では抗生物質の使用はかなり厳しく制限されています。
Wikipediaより By Yikrazuul – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン
先日も抗生物質の一部が使用禁止になるというニュースがありました。
薬剤耐性で2つの飼料添加物取り消しへ 農林水産省
まず、抗生物質とはどんなものか改めて確認してみます。
抗生物質は細菌やマイコプラズマなど微生物の増殖や活動を抑制する作用がある物質のことを総称しています。一番最初に発見されたのがペニシリンで、青カビから抽出されています。他の抗生物質もカビなどが由来のものが多いです。抗生物質は微生物だけに作用しますので、基本的には(アレルギー反応などはありますが)哺乳動物には作用しないものを言い、またウイルスなどにも効果はありません。
日本では食品衛生法において「食品は、抗生物質を含有してはならない。」という規定がありますので、と畜場や牛乳工場では検査が行われ、万一検出された場合は出荷が停止されます。しかし、誤解されていることが多いですが、抗生物質自体は人間用、家畜用でも同じようなものが使用されていますので、抗生物質が残留することで健康被害が起きるというわけではありません。抗生物質が危険なわけではなく、抗生物質の多用により抗生物質が効かない耐性菌が出現することが懸念されるためです。実際の現場では、抗生物質が残留しないように出荷時から一定期間は抗生物質は使用できませんし、採卵鶏や牛乳のように毎日出荷するものの場合は出荷中は抗生物質は使用されません。
上記の禁止になった抗生物質も、耐性菌が発見されたため禁止に至ることになり、それ自体の有害性があったわけではありません。
畜産では抗生物質は大きく分けて「治療」「増体」の2種類の目的で使用されます。治療用は人間同様に疾病にかかった豚に経口投与or注射するやりかたで使用されています。一方、増体目的というのは、飼料に抗生物質を少量だけ添加することで成長がよくなることが知られており、より効率的に家畜生産する目的で使用されます。論文のデータなどを見ると増体は確実に良くなる結果が得られています。このメカニズムとしては、抗生物質を添加することで細菌感染が減ることで、免疫ができなくなり、その分のエネルギーロスがなくなるため成長が良くなると一般的には言われています。人間も動物も体内や皮膚に多くの常在菌を養っています。これらの常在菌により病気にならないのは免疫システムがあるためです。(ので、HIVなどで免疫不全になると感染してしまいます)この免疫生成にはかなりのエネルギーを消費しており、この分が減るとエネルギー効率が良くなる・・という仕組みです。
ただ、個人的には増体目的の抗生物質添加にはすこし疑問があります。確か実験結果を見ると顕著な効果があるのですが、実験を行っている多くが試験農場などでもともと細菌感染の機会が少ない状況にあり、免疫抑制の効果が発現しやすい可能性があります。また、菌叢を減らすと言うことは特定の菌が増殖しやすくなる可能性も否定できないのでは無いかと思います。なにより、微量に添加するというのは耐性菌を生み出しやすい条件であります。
私の父は数年前に風邪をこじらせて敗血症になり、抗生物質の多量投与により危機を脱して退院することができました。私自身もピロリ菌除菌や副鼻腔炎治療などで抗生物質にはいろいろと恩恵を受けています。
その経験から、抗生物質は切り札として効果を発揮することが大事ではないかと思います。なので、ウイルス性のものが多い風邪での安易な処方や、増体目的の飼料添加など避けられるものは避けた方が良いと思っています。
重ねて強調しますが、抗生物質自体は安全なものであり使用をむやみに忌避する必要は無いと思います。なので抗生物質不使用で安心という売り方には賛同しかねますが、一方で無用な使用(人間に対しても家畜に対しても)は公衆衛生に影響を与える可能性があるということを留意すべきかと思います。
畜産物の抗生物質を敬遠している消費者が、風邪ひいたときに医者で「抗生物質は出ないのか」と言ったりするのは矛盾しています。いずれにせよ、人間も家畜もあまり薬に依存しすぎないようにすべきかと思います。と言いつつ自分は抗アレルギー剤を365日服用していたりするのですが・・w。