微生物資材はどうしてうまくいかないのか

ばたばたしていてブログ更新を怠っていたらすっかり春になってしまいました。暖かくなるこの時期、リキッドフィードの異常発酵が問題になることがあります。リキッドフィード、特に当社が取り扱うものは糖含量が高く、酵母発酵しやすい傾向にあります。酵母発酵するとアルコールが生成され、おそらく香りなどの影響で豚の嗜好性が低下します。また、アルコール含量が高くなると豚も酔っ払ってこちらも嗜好性低下の原因となります。また、発酵すると泡が発生し、タンクからあふれたりする原因となります。ちょうど20度前後は酵母にとって適した温度のため、春と秋は特に発酵が進みやすい傾向にあります。これを防ぐため、当社ではリキッドフィードを65℃で滅菌し、さらにギ酸を添加して発酵を抑制しています。

空気中にはたくさんの酵母や乳酸菌などが浮遊しています。また、リキッドフィードの原料となる食品にも微生物が多く付着しているため、微生物の汚染はさけられません。安定した嗜好性を維持することは豚の飼養管理において最も重要な点であり、そのために費用と手間をかけて菌叢コントロールのための滅菌処理を行っています。

たとえばヨーグルトは乳酸菌の種類によって大きく味が異なりますし、日本酒も酵母によって味が大きく変わります。菌叢のコントロールができているのは滅菌するなどして菌数が少ない状態をつくり、そこに特定の菌株を接種しているからです。
逆に言うと、すでに菌が増殖をしているような環境下で別の菌株を導入してもそれが優占種になることは難しいことが多いです。

排水処理や土壌改良などで微生物資材が各種販売されています。前職で排水処理メーカーの研究所にいたときは、ほんとうによく「汚泥が減る菌」「処理能力が上がる菌」の売り込みがありました。もちろんこういう菌がうまく増えれば処理がうまくいくことはあります。しかし、排水処理は非常に多くの菌が存在している場所なので、そこに特定の菌をいれてもうまく増える可能性は非常に低いです。たとえば、畑にダイコンの種をまくとダイコン畑になります。ところが山のうっそうと茂った森や、草が生い茂った耕作放棄地に種をまいてもほぼ育ちません。排水処理のタンクの中は微生物的にはうっそうと茂った森のようなものです。

ちょっと疑問なのは今は微生物の特定はPCRなどの手法が発達しており容易に確認できます。入れた菌がちゃんと増えているかどうかは確認できるはずなのに、微生物資材の会社はそれを検証している例がほとんどありません。入れた菌がきちんと増殖していなければ、もし効果があったとしても偶然の産物に過ぎないということです。

菌叢をコントロールするためには環境の維持が必要です。逆に言うと、環境と整えれば自ずとそれに適した微生物叢になっていきます。開放系においては菌のコントロールには菌種よりも環境の方が重要なファクターとなります。

日本酒は非常に複雑な菌叢コントロールの仕組みがありますし、味噌や醤油なども繊細な微生物のコントロールが行われています。日本には誇るべき発酵文化がありますので、日本の発酵文化を基に現代の科学的知見をもって多種多様な分野に活かしていけたら新たなステージを築くことができるのではないでしょうか。

堆肥の発酵促進

今年は夏過ぎてから新規案件などで大変忙しく、ブログの更新もすっかり怠っていました。
気づくとすっかり秋も深まってきています。

気温の低下に伴い、堆肥の発酵が悪くなる時期が来ました。食品残さのリサイクル方法は様々なものがありますが、そのうちの一つが堆肥によるリサイクルで飼料化が増えてきてはいますが堆肥によるリサイクルも重要な手法です。
また、家畜の糞尿はそのほとんどが堆肥としてリサイクルが行われています。

 

堆肥は微生物反応なので、外気温が低下すると反応が悪くなります。加えて微生物の呼吸により温度が上がりますので、いっそう堆肥の温度低下が発生します。
当社はエコフィードを取り扱っていますが、堆肥発酵不良の原因の一つとしてエコフィードの利用があります。エコフィードを使用すると家畜糞尿の発酵が悪くなるケースがあります。エコフィードは食品用に加工されたものが原料となりますので、消化吸収がよく粒径が細かいものが多いです。繊維分が少なく消化吸収が良いため、糞尿に混ざる有機物量が減少し、結果として糞のカロリーが下がります。たとえば、豚の場合一般的なトウモロコシ粉砕の飼料を使用した場合、糞をしらべるとトウモロコシの種子の外皮がかなり含まれていますが、エコフィードではそういった部分が含まれなくなります。カロリーが減少するだけでは無く、粒子が細かくなることで糞尿の分離が悪くなって糞の水分が増えることも堆肥発酵には悪影響があります。

そういった堆肥の発酵が悪くなる条件でもカロリー源であるものを添加することで堆肥発酵がすすみます。一般的にはよく白土が使われています。白土とは油脂を精製するときにろ過に使用する珪藻土の残さであり、油脂と珪藻土の混合物です。カロリーが高く発酵促進には有用ですが、固形分が多く堆肥の量が増えてしまうこと、自然発火する事故が多く危険性があることが欠点です。
食品残さの中には高カロリーでハンドリングが良いものがいろいろあります。たとえば当社ではチョコレートのリサイクルを行っています。チョコレートは非常に高カロリーであり、堆肥に入れることとでカロリーが上がり温度が上昇します。基本的に油脂類はカロリーが高いため堆肥の発酵促進に有用ですが、ハンドリングが悪いものが多いためハンドリングがよいチョコレートはよい原料です。
また、製粉工場から発生するダストも取り扱っています。小麦を選別したときに発生するもので小麦、トウモロコシなどの穀物とその破片が混合したもので、こういったものを混合することで通気性が改善され堆肥の発酵が進行します。

 
様々な食品廃棄物を最適な用途に仕向けていく作業はパズルをうまくはめていくようなおもしろさがあります。
適材適所のリサイクルをこれからも進めていきたいと思います。

 

酵母と酵素

師走になり忙しい日々が続いています。忘年会も多く、酒を飲む機会が増えており肝臓に負担がかかる日々です。
ここ数年、飲む機会が多いのですっかり肝臓が鍛えられ、以前に比べ格段に酒に強くなった気がします。

当社は様々なお取引先がありますが、酒好きだからというわけではなく最近は醸造関係のお取引先が増えてきました。日本酒、ビール、ウィスキー、焼酎、みりん、醤油、味噌、etc.

発酵に興味がある自分としてはお客様訪問してもいろいろと現場を見せていただくのが非常に面白いです。
また、おいしいお酒にも巡り合える機会も増えたのもポイント高いです。酒蔵やウイスキー工房を営業しては酒を買う・・という本末転倒な機会も増えているのはここだけの話です(笑)

そんな中で今年から取り組んで切るのはビール酵母の飼料化です。ビール酵母自体は昔から食品や飼料として利用されており、一般的なものです。しかし、通常は乾燥させて乾燥ビール酵母として流通されており乾燥コストが高いため、かなり高価な原料でありどちらかというとサプリメント的な使用方法が主体でした。
現在、当社が取り組んでいるのはビール酵母を乾燥せず単に濃縮させ、そのまま豚のリキッドフィードのたんぱく源として利用するという取り組みです。
現在、飼料のタンパク源としては大豆粕の利用が主体です。しかし、大豆粕は近年の畜産需要の高まりにより単価が高止まりしています。これをビール酵母代替することで、コストの低減をめざしています。
愛知県農業総合試験場で試験を実施したところ、大豆粕以上の成績をあげることができ、自信をもって供給を行っています。現在は当社の豚もこのビール酵母をタンパク源としており、良い結果を残すことができています。

ところで、酵母という言葉は一般的ですが、じつはあまりよく理解されていないように思います。酵母とは単細胞の真菌(核を持つ)の総称であり、細菌とは異なります。酸素がある状態では普通に呼吸を行いますが、酸素が少ないと糖を分解し二酸化炭素とアルコールを生成するという呼吸を行い、これが酒やパンを造る際の重要な働きとなっています。飼料に使う際も菌体なのでタンパク質含量が高く、またアミノ酸のバランスが良いという特徴があります。

また、酵素と酵母の混同もよく見受けられますが、酵母と酵素は全く別のものです。酵母は生物ですが、酵素は体内でも分泌されているタンパク質の一種であり、触媒作用を持つものを指します。代表的なものにアミラーゼがありますが、これは唾液にも含まれておりデンプンを糖に分解する作用があります。カビ(これも真菌です)が多量に体外に分泌する性質があり、この性質を利用して麹などが作られています。麹はコウジカビであり、アミラーゼやプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を分泌します。この作用により、デンプンを糖化し、酒を造ることができるわけです。

流行っている酵素ジュースは糖が酵母発酵しているのであり、正確には「酵母ジュース」と言うべきものかと思います。むしろ、酵素の作用で糖ができている甘酒のほうが酵素ジュースとよぶのにふさわしいものです。個人的にはそのうちこの酵素ジュースのアルコール発酵を税務署が問題にするのではないかと危惧するところですw