米騒動とバター不足に見る農業政策

米が足りないことが大きな話題になっています。スーパーも産直もどこも棚がすっからかんになっており、ニュース報道やSNS拡散が不足に輪をかけている気がします。自分は米農家の友達が多いので、無事入手できました。

おかげで米の価格が上がり、米農家の友人達はほっとしているように感じます。ただ、個人的にはこの混乱で価格が上がったことを手放しで喜んでいいものなのか不安に思う部分があります。今回、米の需給がタイトになったのは複数の理由が挙げられています。昨年が猛暑で米の品質が悪く精米時のロスが多いこと、インバウンドでの需要、南海トラフ地震予想による備蓄需要の増加などが理由として挙げられていますが、もっとも根本的な理由として米の生産を抑制するような政策が継続して行われてきたことがあります。

もともと、米の生産量はピーク時は1100万トン以上あったものが現在は700万トン切っています。これは米の消費量が減少を続けることで、かっては減反政策が行われ、現在も転作に対して助成を行うことで生産の抑制を行ってきた結果です。米が余ることは禁忌であり、消費量に応じた生産となるように調整が行われています。田んぼで米を作らず麦や大豆、飼料用の米を作ることに対し補助金が支払われる仕組みとなっています。つまり、生産量を調整することで需給バランスを調整する政策が行われているわけです。

ただ、農業生産は天候に左右される上に、急激な調整が難しい特性があります。また、需要も様々な要因で変動していきます。もちろん米は国家備蓄がありますが市場価格の調整に使う仕組みにはなっていません。結果、少しの需給バランスの変動により価格や流通在庫の変動につながることで今回のような米騒動が発生することになります。

同様の事態は牛乳でも発生しています。牛乳は需給調整を牛の頭数の調整とバターと脱脂粉乳の生産量の管理で行っています。牛乳が余剰になると日持ちがするバターと脱脂粉乳に仕向ける量を増やす仕組みとなっています。しかし、バターと脱脂粉乳では調製しきれなくなり、脱脂粉乳が過剰在庫になったりバターが足りなくなったりという自体が発生します。

そもそも、穀物も牛乳も自給率が100%ではない国で需給の乱れが起きるのは生産調整を国が行う仕組みがうまくいってない証左です。現在のような仕組みがもはや機能していないことはこれまでの多くの混乱事例からも明らかです。今回、米価が上がったことで飼料米の作付け量が減ることはほぼ確実です。食料米の生産量が増加するとまた米が余ることになり、転作に躍起になったり米価がまた下がったりします。このような混乱が発生するたびに結果として農家の疲弊を招き生産基盤が損なわれていきます。

私の友人の生産農家は非常に優れた技術を持っていたり販売がうまかったりして安定した経営を行っているケースが多いです。SNSの投稿を見るに、常に生産方法を研鑽し技術をしのぎ合っています。しかしながら、生産技術の向上には注力していても農業政策についての関心は乏しいように感じます。農家の生殺与奪に与える影響は生産技術より農業政策のほうが間違いなく影響大きい訳ですから、本来は農業技術について学ぶのと同じぐらいの熱意をもってそのあり方を考えて行くべきではないかと思います。

いずれにせよ生産者サイドからも例えば米農家から転作の政策に関する政策提言がある、そんなことがあってしかるべきではないかと感じます。個人的には、グローバル商品である米や乳製品は国家管理での需給調整はもはや困難であり、農家への直接支払い(所得補償)により農産物価格を引き下げ、民間ベースで輸出入での需給調整を行うことが現実解ではないかと思っています。これが正しいかはわかりませんが、全農の米の価格決定方法に対してだれも疑義を唱えてないのは正直不思議です。所得補償には大きな予算が必要となり簡単にできるものではありませんが、本来は農水省予算水準が適正かどうかも含め議論していくことが重要だと感じます。

同じような政府の介入が大きい牛乳においても、酪農家は牛乳の乳価決定プロセスを知ることができず、加工乳補給金(価格の安い加工乳向けに出荷した際にでる補助金)の算定方法も把握していないケースがほとんどです。

農業生産を向上させるためには需給や価格決定のプロセスをどうするかが非常に大きな要因であり、それに触れず生産技術の向上に取り組んでも片手落ちではないかと思います。生産者はもちろん、消費者も農業政策が日常生活に大きな影響を与えることが実感できた今回を契機にもっと農業生産に関わる政策をどうしていくか議論することが必要かと思います。

日本の食文化と農業

先日、台湾に旅行してきました。コロナ以降で初の海外でいろいろな体験ができ楽しい旅行でした。台湾は20年ぶりだったのですが、以前と比べ円安になりなんでも価格が高騰しているのかと思いきや、意外に物価も安く食事もいろいろ楽しめました。ただ、なぜかコーヒーだけが高くコンビニコーヒーでも500円ぐらいしていたのは驚きました。

台湾のおこわ 腸詰めがのってます

台湾では会食づづきでたくさん飲んで食べてました。以前より行ってみたかったカバラン蒸溜所にも訪問しました。カバラン蒸溜所は台湾で20年ほど前に設立され、国際的に非常に人気があります。当社はウイスキーの仕事が多く様々な蒸溜所に行く機会があるのですが、カバラン蒸溜所は設備的にも興味深い部分があり面白かったです。

カバラン蒸溜所

と、楽しい日々だったわけですが海外に行くと改めて日本の食文化の素晴らしさを感じます。台湾料理は美味しいのですが、日本の食文化は和食だけでなく、多種多様な世界各国の美味しい料理が非常に高い水準で(しかも安価に)食べられることではないかと思います。

個人的には「日本すごい」的な論調は疑問に思っています。科学技術やものづくりに関してはもはやトップ集団から後れを取っているのは明白であり、イノベーションが起きない文化が蔓延しています。
少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少することで消費も低迷し、国力の低下に伴い円安も進行しています。個人的には日本の未来はお先真っ暗だと思っています。「日本すごい」で現実から目をそらすのではなく、日本の相対的な存在感低下に対し真摯に対応策を考えていくことが必要ではないかと思います。

そんな日本のこれからのグローバル社会における存在意義の大きな柱は「食文化」ではないかと思います。多様な自然環境とそれに伴う豊かな食材はもちろんですが、日本の文化として「食べ物にこだわる」というものがあるように思います。和食が世界文化遺産になりましたが、むしろたとえばラーメンのように、世界中の食べ物を日本に取り入れてアレンジし昇華させていくのが日本の文化ではないでしょうか。

何処ぞやで食べたラーメン

インバウンドを呼び込むために各種施策が行われたりカジノを作るなどの動きもありますが、カジノのように日本ならではの特色が希薄なものではなく、日本の文化である「食」を全面に打ち出す方がより高い競争力を生み出すことかと思います。

そういった食文化の礎となる農業はもっと大切にしていくべきだと考えます。今の日本の政策は短期的な視点に立ちがちであり、長期的な視野から食文化をどう醸成していくかという意識が乏しいように感じます。農業振興を図ることで日本独自の食文化を広げることで得られるものは単純に食糧の供給と言ったものにとどまらず裾野の広い経済効果を必ずや発揮すると思います。

例えば、当社でも養豚を行っていますが、当社の豚は日本でしか得られないエコフィードを用い日本でしか得られない味の豚肉を生産しています。エコフィードだけではなく、日本という国の地域性を生かした食の生産をもっと推し進めることが国家100年の計としても必要ではないかと考えています。それが、広義の日本全体のテロワールになっていき、しいては日本としての魅力を高めることにつながっていくことと思います。

お客様との関わり方

先日、当社の経営指針発表会を行いました。社員だけではなく銀行などの関係者も参加していただき、現状を報告し、事業の方向性、今後の計画などをお話しました。経営の計画に関し文書を作成し発表することで、会社の進むべき方向が明確化し各々の果たすべき役割がはっきりとします。

その中へで経営理念について、また当社が大事にしていることについてお話しました。

お陰様で最近は売上がかなり増えています。もちろん業界として追い風が吹いていることも大きな要因ではありますが、当社は基本的に「お客様の経営に寄与するような事業を行う」という姿勢で事業に取り組んでいます。食品工場にとって食品廃棄費用は売上に対し大きな割合であり、飼料販売先の畜産農家にとっても売上に対し飼料コストが占める割合は高いです。当社が取引することでお客様の経営をよくすることを目標としています。このような取組の結果、売上向上につながってきたように感じます。

酪農家お客様に納品したビール粕

当社のお手伝いがどれぐらい寄与しているかは明確ではありませんが、当社のお客様の経営状態が業界水準と比べ平均的に良好な状態であるケースが多いように思います。昨今の飼料高の情勢下では当社の取り扱っているエコフィードを高く販売することもできますが、当社では基本的に価格は据置しています。高く販売すると結局お客様の経営が悪化し継続的な取引が難しくなってしまいます。お客様の身になって事業を行こなうことで中長期的な関係性を築くことを重視したビジネスを展開しています。

最近、お客様からお土産をもらったり、食事を御馳走になることがよくあります。お客様から信頼し喜ばれる関係が構築できてきたことが実感できて嬉しく思います。

今は食品廃棄物のリサイクルや飼料の販売だけではなく、お客様の経営のサポート的な仕事が増えてきています。例えば、エコフィードの利用のための設備の導入のお手伝いを行ったり、資金繰りが厳しい農家さんの決算書を分析し経営改善の相談をしたり、金融機関との交渉に同席したりと様々な経営サポートを行っています。技術的にはしっかりしている会社でも、財務や金融機関との交渉が得意でないケースは多くあります。先日も養豚農家さんが「豚を飼う技術よりも資金調達を行う能力や飼料購買の交渉技術のほうが経営的には重要だったりする」と話していました。せっかく高い技術を持ちながら資金調達が苦手なため経営が悪化しているのはもったいない話だと思います。農業振興のために技術分野のみならず経営的な立場からもお手伝いすることが当社のミッションではないかと思っています。


これからもお客様の経営のサポートを行っていくことでさらによりよい関係性を構築していきたいと思っています。結果としてお土産いただければ望外の喜びです(取引先各位<土産を要求しているわけではありませんw)

豚を飼う理由

忙しさにかまけてブログ更新できずはや数ヶ月経ってしまいました。今年も残りあとわずかとなりました。今年はお陰様で本業の食品リサイクルの仕事は増えておりまずまず順調でした。養豚事業も豚を飼ってはや4年、なんとかそれなりに安定した成績をだすことができ、出荷も順調、肉質も安定してきました。

改めてなぜ当社が豚を飼うようになったか、あらためて触れてみたいと思います。

当社はもともと食品廃棄物から肥料をつくることを目的として創業しました。しかし、創業後なかなか事業が軌道に乗らず、廃業の一歩手前まで行きました。その時、たまたま縁あってお伺いした養豚農家から「おまえ、肥料なんか作らずエサつくって俺に売れ」って言われたのが飼料製造することになったきっかけです。

その後、また縁あって地元の農協が中心となって行われたエコフィードの実証試験事業に参画することになりました。愛知県の試験場で試験を行ったのですが、エサを変えるとおどろくほど豚の状態や肉質が変わることに感心して、「養豚っておもしろい」と思ったのが豚を飼ってみたいと思うようになったきっかけです。それから10年ほど経過して実際に豚を飼うようになるとは当時は全く思っていませんでしたが。

もう一つ、豚を飼おうと思ったのはエサを扱かうようになって養豚農家に説明をするようになった時、いろいろ解説したところ「高橋くん、説明はわかったけど豚飼ったことないじゃん」と言われたこともきっかけです。そうか、豚を飼わないとわからないことが多いから豚飼ってみようと安直に思った次第です。もともと動物は好きな方ですが、大学も農学部農学科で植物や微生物相手の仕事をしてきて豚を飼うノウハウもろくにもたずよくいきなり養豚を始めたものだと我ながら思います。

飼料として利用されるパン

そういったきっかけはあるものの、現在、以下のような目的を持って豚を飼っています

・食品残さで美味しい豚が育つことの証明

 食品残さを使った養豚は以前より行われていますが、食品残さの種類によっては肉質が悪くなったり、大きくならなかったりします。食品廃棄物がこれだけたくさん発生しているのにもかかわらず、食品残さを使っている養豚場は一部にとどまっている大きな理由の一つに肉質の問題があります。
しかし、適切な原料を選択し、きちんと計算して給与すれば配合飼料と遜色ない肉質とすることもできます。また、配合飼料では価格やハンドリングで使用が難しい原料もあり、その中には肉質によいものもたくさんあります。例えば茹でうどんはとても良好な原料ですが、配合飼料には使用することが難しいです。こういった原料を使用することで、特徴のある高い品質の豚肉生産が可能となります。当社も紆余曲折がありましたが現在は肉の品質を高いレベルで維持できています。

・ちゃんと大きくなることの証明

食品残さが使われなくなったもう一つの理由として、農場成績の低下(成長の低下)があります。今の豚は成長が早く、半年で出荷されます。半年で出荷するためには栄養バランスをきちんと整えて給与することが必要となります。逆に言えば、きちんと設計さえすれば決して成長が悪くなることはなく、むしろ嗜好性や消化率が良いことから成長が良くなるケースも多々あります。

・飼料製造や給与方法のノウハウ蓄積

食品残さが使われない理由には、ハンドリングの問題もあります。スイッチひとつで給与できる配合飼料とは異なり、飼料の給与するためにはさまざまな工夫、装置が必要となります。原料の種類に応じて適切な設備を導入して給与するためのノウハウを蓄積することも自社で養豚を行う目的の一つです。これまでの経験を元に、最近はいろいろな養豚農家で飼料利用のお手伝いをできるようになってきました。

自社で養豚を行うことで、「エコフィードの良さを証明する」ことは少しずつできてきたように思います。これからのステップとして、このエコフィードの良さを全国に広めていきたい、さらには世界に普及させていきたいという大きな野望があります。今は自社の養豚での実績を元に、さまざまな農家のエコフィード利用のアドバイスをすることができるようになってきました。これをもっと広げていきたいと思っています。

当社養豚場「リンネファーム」

これまで、日本の畜産は輸入飼料に依存して発達してきました。これまでの社会の時流にのったものだったかと思いますが、世界的な人口増加を背景とした資源の逼迫により従来のモデルの継続が難しくなってきています。資源が不足する時代において、リサイクルは避けられない選択肢になるでしょう。
当社が行っている養豚は非常に小さな規模ではありますが、このような時代において、畜産業界の新しい方向性を示す道標になり、日本の畜産の存在意義の向上に貢献したい、そんな大きな夢があります。国内で資源循環することで海外の影響をうけず、そして日本にしかない美味しい畜産物ができる、そんなことが目標です。当社の小さな取り組みがどんどん広がり、大きな社会変革に繋がったら‥そんなことを考えながらエコフィードからエサを作り、豚にやっています。

麺

エコフィードの集め方

コロナ禍によりいろいろビジネスに支障がある昨今です。当社のお客様でも影響が出ている業種があります。特に、日本酒、ビールなどのお酒関係は甚大な影響があります。今日日、家では酒を飲まなくなってきているのだと実感します。家では酎ハイや発泡酒が中心で、ビールは飲まない人が多いと言うことです。
当社はビール粕や酒粕などの副産物を取り扱っていますので、発生量が減少傾向にあります。

酒粕

そんな中、製麺工場などコロナの影響が少ない業種からの新規のお仕事のご依頼が非常に多く、おかげさまで当社は仕事はむしろ増加傾向にあります。ご依頼をいただく理由の一つとして、今までそういった食品残さの引き取りを行っていた養豚農家が廃業してしまったというものがあります。

愛知県など都市近郊の養豚農家では古くからいわゆる残飯養豚というスタイルで豚を飼っている農家が存在します。飲食店などから残飯を回収してそれを加工し、豚に給与するというものです。しかし、このようなやり方をしている農家は今は非常に少なくなっています。
残飯などはたいてい無償で提供してもらえますので、養豚で一番コストがかかる飼料費を抑えることができます。しかし、当然ながら回収するのにも手間がかかります。残さを回収してまわることで人件費が発生しているので、見かけほどコストが下がるわけではありません。また、残飯養豚をやっているような農家は小規模なことが多く、回収するために時間を費やすとおのずと豚の面倒を見る時間が短くなり、管理がおそろかになりがちです。
そして、残飯を給与することで、肉質などにも影響がでてしまうことがあります。残飯は一般的に粗脂肪含量が非常に高く、油がそのまま豚肉の脂肪に移行してしまうためにおいなどの原因になりがちです。
このようなことから残飯を給与することが経営的なメリットが相対的に少なくなって廃れてきています。

牛、豚など畜種問わず畜産農家が食品残さを回収するのには

・ある程度のロットで回収することができる

・品質が安定している

・回収担当のスタッフがいる

ことが必要条件では無いかと思います。たとえば、大手パン工場から発生するパンの耳、製麺工場から発生する余剰麺、豆腐工場から発生するおからなどを農家が回収して利用している場合、コストの低減と品質の両立がうまくいっていることが多いです。

当たり前ですが畜産経営においては原価計算をきちんと行い、収支をみて利用の可否を判断することが重要です。他方、食品残さ回収などの作業を当社のような業者にうまくアウトソーシングすることで、コストの低減と生産性の向上をうまく実現し、経営に大きく寄与している例も多くあります。(宣伝ですw)
いずれにせよ、畜産経営においては原価の把握が重要であることは言うまでもありません。原価をもとにそれぞれの経営方針に応じた飼料を使用することが大切です。

抗生物質の利用

娘(3歳)が風邪を引いたようで、39度ぐらい熱が出ています。普段は元気いっぱいで大変な騒ぎですが、今日は大人しく寝ているのでブログなど書いています。
明日は日曜日で休日診療に行くか様子を見ているところです。

医者に行くと薬の処方があるわけですが、熱が出ているだけでも割と抗生物質が出されることが多いように思います。
畜産関連の仕事をしていると抗生物質の話題も良く出ますが、実は畜産では抗生物質の使用はかなり厳しく制限されています。


Wikipediaより By Yikrazuul – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン

先日も抗生物質の一部が使用禁止になるというニュースがありました。
薬剤耐性で2つの飼料添加物取り消しへ 農林水産省

まず、抗生物質とはどんなものか改めて確認してみます。
抗生物質は細菌やマイコプラズマなど微生物の増殖や活動を抑制する作用がある物質のことを総称しています。一番最初に発見されたのがペニシリンで、青カビから抽出されています。他の抗生物質もカビなどが由来のものが多いです。抗生物質は微生物だけに作用しますので、基本的には(アレルギー反応などはありますが)哺乳動物には作用しないものを言い、またウイルスなどにも効果はありません。
日本では食品衛生法において「食品は、抗生物質を含有してはならない。」という規定がありますので、と畜場や牛乳工場では検査が行われ、万一検出された場合は出荷が停止されます。しかし、誤解されていることが多いですが、抗生物質自体は人間用、家畜用でも同じようなものが使用されていますので、抗生物質が残留することで健康被害が起きるというわけではありません。抗生物質が危険なわけではなく、抗生物質の多用により抗生物質が効かない耐性菌が出現することが懸念されるためです。実際の現場では、抗生物質が残留しないように出荷時から一定期間は抗生物質は使用できませんし、採卵鶏や牛乳のように毎日出荷するものの場合は出荷中は抗生物質は使用されません。
上記の禁止になった抗生物質も、耐性菌が発見されたため禁止に至ることになり、それ自体の有害性があったわけではありません。

畜産では抗生物質は大きく分けて「治療」「増体」の2種類の目的で使用されます。治療用は人間同様に疾病にかかった豚に経口投与or注射するやりかたで使用されています。一方、増体目的というのは、飼料に抗生物質を少量だけ添加することで成長がよくなることが知られており、より効率的に家畜生産する目的で使用されます。論文のデータなどを見ると増体は確実に良くなる結果が得られています。このメカニズムとしては、抗生物質を添加することで細菌感染が減ることで、免疫ができなくなり、その分のエネルギーロスがなくなるため成長が良くなると一般的には言われています。人間も動物も体内や皮膚に多くの常在菌を養っています。これらの常在菌により病気にならないのは免疫システムがあるためです。(ので、HIVなどで免疫不全になると感染してしまいます)この免疫生成にはかなりのエネルギーを消費しており、この分が減るとエネルギー効率が良くなる・・という仕組みです。
ただ、個人的には増体目的の抗生物質添加にはすこし疑問があります。確か実験結果を見ると顕著な効果があるのですが、実験を行っている多くが試験農場などでもともと細菌感染の機会が少ない状況にあり、免疫抑制の効果が発現しやすい可能性があります。また、菌叢を減らすと言うことは特定の菌が増殖しやすくなる可能性も否定できないのでは無いかと思います。なにより、微量に添加するというのは耐性菌を生み出しやすい条件であります。

私の父は数年前に風邪をこじらせて敗血症になり、抗生物質の多量投与により危機を脱して退院することができました。私自身もピロリ菌除菌や副鼻腔炎治療などで抗生物質にはいろいろと恩恵を受けています。
その経験から、抗生物質は切り札として効果を発揮することが大事ではないかと思います。なので、ウイルス性のものが多い風邪での安易な処方や、増体目的の飼料添加など避けられるものは避けた方が良いと思っています。

重ねて強調しますが、抗生物質自体は安全なものであり使用をむやみに忌避する必要は無いと思います。なので抗生物質不使用で安心という売り方には賛同しかねますが、一方で無用な使用(人間に対しても家畜に対しても)は公衆衛生に影響を与える可能性があるということを留意すべきかと思います。
畜産物の抗生物質を敬遠している消費者が、風邪ひいたときに医者で「抗生物質は出ないのか」と言ったりするのは矛盾しています。いずれにせよ、人間も家畜もあまり薬に依存しすぎないようにすべきかと思います。と言いつつ自分は抗アレルギー剤を365日服用していたりするのですが・・w。

農業政策のあり方について考える

忙しい日々を過ごしているうちにすっかり7月になりました。空梅雨気味で暑い日々が続きすでに夏ばて気味です。
そんな中、当社も半期が過ぎ、来期に向けて今後の事業の方向性を検討しています。
事業のあり方を考える上で外部環境の分析は非常に重要です。めまぐるしく情勢が変わる昨今ですが、先日より報道されている日欧のEPA合意は様々な影響があるのではないかと予想しています。

報道では今回の合意では、ソフトチーズの関税撤廃が含まれており、報道でも大きく取り上げられていました。現在約30%の関税が課されていますので、撤廃によりそれなり価格が低下することが予想されます。しかし、関税がある現時点でもヨーロッパのチーズは国産ナチュラルチーズより安価に販売されていることがほとんどです。ここに農業政策の基本的なスタンスの違いが現れています。
日本の低成長・デフレが20年以上続いた結果、ヨーロッパの物価・賃金水準は日本よりはるかに高くなっています。(最低賃金1,200円ぐらが多いようです)その上、はるばるヨーロッパから運賃をかけて日本に持ってきてなおチーズが安いのは、ヨーロッパの乳価が日本より圧倒的に安いのが大きな理由です。現在の乳価はおよそ40円/kgで、おおむね日本の半額以下です。
ヨーロッパにおける農業保護政策は、農産物価格は安く維持し、農業所得を補填することで農家の生計を維持するというスタイルになっています。生産余剰分は輸出により調整するという方法をとっています。それゆえ輸出先からダンピング批判を受けたりします。
他方、日本の農業政策、特に米と牛乳は、国内で生産調整をして余剰が出ないようにし価格を維持し、不足分は国家管理貿易により輸入するという方法をとっています。

現在の日本の手法は以下のような問題があると私は思います。
1.生産調整がうまくいかず、オーバーシュートしやすい。農産物はすぐに生産の調整がしにくいため、余剰になって生産調整すると不足すると言ったことを繰り返しがちになる。輸入も国家貿易では柔軟に対応出来ない場合がある。
たとえば、牛乳は10年ほど前には生産過剰により廃棄されていましたが、現在は生産拡大、増産が謳われています。米も同様の事態が発生しています。
国内価格を高くする政策のため、輸出により在庫調整する手法が取りにくいのも問題です。

2.食料品価格を高く維持することは、エンゲル係数の高い低所得者層に対して負担が大きくなる。また、消費減退や、代替需要増加の原因になる。
大手メーカーの菓子、パンなどの原料表記を見ると、おどろくほどバターが少なく加工油脂、ファットスプレッドなどが幅をきかせています。バターではなくこれらの代替油脂を使用する大きな理由は価格にあります。

3.世界のグローバル化、複雑化が進んでいく中、品目ごとの関税での保護が難しくなっている。
たとえば、今回のEPAではソフトチーズの関税が撤廃されますが、冷凍ピザだと元から20%程度の関税率です。豚肉も関税撤廃が予定されていますが、ソーセージの関税は10%しかありません。加工製品での輸入は今後も増えていくことが予想されます。

他方、ヨーロッパ他の所得補償制度にも問題があります。
1.財政負担が大きくなる。実質的には、今まで消費者が商品代金として負担していたものを、税金を一旦払いそれを生産者に渡すことになるので負担額が増えるわけでは無いが、感覚的な負担は増えるため理解を進める必要がある。

2.所得補償のやり方によっては、モラルハザードがおこりがち。
日本の飼料米政策では飼料米を作りさえすればお金がもらえる制度になっていたため、作付けだけして生産をきちんと行わない例が問題となりました。耕地面積に応じた単純配分などではこういう問題が起こります。生産量、生産額に応じた配分にする必要があります。

上記のような問題はありますが、私はグローバル化が進む中では関税による保護から農産物価格を抑えることで競争力を高め、輸出入を自由化することで需給バランスを取る方が合理性が高いと思います。

私もEUの農業補助政策については勉強をしているところなので、理解が不足している点も多くあるかと思います。ただ、根本的な農業政策が異なっている背景下で自由化を推進することは影響が大きいのも確かであり、設備や施設の補助をすれば競争力が増えるというものでもありません。価格誘導と生産調整をどのようにしていくか、根本的なところから議論、検討することが望まれます。

農場要求率と養豚経営

年の瀬が迫ってきて、慌ただしい日々を送っています。日頃からバタバタしているので普段とあまり変わらないという話もありますが(^^)

おかげで学会誌とか業界紙を読む時間が無く、出張中に飛行機やホテルの中で読む羽目になってます。ただ、勉強を継続することは当社の強みにつながっていると思っているので、そこだけは怠らないように努力しています。特に、畜産に関してはまだまだ勉強をすることが多いので、力を入れています。

出張先のホテルで業界紙を勉強
出張先のホテルにて

畜産の勉強をすると、畜産「経営」というのは非常に面白いと思います。耕種農家以上にいろいろな要因があるので、分析をすると様々なことが見えてきます。当然ながら畜種によって全く経営スタイルが異なっており、豚、牛、鶏で分析ポイントが異なるだけではなく、同じ養豚でも実はかなり経営の手法に差異があります。

豚の場合、繁殖、子豚導入による肥育、一貫経営による違いがあります。(日本ではほとんどが一貫経営ですが)一貫経営の中でも、母豚を購入しているのか、自家育成しているのか、種付けをする精液を購入するのか自家採種するのかなどの差により費目ごとのウエイトが変わってきます。経営規模、経営方針によってどこまでアウトソーシングするのかが異なり、それが指標の差となってきます。

しかし、いろいろな経営スタイルがある中、最終的な経営に影響を与えるのは農場要求率という数字です。この数字によって経営は大きく左右されます。

農場要求率というのは、農場全体の飼料の使用量/出荷した豚の生体重で計算される指標です。農場全体の飼料の量となりますので、母豚、肥育豚、子豚の全飼料を足した量となります。
この中で、一番飼料の使用量が多いのが肥育豚です。つまり、肥育豚が少ないエサで効率よく育つ(=要求率が良い)と、農場全体の要求率が良くなります。肥育豚の要求率は、品種、飼料の種類や加工方法、疾病の状況によって大きく異なります。近年の豚は改良が進むにつれて飼料の利用効率がよく、増体が良い品種特性となっています。

また、疾病が少ないと豚の成長はよくなり、逆に、疾病によっては成長が著しく遅れたりします。余談となりますが、ともすれば世間では大規模で効率を重視しているような農場は疾病が多く薬に頼っているイメージがありますが、実際は効率を重視するほど疾病コントロールは重要であり、大規模農場はむしろ衛生レベルが高く疾病も少ない傾向にあります。
肥育豚の要求率に影響が大きいものの一つに、飼料の種類があります。たとえば当社が扱っているエコフィードは、加熱処理がされているもの、微粉砕されているものなどが多くあります。パンは小麦を製粉し、焼き固めたものであり、製粉の過程で消化が悪いフスマなどは除去され加熱によりデンプンのアルファ化がおきているため、飼料としては可消化率はほぼ100%となり、非常に消化吸収がよいものとなります。これに対し、豚では一般的な配合飼料原料のトウモロコシの外皮の消化が悪いため、その分可消化率や消化速度が低くなります。エコフィードのメリットとしてはコストが注目を集めやすいですが、消化吸収がよく飼料要求率が良いことも重視すべき点です。

最近の豚の品種は1回の出生頭数が多くなっています。母豚1頭からの出荷頭数が増えると、当然増収になります。しかし、豚舎のキャパシティには限りがあります。たくさん子豚が生まれると、肥育する場所が足りなくなってしまいますので、結果として母豚の数を減らすこととなります。母豚の数が減り、食べる飼料の量が減りますので農場要求率はその分向上しますが、全体から見るとそれほど大きな効果が得られるわけではありません。近年の品種改良された豚は、たくさん子豚を産むことよりもむしろ肥育において要求率がよく、増体がいいことのほうが農場経営に寄与している場合が多いです。

一般的な養豚経営では売上に占める飼料費の割合は60%程度と言われていますが、お客さまの決算書見たり聞取りをしたりすると、要求率の差や購入単価の違いにより飼料費の割合は40%~70%程度までの大きな開きがあります。数値分析をすると養豚経営における収益構造の差がみられ、非常に面白く思います。

当社も養豚事業参入すべく奮闘していますが、参入しようと思った理由の一つが養豚の経営の幅の広さです。多様な経営戦略の選択肢がある養豚事業を経営することは、経営者の力量が問われるものでありチャレンジ精神が刺激されます。自社の強みを生かし、高い品質と低いコストを両立した畜産経営を目標にがんばりたいと思っています。

「農業改革」の矛盾

イベント、展示会、講演の講師などなどの予定がめじろおしですっかりブログ更新を怠ってしまいました。
もちろん本業も忙しくしています。最近は肥料関係の仕事がまた増えてきており、受発注処理にも追われる毎日です。

と言うわけで、当社は肥料、飼料などの農業資材を扱っています。そう言う立場から見ると、現在マスコミを賑わしている農業改革には非常に疑問を感じています。

こんなニュースがありました。
<自民党>小泉流改革、正念場…「本丸」農協、農家の反発も
自民党の小泉進次郎農林部会長は3日、11月中にもまとめる農業改革の「骨太の方針」に反映させるため、仙台市で農業関係者と意見交換した。・・以下略
この記事によると、”農協改革を「改革の本丸」と位置づける小泉氏の方針”とあります。現在の日本の農業が厳しい状況に置かれていることは間違いない事実ですが、ではそれはそもそも農協の存在のせいなのでしょうか。

以前も投稿しましたが、農家という個人、零細事業者がマーケットと対峙しているためには農協は必要な存在です。資材を共同で購入することで安価に調達が可能になり、出荷を共同で行うことで市場での存在価値を出すことができます。きちんと仕事をしていない農協が多くあることは事実ですが、農協のプレゼンス低下に伴い商系(非農協系)が台頭しており農家にはその選択の自由があります。小泉氏は「農協よりホームセンターの方が肥料が安い」と批判していますが、ホームセンターの方が安ければホームセンターで買えばいいだけの話であり、現在の議論は「吉野家よりすき家の方が牛丼が高い」と政府が批判するようなものです。
そもそも、農協のあり方の問題は農協という存在に起因するものでは無く、多くの原因は肥大化した組織にありがちなセクショナリズムと事なかれ主義にあります。ので、組織運営がきちんとできている農協は存在感があり、運営が官僚化している農協との差が開いてきているわけです。

現在の農業の根本的な問題は、マーケットに介在しすぎる農業施策に根本的な原因があると私は考えています。業界として保護が手厚い米、牛肉、牛乳などの分野の方が競争力が低く、政府保護がほとんど無い野菜や鶏卵のほうが競争力があるのはその証左です。補助メニューが微に入り細に入り作られており、農家の思考を奪っているように思います。
たとえば「子牛に乳酸菌製剤を与える」のに補助が出ていたりしますが、子牛の健康管理のメニューまで補助金で誘導する必要があるかはなはだ疑問です。

本来、農業改革を標榜するならばこれまでの農業政策(そのほとんどが自民党政権下で行われてきたものであるわけですが)の反省と総括を行い、農業保護の仕組み、あり方の大枠フレームをまず議論していくべきであって、資材価格などの重箱の隅をつつくような話でマスコミの耳目を集める作戦は単なる選挙向けのパフォーマンスにすぎず、農業を変えることにはなりません。
郵政民営化、道路公団民営化でなにか変わったかを見てみれば、「農協改革」の行く末も容易に想像できることかと思います。

では、どんな農業施策を進めていくべきなのでしょうか。私は農業政策は所得補償政策に行き着くしか無いと考えていますが
詳しくは別のエントリーにて投稿したいと考えています。

これは農業だけに限ったことではありませんが、理念があり、ビジョンがあっての戦略、政策であるべきです。将来のビジョンが不明確なことが日本の閉塞感の根本原因になっているような気がしてなりません。明確なビジョンが打ち出され、安心して事業を営み、生活ができる日本となって欲しいと願ってやみません。

農業におけるシステムの導入

新年度も始まりましたが、相変わらずバタバタと落ち着きの無い日々を過ごしています。当社の決算は12月なので、数年前までは年度末と言っても関係なかったのですが、最近は補助事業をいくつか取り組んでいますので年度末、年度初めの書類作成が多く追われる日々です。

そんな中で、当社では販売管理システムを導入することを検討しており、システム導入の費用に充当すべく補助事業の書類を作成しています。最近、業務拡大に伴いお客さまとの取引件数が増加してきており、どうにもこうにも手が回らなくなってきたので業務効率の向上をはかるためにシステム導入を検討している次第です。手書き伝票とFAXで処理することの限界を感ている今日この頃です。

零細企業である当社が販売管理システムを導入するのは大きな投資ですが、顧客情報の集約化により業務効率の向上だけではなく、データ分析により次の仕事への展開を図っていきたいと思っています。これからの時代はシステムをいかにうまく使いこなしていくかが求められています。

最近、当社のお客さまである農家でもシステム導入が徐々に進んでいます。たとえば、稲作オペレータ向けのクラウドシステムでは、圃場とGPS位置データをひもづけし、それぞれの圃場での作業履歴、収量データなどを蓄積できるような仕組みがとられています。それぞれの田んぼでどんな作業をし、どれぐらい収穫したかを記録することでそれぞれの田んぼの成績がきちんと把握できるようになるわけです。いわゆる「見える化」というやつです。作業効率が悪い圃場、収量が劣っている圃場(さらには作業効率が悪いスタッフ)がどこなのかが一目瞭然になるということです。

豊作計画
豊作計画

事業の改善には現状の成績を正確に把握することが非常に重要です。現在の成績把握がその次の「カイゼン」につながります。自社内での比較、さらには他社との比較をすることで今の立ち位置が明確になるわけです。

 

同様のシステムは畜産農家向けのものもあります。畜産農家も個体の成績を把握することで、成績改善、事業収支の向上につなげることができます。たとえば、豚屋さんでは母豚あたりの離乳頭数、離乳体重、出荷日齢、日増体量、投薬履歴、飼料給与量といった項目を管理することが求められており、これらの管理項目をクラウドを利用してデータを蓄積すると言ったことが行われています。

ただ、システムは非常に大きな武器ではありますが、所詮は道具であり手段に過ぎません。本当に成績がよい農家は紙ベース、Excelベースでもデータをきちんと残す習慣があり、データから分析を行なう事を実践しています。Excelでも使いこなしようでは強力なデータベースとして利用することができ、当社のお客さまでもExcelに過去のデータをすべて入力して、成績の推移を把握されている方がみえます。
逆に言うと、今まで記録するという習慣が無い人がシステムを入れたからすぐに記録するようになるかは怪しいところです。記録する習慣が無ければ、いくらシステム導入しても結局は記録を残すことは無く終わってしまいます。(昔からの真の職人気質の方は記録すること無くあらゆるデータを記憶されていることがありますが・・・。)システムは便利な道具ではありますが、目的では無いことを念頭に置くことが重要です。また、単に記録するだけでは無く、それを比較分析する能力も必要となります。

これは、農業だけでは無く、あらゆる分野においても言えることかと思います。データ記録する習慣を確立し、いかに記録を活用していくかがこの激動する社会情勢で生き残っていくために求められています。当社も自社の立ち位置を把握し、次への戦略を打ち出すことができる企業になれるように努力していきたいと思います。