ダムの建設と効果

先週は忙しい1週間でした。今週も忙しくなりそうです。作成しなければいけない見積書やらプレゼン書類がたまってきていています。
今日はちょっと趣向を変えて公共工事の進め方についてつらつらと書いてみます。
我が家も属する豊川水系ではダムの建設の話が持ち上がっています。設楽ダムという多目的ダムです。農業用水として取水するほか、洪水調整機能があります。で、昨今のご時世、反対する人も多いのですが、おそらく建設は続行されるでしょう。
でも、私はダム建設に反対です。簡単に言うと、費用対効果が見えないからです。
東三河地方ではかっては水の便が悪く、特に渥美半島では旱害に苦しめられていました。戦後、豊川用水が開通することによって安定した水の供給が行われるようになった結果、農業生産は飛躍的に発展しました。この功績は大きいことは間違いありません。
一方、現在でも渇水の年には取水制限が行われたりしますので、ダムがあればもちろんそういった影響は緩和されます。ただ、かってのような経済効果は見込めません。ダムを新設する経済効果が見込めなくなってきているのは明らかな事実です。
これは、あらゆるインフラ整備に通じるものですが、ある程度インフラ整備が進んでしまうと投資効果が下がってきます。道路や鉄道でも、かっては高速道路を作ることによって工業団地が増えましたが、この頃は新規にインターチェンジを作っても工業団地が売れ残る始末です。断水する危険性が減ることにより農業生産が増えるとはとても思えません。
また、洪水予防効果も無論無いわけではありませんが、結局のところ想定を超えた豪雨には耐えられないわけです。洪水が完全に防げるのなら問題はないのですが。
つまり、全体として投資効果が減ってきており、費用/効果が悪くなってきていると言うことです。
 
それよりも、私は生態系に与える影響は少なからずあると思います。もちろん、こういった公共事業では環境影響調査が行われており、影響は無いという結果が出ていますが、大きな施設を作ると幅広く環境に影響があります。
たとえば、うなぎ。最近シラスうなぎが採れなくなってきており、シラスの価格が高騰しうなぎの養殖に影響が出ています。そもそも、シラスうなぎの親たる天然うなぎが減ってきているのは顕著です。
天然うなぎの漁獲量はここ40年で1/10になっています。それとともに、シラスの漁獲量が減ってきています。もちろん、河川改修等の影響もあるでしょうが、ダムや堰の影響は否定できないと思います。例えば、佐久間ダムができてから諏訪湖ではほぼうなぎは捕れなくなっているとのこと。高度経済成長期より河川水質は改善しているのですが・・。
他にも、ダムの影響でフミン質が運ばれなくなって、磯焼けの原因になっていると言う説があります。
環境影響評価にシラスうなぎのことが書かれていればまだいいのですが、おそらくそんな記述はないでしょう。私はそんなに自然保護に固執しているわけではないですが、生態系、生物多様性を損じると思った以上に影響は大きいかと思います。ダムの建設の経済性評価には、シラスが採れなくなって養殖業者や鰻屋さんがつぶれることまで含めて見るべきでしょう。環境影響評価書には「生態系への影響は軽微」ってだいたい書かれているわけですが、大きな構造物を作って影響が軽微なはずがありません。ただ、私は環境に影響があるからすべて反対というわけではなく、それ以上のメリットがあれば作るべきだと思います。にしても、影響がゼロというのは無理がありますね。
 
ハッキリ言って大規模な公共工事の影響って定量的に判断することは難しいです。やっぱり一番明確なのは、道路なら車が何台通ったか、ダムならどれくらい水が使われたかに尽きると思います。水が使われないような長良川河口堰みたいなのは愚の骨頂だと思いますね。長良川産の天然アユが食べられなくなった私の憤りまで経済性評価に入れて欲しいものです。
この前、友人の農家と話していたら、「そりゃダムはあった方が助かるけど、今の政府の財政状況を見ると欲しいとは言えないよね」って言っていました。ダムを建設できないとしても、理解は得られるのではないでしょうか。

おでん

たまには仕事の話以外を。
今日の夕飯はおでんでした。我が家では「おでんは長く煮込んだ方が美味しい」という理念(^_^)の基、長期間にわたり追加投入を繰り返して食べ続けます。食べる→投入→食べるの繰り返しです。今食べているのは年末からのものなので、1ヶ月近く経っている計算です。なお、毎日だと飽きるので、1日おきに食べます。
とは言っても、腐ってはいけませんので毎日火は通しています。パスチャライゼーションの曲線を元に、80度以上になるようにしています。微生物学的な知識が役に立ちますね。なんてえらそうなことを言っていますが、以前温度設定が甘くクリーチャー(おそらく産幕酵母)を発生させて全廃棄になったことがあります・・。
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この巨大な寸胴で煮込んでいます。
もちろん、だんだん味が薄くなったり煮詰まったりするので、そのあたりは適宜調味料を追加しています。美味しいおでんを作るためには味醂も醤油もいいものを使わないとダメですね。味醂は本場の三河味醂の愛桜3年熟成を使用しています。
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今回はウズラの卵も入れてみました。この卵はお客様でもある豊橋養鶉(ようじゅん)農協のものです。実はおでんにウズラ卵を入れるのは初めてですが、濃厚で鶏卵とは違った味わいがありますね。
さすがに1月経つとそろそろ雑味が出てくるので、おでんとしては終了する予定です。が、この煮汁は煮物に再利用します。たくさんのエキス分が出ているので、ものすごい旨味ですよ。

有機肥料とpH

最近はエコフィードの話が多かったので、たまには肥料のことも書いてみます。
この前、当社の肥料を使ってもらっている友人から、畑のpHが下がっているという連絡がありました。一般的に、有機肥料はpHが下がりにくいですが、当社の肥料は化成肥料並にpHが下がりやすい傾向があります。名古屋大学附属農場で試験していても、そういう結果が出ています。
当社の肥料は、原料として有機汚泥を利用しています。「汚」泥というと印象が悪いですが、排水処理からできた微生物の菌体を脱水したものです。当社の原料は食品コンビナートからでてきた排水を微生物処理した際に発生したものです。
排水処理では、微生物の菌体が水の中にたくさん泳いでいる状態(活性汚泥と言います)です。これを脱水するのですが、微生物の菌体は粘りがあるので、脱水しにくい状態です。これを脱水機で絞るために凝集剤という薬を使用します。当社の原料はこの凝集剤に硫酸鉄を使っています。詳しい原理は説明が難しいですが、鉄イオンにより電化を中和することにより固まりができやすくなるので水が分離していきます。
で、微生物の菌体と鉄が混ざったものを絞ったのが脱水汚泥となるわけですが、このときに硫酸イオンも一緒に入ってきてしまいます。硫酸イオンは嫌気的条件下では硫化水素や硫化鉄になりますが、好気的条件、つまり堆肥を仕込むと硫酸イオンになります。これがpHを下げる元となります。
一般的な化成肥料では硫安(硫酸アンモニウム)が窒素肥料として利用されています。これが同様にpHを下げる働きをしています。また、有機肥料ではさまざまなタンパク質などの有機物質が含まれており、これが緩衝能を持つためpHが下がりにくいわけです。
当社の肥料はもともと有機肥料の割には有機物含量も少なく、また化成肥料よりも施肥量が多くなりがちなためこのようなことが起きてしまったわけです。これを解消するためには石灰などのアルカリ資材を投入すればいいのですが、土壌によって緩衝能がちがうため、必要な石灰量も異なります。標準的な施用量で反応を見て施用量を調整していく必要があります。
今回の一件から、土壌の分析の必要性を改めて感じました。窒素量などは植物の生育を見ていたらだいたいわかりますが、pHは見ただけではわかりませんし、pHの変化によりそ土壌からのミネラル類の供給量が変わりそこから要素欠乏になったりします。簡単に分析できるので、しっかり測定を行っていくことが重要ですね。

エコフィードの普及とハンドリング

1月は泊まりの出張予定がないのですこし余裕がある毎日です。ですが、作成しなければ行けない資料やプレゼンデータが色々あるので会社にいる割にはばたばたしています。最近は畜産農家からも新規の問い合わせが多くなってきており、その対応にも追われています。
配合飼料メーカーや農協、畜産農家の方々と話していると、やはり昨今の飼料価格の高値推移に対し危機感を持たれています。これだけの円高で今の水準ですので、為替が振れたらその影響は計り知れないものがあります。今のように日本の畜産が海外の輸入穀物に依存するようになったのはここ数十年に過ぎないわけで、もしかすると今までのような海外のトウモロコシを使った畜産ははうたかたの夢のように消え去る可能性も否定できない状況です。そのような背景もあり、当社への問い合わせが増えているのだと思います。
ただ、農林水産省はエコフィードを利用して飼料の自給をはかるつもりのようですが、正直言ってエコフィードの利用にはさまざまなハードルがあり、そんなに簡単に進むことはないと思います。いろいろな「施策」が行われ補助金が投じられていますが、そんな施策よりトウモロコシの価格が上昇することがなによりのインセンティブになると思います。ただ、エコフィードがもっと普及していくためには相当の価格上昇がなければ状況は大きく変わらないでしょう。
 
エコフィードの普及を阻害している要因の1つに、ハンドリングの悪さがあります。今の畜産農家は多くは飼料を自動的にパイプを使って供給するシステムを使用しています。水分が多かったり、粘性が高いと仮に配合飼料と混合してもうまくエサを送ることができなかったりします。
当社の取り扱っているものの1つにバームクーヘンを乾燥したものがあるのですが、乾燥しているにもかかわらず配合飼料と混合してタンクに入れたところブリッジを起こして詰まってしまったことがあります。
自動給餌の仕組みは便利なものですが、多種多様なエコフィードを利用するには障害になります。これを回避するためにはエサを手でやればいいのですが規模が大きくなると手でやると言っても大変な労力です。(だからこそ自動給餌というシステムがあるわけですが)
今まで配合飼料を使用していた畜産農家がエコフィードを利用しようとして、配合飼料に少し混ぜて使う・・と言うケースはよくあります。ですが、これは手間がかかる割にはコストの削減効果が少ないため結局使用を断念してしまうケースがよくあります。エコフィードを使うなら、せめて50%、できれば60~70%程度はエコフィードを使用しなければ効果が上がらないことが多いです。ある程度人員を確保して手間をかけてエコフィードを使用する体制を作らなければうまくいきません。当然、それぐらいの使用割合になるときちんと配合設計を行わなければいけない訳です。
中途半端にエコフィードを使用して、手間はかかる、コストは下がらない、成績は落ちるという三重苦では当然普及は進みません。
今はTPPの問題などもあり先行きが非常に不透明ですが、穀物を始めとした資源高が継続するのは間違いないです。そんな時代に畜産や農業はどうあるべきかを考えていかなければいけない時期に来ているのは確かです。今までのやり方をドラスティックに変えていかなければ持続不可能な状態が来るときも近いと思います。

エコフィードと堆肥の関係

年末から煩っていた風邪がようやくだいたい治りました。約10日間、かなりしつこい風邪でした。一番辛かったのは臭いが全くわからなくなっていたこと。食べ物が美味しくなかったです(+_+)
当社では肥料と飼料の製造を行っています。もともと学生自体は農学科の肥料系の研究室を出ていますので、専門は肥料ですが図らずともエサも扱うことになりました。でも、飼料と肥料って似ている部分が結構あります。植物の栄養分と、動物の栄養分という違いはありますが、窒素系の動態が重要なのは同じですし、分析方法も同じものが結構あります。役所の管轄も旧の肥飼料検査所、現在の農林水産消費安全技術センター(FAMIC)です。タンパク質が土壌中で分解してアンモニアや硝酸になっていくように、動物はタンパク質を消化して吸収していきます。そんなこんなで割と取っつきやすかったのは確かです。
 
ところで、エコフィードは様々なメリットがあるのですが、いくつかの欠点も当然あります。大きな欠点の1つに養豚の場合、堆肥の発酵が悪くなるとことがあげられます。そんな論文とか報告を見たことがあるわけでありませんが、当社のお客様の事例を見ている限り多分間違いないと思います。
エコフィードはパンだったり、お菓子のくずだったり、ジャガイモの皮だったり、小麦粉だったりと熱がかけてあったり粉末になっているものがほとんどです。このため、非常に消化率がよくなります。以前、愛知県の試験場での実験でも糞量がかなり減少していました。
一般的な配合飼料では、トウモロコシが多く、皮などの難消化物は消化吸収できず糞にそのまま出てきます。これらのセルロース、リグニン類が糞に入っていると、発酵の基質として利用され、温度が上がりやすくなります。また、繊維系のものが含まれることにより、堆肥の空隙率が高くなり、発酵されやすくなるわけです。
また、エコフィード利用のためにリキッドフィーディングを採用するケースも多いですが、リキッドフィーディングでは尿量が増えるため、糞に混合されて水分量が上がりやすくなります。このため堆肥の発酵が悪く、尿にも糞が混ざりやすいため浄化槽の調子も悪くなる傾向にあります。
可消化率がよいことは飼料としては良いことなのですが、思わぬ弊害があると言うことですね。エコフィードを扱っていて堆肥の知識が役に立つのは、この2つの分野に携わっていたからだからかなと思います。仕事でこんな風に飼料と肥料が結びつくとは予想外でしたが。
最近、当社では堆肥の発酵促進、水分調整材も販売しています。これは、油分をヤシ殻に吸着させたもので、水分をよく吸い、カロリー源ともなるという優れものです。少し混合すると驚くほど品温が上がります。エサを売るだけではなく、トータルでお客様サポートすることを目標としています。
もちろん、お客様と一緒に三河トコ豚極め隊の活動も継続して実施していますよ。

名古屋大学附属農場での連用試験

今日は恒例の名古屋大学附属農場での作業がありました。30年にわたって連用試験を行っている圃場での収量調査です。当社の肥料も(無理にお願いして)試験区を設けて頂いていますので毎回作業に参加しています。
いつもはさらっと写真を載せるだけなのですが、最近知り合った北海道のリープス鈴木社長のブログが技術的な話も多く勉強になることに感銘を受けたので、私も今後はちょっとだけ詳しく書くようにしてみようかと思います。
 
名古屋大学附属農場は愛知県の東郷町にあります。名古屋の東部に位置し、一帯は小高い丘がある丘陵地帯です。冬の気温は名古屋よりやや低く、氷点下3度ぐらいまで下がることもあります。夏は逆に名古屋より暑いです。面積はおよそ28haあり、水田、果樹園、温室、畑地、採草地、放牧牧草地と様々な圃場があります。研究のための生産だけではなく、生産物の販売も行っています。私の研究室もこの農場の中にあり、4年生の1年間は毎日通っていました。
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農場の風景。写真は実験用の山羊です。

連用圃場は同じ肥料を長期間施用することによる影響を見る試験を行っている畑です。当社の実験区の他に、厩肥多用区(20t/10a)、慣行区(厩肥2t/10a+化成肥料)、化成肥料区、無肥区、その他何種類かの試験区があります。この厩肥多用区の施用量は一般的な堆肥施用量の10倍ぐらいのレベルです。
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連用圃全景

それぞれの区画は1aあり、畝が2つたてられています。畝はマルチされており、それぞれの畝に千鳥で作物(今作はハクサイ)が40本×2列植えてあります。今回はこのハクサイの収量を調査しました。
ぱっと見た感じでも厩肥多用区が一番生育がいいのがわかります。当社の処理区はだいたいその次ぐらい、慣行区よりは良さそうな感じに見えます。
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こちらが厩肥多用区

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こちらが当社の「ゆうきのススメ」実験区

ちなみに、無肥料区は当然ながら非常に生育が悪いです。結球しないのでハクサイに見えません。
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無肥料区。ロゼットみたいになっています

生育調査はこの処理区毎に上位20個体をサンプリングし、重量を測定していきます。今回は学生さんを含めて30人ほどで作業を行いました。
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生育試験の結果は現在まとめ中ですが、だいたい見た目が外れることはありません。サンプリング方法が割に適当な気がするのですが、いつも同じ傾向になっているところをみると実は適切なサンプリングなのかもしれないと感心します。
生育調査した後の土壌を見ると、処理区毎に見た目や触感に大きな差があることがわかります。
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一番手前が厩肥多用区ですが、色が濃いのがわかりますか?歩くとふかふかになっているのに驚きます。もともと粘土が多い黄色い土なのですが、ほとんど黒ボク土のようになっています。もう少し拡大してみると・・
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これが厩肥多用区。いかにも”団粒が形成されている土”といった感じです。
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ちょっとわかりにくいですが、化成肥料区は色も黄色く粘土鉱物がそのまま残っている感じです。
そして、当社の肥料の処理区は
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見た目は厩肥多用区と化成肥料区の中間ぐらいの感じです。分析すると有機物の量が本当に中間なので、見た目に違わないですね。ちなみに、白いのはハクサイの細根です。当社の処理区は実験開始して4年目ですが、割と差が出てきました。
にしても、やはり肥料は長期間連用してみないと結果が出ないですね。
収量調査の後は収穫したハクサイで鍋です。このとき、大学の先生方といろいろお話しするのが非常に勉強になります。
やっぱり、土壌肥料の世界は奥が深いですね。
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おまけ:農場の牛(黒毛和牛)です。牛の舌って伸びるんですよね~。私が学生の頃(もう15年以上前!)は乳牛を飼っていて搾乳もしていたのですが、今は肉牛だけです。
最後になりましたが、今日の作業にお付き合い頂いた三河ミクロン渡辺さん、いつもありがとうございます。多謝。