一般にはあまり話題になっていませんが、飼料価格が大変な勢いで値上がりしています。
配合飼料4700円上げ 原料高騰、円安も 全農7~9月(日本農業新聞)
JA全農は18日、7~9月期の配合飼料供給価格を前期(4~6月)に比べて全国全畜種総平均で1トン当たり4700円値上げすると発表した。値上げは4期連続。飼料原料の国際相場の高騰、海上運賃の上昇、円安が重なった。
配合飼料の主原料はトウモロコシと大豆粕です。どちらもアメリカ産が多く使われており、アメリカの穀物取引市場の相場により価格が形成されます。日本の配合飼料価格は全農が基準となっており、全農の価格を基にして他のメーカーの価格も決められます。
昨年末よりシカゴの先物市場でトウモロコシ価格が暴騰しており、また為替や船賃などの影響も有り飼料価格は半年で3割以上上がっています。
シカゴコーンチャート(豊トラスティ証券サイトより)
トウモロコシの先物価格を決める要因は様々なものがありますが、今回の価格上昇の大きな要因は中国の輸入量の増加です。トウモロコシの世界貿易量は1億5千万トン程度で、日本は1600万トンを輸入する世界最大の輸入国でした。しかし、数年前ではほとんど輸入を行っていなかった中国が今年度は2000万トン以上輸入を行って世界最大の輸入国となる見込みです。この急激な輸入増加によりトウモロコシ価格が上昇し、他の穀物にも価格上昇が波及しています。
畜産は畜種問わず生産費のうち飼料価格が占める割合が一番高く、生産費の50%~60%に達する場合もあります。飼料価格が3割上昇すると当然ながら非常に影響は大きく、経営的に厳しい事業者も増えることが予想されます。
突然の価格上昇に戸惑う声も多く聞かれますが、穀物価格の上昇は以前から予想されていました。
穀物の需給(農水省サイトより)
穀物の需要は世界人口の増加や畜産物の消費拡大に伴い増加していますが、これまでは生産量もそれに応じて増加していました。しかし、穀物の生産量増加は耕地面積の拡大ではなく主として単位あたりの収穫量増加により実現されており、その伸びしろには限界があります。トウモロコシの単収は現在180ブッシュエル/エーカー程度で有り、これは1200kg/10a程度です。米の単収が600kg程度なのでいかに単収が多いかわかります。
これまでは肥料などの投入量の増加、遺伝子組換えなども含む作物の品種改良により単位収量が増えてきていますが、これまでのようなペースで増加することは難しくなると予想されています。需要の伸びに生産が追いつかなくなってきて需給バランスが崩れ始めたのが今回の穀物価格高騰のきっかけのように思います。これから数十年のうちにさらに世界人口は現在の1.5倍の100億人になることが想定されていますが、果たして地球で100億人の食料を供給することができるのでしょうか。
アメリカのトウモロコシの単収の推移(農水省サイトより)
当社は食品リサイクルの事業を営んでおり、飼料価格の上昇は短期的なビジネスの視点では追い風になります。しかし、本当に食品の需給が逼迫したとき果たして当社の行なっている食品リサイクルシステムが継続して行えるか、リスクファクターが増えているように感じています。畜産業だけではなく、食料の輸入や流通なども含めた食に関わるあらゆる業界に大きな変革が訪れることは間違いないと思います。
しかし、大多数の人は危機感が薄いように感じます。食の安全保障という基本的な部分のみならず、事業者にとっては継続性についても大きな不確定要素であり、消費者にとっては生活の基盤に関わる問題です。簡単に答えが見つかる訳ではありませんが、方向性を模索することが必要ではないかと強く感じます。