食品リサイクルから見た科学リテラシー

相変わらずあわただしい日々を送っていますが、先日台風上陸に伴い参加予定していたセミナーが中止になったおかげで3日間ぽっかり予定が空いてしまいました。おかげでたまっていたデスクワークを若干ですがこなすことができました。
来週からはまた出張行脚の日々が続きます。最近は関東方面の案件が多く、月に1回は関東出張している状況です。

関東出張が多いのは、首都圏の人口集中や、中食、外食の比率増大に伴い食品工場の生産量が上昇し、食品残さの発生量が増えていることが背景にあります。関東でのお仕事の場合、多くは当社に食品残さを搬入するのではなく、「オンサイト処理」と呼ばれる手法を取っています。食品工場内で飼料に加工し、それを畜産農家へ直送する仕組みです。脱水や濃縮などのプロセスにより、保存性を高め品質を安定化することで飼料としての利用ができるようになります。
現在、実績があるものとしてはモヤシサイレージ、パイナップルサイレージ、ゴボウサイレージ、小豆皮サイレージなど多種多様なものを飼料化しています。最近はとくにパイナップルの皮の引き合いが多くあります。

また、現在取り組みを行っているものの一つにゆで卵のリサイクルがあります。ゆで卵の場合、食品工場で乾燥処理を行い、飼料とすることを計画しています。

この取り組みのために、現在乾燥機メーカー数社と打ち合わせを行っています。図面や仕様書を提出してもらい打ち合わせを行います。書類の一つに設計計算書がありますが、設計計算書をみると製造メーカーの技術水準がよくわかります。

乾燥機

乾燥機の場合、主に熱伝達効率と乾燥に必要なエネルギー量から必要なランニングコストが算出されます。
重油などの燃料を燃焼させることで熱が発生し、伝達効率に応じた熱量が被処理物に伝わります。水分を蒸発させるのに必要な熱量は決まっていますので、そこから必要燃料や電力量が算出できるわけです。
ところが、驚くことにメーカーによってはエネルギーの伝達効率が100%を超えるような計算書を提出してくることがあります。燃焼エネルギーは燃料種別に決まっており、また水分蒸発に必要なエネルギー量も決まっています。伝達効率が100%を超えることは理論上あり得ません。エネルギー伝達効率が120%という計算書を見ると、思わず「波動砲かよ」と突っ込みを入れたくなります。投入されたエネルギー以上の働きをすることはエネルギー保存の法則を超えた神の世界です。

乾燥飼料

自分は超理系人間ですので、理論を超越した書類を見るとムズムズしてしまいます。最近はなるべく自重しているのですが、それでも我慢できなくなり論破してしまうことがあります。

ちなみに、乾燥機の場合はボイラーの効率や乾燥機の熱伝達効率などトータルで計算するとだいたい投入されたエネルギーの50%程度が水分蒸発に使われることが多いようです。今のA重油の値段から計算すると、だいたい水分1㎏蒸発させるのに10円弱程度の燃料費がかかる計算です。熱回収(ヒートポンプ)などを使用していないケースでメーカーの計算これ以下の場合はおかしいと思ったほうが良いです。
こういったエセ科学的なものが跋扈する理由の一つが日本人の科学リテラシー不足にあるのではないかと思っています。もっと理系教育を充実させたほうがいいのではないかと痛感します。科学の基礎的知識は技術的な分野はもとより、日常生活において広く役に立つものでありますし、つきつめれば国家の発展にもつながるものだと思うのですが。

といったことを書き綴っていると、学生の頃、飲み会で女子大の子に「高橋君理屈っぽい」って言われたことを思い出しますw

豚の格付け

暑い日が続いていますが、今年は夏バテもせずなんとか乗り切れそうです。現場に出る機会が多かったのですっかりドカタ焼けしてしまいました。ただ、体重は順調に減っており晩酌のビールの量を増やしても体重は増えそうにない感じですw

暑いと人間も食欲なくなりますが、豚も一緒で顕著に飼料摂取量が低下し、その結果として増体が低下し、出荷体重が小さくなったりします。液状飼料(リキッドフィード)を使うメリットの一つとして、夏場の飼料摂取量の低下を抑えることができるといわれています。ただ、実際のところはリキッドフィードを使用していても飼料摂取量の低下が起きている場合も多くあります。
飼料原料の組み合わせなどによって嗜好性が変化しますので、いかに夏場でも飼料摂取量を低下させないかを工夫することが求められています。また、豚舎の環境を適切に維持することも非常に重要です。

 

手前味噌になりますが、自社農場は最近調子がよく、暑いさなかでもかなり飼料摂取量が高い状態を維持できています。おかげで増体もまずまず順調ですが、お盆休みでと畜場が休みのため出荷できなかったこともあり、重量が重すぎて規格を外れた豚が多くなっています。

格付け

豚の場合、格付けは上、中、並、等外という区分になります。格付けが落ちる原因として一般的に多いのは厚脂と重量オーバーです。背脂肪厚がある程度を越える、また重量も80kgを超えると格付けが落ちます。脂肪が厚いと肉の割合が減ってしまい歩留まりが悪くなるため格付けが落ちます。重量に規格があるのは、たとえばロースの大きさがまちまちとなってしまうと、トレーに収まらない、スライス品の重量がまちまちになってしまうなどの問題があるためです。
しかし、業界関係者の間では、重量がある程度大きいものの方がおいしいと言われています。今の規格では、じつはおいしさがスポイルされているということになります。柔らかさに影響を与える脂肪交雑なども格付けには考慮されません。低価格な海外産豚肉との競合を考えれば、本来は歩留まりや大きさだけではなく、味も基準となる格付けであってほしいものです。

今回の出荷が重量大きめだった理由の一つは、小さいよりは大きい方がおいしい肉を供給できるという思いがあったこともあります。個人的には最終的には自社で販売することで、規格にとらわれずおいしい肉を提供できるようになりたいと思っています。
とは言え、まだ生産には課題が多く、販売以前にやらないといけないことがたくさんある訳ですが・・。

飼料による食味の変化

世間はお盆休みですが、当社は絶賛営業中です。食品業界全般の傾向としてお盆は繁忙期で、業界の端くれの当社も当然ながら多忙のためなかなかお盆は休めません。私自身は年間通じて多忙なのでお盆がとりたてて繁忙期というわけでもないのですが:)

最近、エコフィードを使い始めたor使いたいという農家さんのお手伝いをする機会が増えてきました。使用するエコフィードの選定などのお手伝いもしています。
一口エコフィードと言っても千差万別であり、使用方法を誤ると肉質が低下したり増体が悪くなったりします。
豚の場合、特に注意するべき点の一つが脂肪酸組成です。
油脂、特にリノール酸が多い大豆油、菜種油などのいわゆるサラダ油を多く含む原料を使用すると、豚肉中の脂肪融点が下がることで商品価値の低下につながります。
たとえば、おからや揚げ物などを多く給与すると、脂肪融点が10度以上低下することも珍しくありません。

他方、動物性の脂肪も肉質に大きな影響を与えます。魚の油脂にはDHAやEPAなどが多く含まれています。DHAは健康によいと言われる脂肪酸ですが、酸化されやすいという特徴があり、酸化が進んだDHAは生臭い独特のにおいがあります。これが豚肉中の脂肪に移行しやすいため、魚(の油脂)を給与すると豚肉中にもDHAが含まれ、獣臭の原因となります。
従って、脂肪が少ない魚でしたら影響が出にくく、たとえば鰹節やはんぺんなどを給与しても問題はありません。

いろいろなデータを見ていると、(特に豚の場合は)飼料が肉質に与える影響が大きいと言うことを改めて感じます。輸入トウモロコシ主体の配合飼料ではなくエコフィードを使うというのは、特徴のある肉質を作る大きなポイントであり、使い方によっては肉質が良くも悪くもなりえます。それだけ難しくもあり、面白くもあります。また、同じ単胃動物である人間も食べるものによってお腹の脂の質が変わるわけであり、人間にとっても食べ物がいかに大事かと思い知られます。私はリノール酸多給してぶよぶよの脂となった枝肉の写真を見てから揚げ物は極力食べないようにしています(笑)

 

 

オーストラリアの今

この頃、いろいろな案件や課題が山積して大変多忙な日々を送っています。そんな状況にもかかわらず、少々お休みを頂いてオーストラリアはシドニーに行ってきました。(携帯に着信がたくさんあり、国際通話料金が結構な額に)会社のスタッフと取引先には迷惑をかけました。この場をかりてお詫びします。

 

オーストラリア(シドニー)の印象です。

・街が綺麗

統一された景観が印象的。海が綺麗でした。

・白人の比率が低い。都心の飲食店のスタッフは東洋系が多い。最近は移民に制限がかかっているとのこと

・物価が高い

最近は移民に制限がかかっているとのこと。感覚的には日本の1.5倍ぐらいの感じ。マクドナルドの朝食でもすぐ1000円ぐらい行ってしまう。動物園の入園料が4000円ぐらいして驚いた。

・車は日本車が多いが、韓国車が増えているとのことタクシーはカムリがほとんど、SUVが人気でクーペが少ない。新しい車が多い。

 

スーパーマーケットを何カ所か回りましたが、生鮮品も全体に割高感あります。

・根菜は安いが、果菜は高い・・トマトは日本と同じぐらい

・フルーツ・・日本より少し高い。イチゴの味はいまいち。メロンも糖度低い。

・乳製品・・牛乳は安いが、ヨーグルトは高いし美味しくない。チーズは安いものもあるが、高級品は日本とそんなに変わらない

・肉・・牛肉は思ったより高い。日本で売っているオージービーフとそんなに変わらない

・魚・・あんまり売ってない。サーモンとエビばかり。SUSHIもサーモン中心。

ホテルのレストランで、チーズ盛り合わせがあったので頼んだらチーズ生産国なのに「コンテ」「ブリー」(フランス産)「マンチェゴ」(スペイン産)が出てきて驚きました。ビールもイギリス産のものなどが結構ありました。EU輸入品=高品質みたいな印象があるような気がします。

アンガスビースのハンバーガーを食べましたが、牧場を見るとアンガスは少なく、どちらかというとヘレフォードが多いような印象です。

郊外に行くと放牧をやっている牧場がたくさんありましたが、冬なので草は乾草状態でした。

wagyuを出すレストランがホテルのそばにあったので行ってみました。
オーストラリアでwagyuが出回っているのは、日本から精液などの形で遺伝子資源が持ち出されたからです。
オーストラリアのwagyuはアンガスのメスに和牛を交配して生産されていると言われてますが、確認したわけではないので真偽は不明です。本当ならいわゆる日本で言うところのF1(交雑種)です。

自分が食べたのは400 days grain fed, F1, marble score 6+というスペックで、LAMPの300gで$45(4000円ぐらい)でした。日本で交雑種のランプステーキをちゃんとした店で食べると5000円以上はすると思いますので、上記のような物価高を踏まえるとまずまずリーズナブルな感じかと思います。味は値段相応といった感じですが、いわゆる和牛香とよばれる和牛特有の香りが少なく、またサシもそこまで入っていないように思います。

全体としての印象として、非常に活気があり、若い人が多く景気がいい印象を受けました。ただ、現地の人の話を聞いていると多分にバブル的な要素があるような気がします。中国資本の流入の結果、不動産価格が高騰し、それを元手にまたお金が回っていくというどこか日本の80年代を彷彿させるものがあります。世界的な金余りがこの先継続するかが分かれ道では無いかと感じました。

久々に海外に行くと、いろいろ新鮮な驚きがあります。また、グローバリゼーションの波を見るにつけて、日本の農業および当社の立ち位置、戦略をどうするかを考えなければいけないと改めて思う次第です。また、自身の英語力の乏しさにも改めて課題を感じました。

農作物の品種

年度末~年度初めで補助事業の報告書&申請書などの業務が山積して忙しい日々が続いていました。すっかりブログ更新が滞っています。

忙しい日々の合間を縫って、先日はイチゴ狩りに行ってきました。イチゴはかなりすきなので、春先は毎日イチゴを食べています。
イチゴはとちおとめ、とよのかなどが好きでよく購入していますが、愛知県の場合、あきひめが主流で、イチゴ狩りもあきひめが多いのが残念なところです。あきひめは粒が大きく酸味が少ない品種で、市場価格は良いのですが味にキレがないように感じます。

リンゴやイチゴだと、ほとんどの場合品種名が書かれて販売されています。ジャガイモもたいてい品種が表記されて販売されています。しかし、キャベツや玉ねぎで品種の名前が書かれていることはみたことがありません。
私の地元はキャベツの生産が盛んですが、秋冬キャベツは季節特性に応じ毎週のように違う品種を栽培したりします。生産農家と話をすると「キャベツは〇〇は美味しいんだよね」って教えてもらえたりするのですが、その知識が購入の際に役立たないのは残念です。家庭菜園で栽培すると品種間で相当食味の差があることを実感します。

食味による価格差がないと、生産者はどうしても生産性、見栄え品質のよい品種を選択することになります。美味しさを基準に品種を選択することが増えるような選択が行われるような仕組みがもっとあってもよいのではないかと思います。知り合いでも野菜の直売をやっている農家はたくさんいますが、残念ながら消費者への直接販売を行っている生産者でも、特に野菜に関しては品種の情報をきちんと開示伝達しているケースは少ないように思います。

話はそれますが、個人的には「在来種」をありがたがるのはおかしいと思っています。サ〇タのタネやタキ〇種苗の努力の結果、農作物の品種は日々進歩しており、美味しくて生産性の良い品種がどんどん出ており、昔ながらのモノがいいというのはノスタルジーに過ぎないと思います。もっとも、生産性や規格の問題で食味が良いにもかかわらずスポイルされている品種があるのも確かなので、一概には言えないところがありますが。愛知県の在来品種の大根に方領大根という品種があります。美味しいのですが、まっすぐでないため流通に乗りにくく市場に出回らないです。こういった品種でしたら在来種重用の意味があるのではないかと思います。

これだけ情報過多の社会になっているのにもかかわらず、トマトなど一部の作物を除き多くの農作物(特に野菜)で販売の際に品種の情報が表示されないのは残念な限りです。大手種苗メーカーのカタログを見ると、キャベツでもタマネギでもきちんと「食味良好です」と記載があるにもかかわらず、生産者も、中間流通も品種名を表示しないことが当たり前になっているように感じます。
一消費者として、美味しい食材を購入するためにもタマネギもキャベツもブドウやイチゴのように品種を表示して販売する習慣が根付いて欲しいと願っています。

 

 

飼料利用による排水処理の負荷低減方法

最近、物忘れがひどくなっているような気がする44歳です。いろいろなところで忘れ物をしてきます。そそっかしい性格なので昔から忘れ物や落とし物が多かったので、物忘れが昔よりひどくなったかどうかは確かではありませんが(笑)

かって勉強したこともいろいろと忘れていて、子供が大きくなったらなにも教えられ無さそうな気がします。そんななかでも、前職の排水処理メーカーで勉強したことはしっかりと覚えていて、今の仕事で役に立っていることもいろいろあります。統計処理や品質管理の考え方などはメーカー勤務していたおかげで身につきました。

前職での排水処理の知識は業務にも直接役立っています。今、取り扱っている飼料原料のうちいくつかは排水処理上の理由で当社に廃棄物として供給されているものです。

たとえばその中の一つにキャラメル工場の廃液があります。これは、キャラメルを製造した際に釜を洗ったときの排水です。こういった糖分が高い排水は非常に濃度が高いため、少し流しただけでも排水処理の負荷が高くなります。排水処理施設に十分なキャパシティがあれば排水処理に流すことができますが、食品工場では排水処理施設に余裕が無いケースも多く、こういった高濃度排水を放流することができない場合があります。
一般的な家庭の排水はBOD200mg/l程度ですが、食品工場では床の清掃水など濃度が薄いものでもこれより高く、糖液や製品廃棄などの高濃度排水はBODが数万にも達することがあります。ただ、高濃度のものは量が少ない場合が多いため、別途処分するケースした方が合理的なことが多いです。わずかな量の高濃度排水を流すだけで、排水負荷が数倍にもなることがあります。

逆に言うと高濃度の排水ということは、有機物が多い、すなわち栄養価が高いと言うことを意味しており、飼料とするには適しているということです。当社では高濃度糖液を主に豚のリキッドフィーディングの原料として利用しています。

他に当社で取り扱いしているものは、焼酎蒸留廃液、酒、ジュース、シロップ廃液、酵母廃液などがあります。いずれも飼料として有効なものばかりです。豚はアルコール濃度が高いと酔っ払いますが、飼料中にアルコールが1~2%程度含まれていると嗜好性が向上します。醸造関係のお取引が増え、お取引先のお酒を飲む機会も増えたのは左党の私としては嬉しい限りです(^^)

これからも幅広い業務範囲の特性を生かし、さまざまな廃棄物のリサイクルに取り組んでいきたいと思います。

浄化槽

商売をすると言うこと

当社は新卒採用を行っています。今年度も新入社員が入社しましたが、来年度もまた1名入社予定です。今は新入社員教育のカリキュラムを考える時期で、来年度の教育計画を策定しています。
思えば、自分も二十数十年前は新入社員でした。新入社員の時は3週間にわたって研修があったことを覚えています。
その中の一つに営業研修がありました。営業研修の中で、代金回収がいかに重要かという内容の講義があったことを今でも覚えています。
この前、当社の新入社員にも「お金をきちんと回収できなければ、それは売上とは言えない」という説明をしたら「お金を払わない人いるんですか?」と驚いていました。商売をやっている人はたいてい経験があると思いますが、お金を払わない「お客さま」はたくさんみえます。

お金を払わないor払えない理由は様々ですが、当社の関連する業界である農業では特に支払遅れがあるケースが多いように感じます。農業で支払が遅れる理由として、
・農家の場合農協取引が多く、支払をする行為の習慣がない
・収穫時での支払などの慣例があり、すぐに支払うという意識が乏しい
などがあるのではと思います。場合によっては、1年分以上の支払が滞っている場合もあります。畜産の場合、飼料代などの購入費が大きいこともあり、溜まった支払が数千万円以上になっているケースもあります。
しかし、支払が行われないというのは当然ながら商取引においては信用の欠如につながる行為です。次回の取引に差し障りがでる場合もありますし、価格もリスクを織り込んだ価格となってしまい、購買商品の場合値段が上がることになります。
つまり、支払をきちんとしないことは、結局は自分が損をすることになります。もし、キャッシュフローが厳しいなら金融機関から借入を行い、支払を行うべきです。(もちろん、金融機関への返済が遅れることも問題になることは言うまでもありません。)
とくに疑問に思うのは、6次産業化に取り組んで直接販売を行っている様な農家でも支払がきちんとなされないケースがあるということです。販売を行っておきながら商売の基本ができていないのには残念ですらあります。
農業であってもこれからは「経営」を考えなければ生き残りが難しい時代になって来つつあります。経営には決算書を読めることも必要ですが、商売を行うとはどういうことか理解をすることがまずは大前提だと思います。
私自身も、経営者として未熟な部分も多いので姿勢を正すことを忘れずにいきたいと日々反省をする次第です。

渡辺崋山 商売八訓

養豚に新規参入

気がつくと1月も終わってしまいました。年月の過ぎるのが非常に早く感じる44歳です。
当社は12月末決算です。昨年は新規投資をいろいろと行ったので、決算内容は不本意なものがありました。
当社は決算の結果を持って経営指針書の発表を行っています。経営指針書はいわゆる事業計画ですが、経営理念、経営方針(戦略)、経営計画(戦術)をまとめたものです。私が所属している中小企業家同友会では、この経営指針書を作ることを会の方針としています。決算の実績をふまえ、今期以降の会社経営のあり方を社員、取引先の皆様に発表致しました。

昨期の投資のうち大きいのは、新卒採用と新規事業の開始です。昨年は4月に大卒新人を初めて採用し、今年の4月にも入社予定です。採用が難しい時代において多くの応募があり、優秀な人材が入社してくれるのは本当に感謝しています。当社が存在意義ある事業を行い、また経営指針書の発表など含めた将来展望を明示していることが、採用ができている理由の一つでは無いかと思います。

新規事業の方は、1月より養豚を開始しています。非常にささやかな規模にもかかわらず、大きな投資となり畜産を始めることの大変さを感じています。
なぜ、当社が養豚を始めるのかについて、指針発表でもお話ししましたが、お取引先からもよくお問い合わせ頂くのでこちらに記します。

・リサイクル飼料で食糧生産を行うという社会的存在意義
世界人口は増大し、日本の相対的GDPは低下しています。日本人がいつまでも海外の食糧、飼料を輸入できるとも限りません。国内でリサイクル飼料を利用した養豚を行なうことは大きな意義があります。

・事業シナジー効果
飼料を作っているため、安価で良いエサを提供することができます。

・ビジネスとしての魅力
国内養豚生産が減少しており、国産豚肉価格は高止まりしています。安価な飼料を利用することができるため、収益性も期待できます。

・実験農場として
新しい飼料の給与試験や、嗜好性の試験を行います。

・マーケティングの実験
養豚業界にいると、マーケティングを的確に行うことで販売拡大できる要素がまだ大きいのでは無いかと感じます。販売の取り組みを実験的に行いたいと思っています。最終的には飲食店経営もできたらと考えています。

創造と野望と希望を実現するために、新たな分野に踏み出していきます。皆様のご支援のほどよろしくお願いします。

豊川にイオンモールができる

事業を始めて12年、豊川に住んで7年になりました。愛知県は大きく尾張、知多、西三河、東三河にわかれ、豊川市は東三河に属します。東三河は名古屋から遠いこともあり、愛知県内でも独自の文化経済圏を築いています。東三河には事業を始めるまで縁がなかったのですが、住めば都、東三河弁にもすっかり馴染んできた気がします。余談ですが、全国的には愛知県というと名古屋弁というイメージがありますが旧国が異なる三河は言葉がかなり違い、また東三河は西三河とも若干言葉が異なりどちらかと言うと浜松あたりの遠州弁に近いです。(「だがや」とか「どえりゃー」という言葉はほぼ使いません)

豊川市は人口18万人、愛知県東部に位置し、戦前の海軍工廠の流れをくんで工業生産が盛んな地域です。もともと、日本車輌、ミノルタ(現コニカミノルタ)などの工場があり、また近年は自動車関連の工場が増え、その下請けの工場も多く存在しています。これらの工場は豊川市内全域にあり、いくつかの工場団地も存在します。こういった小さな工場や貸し工場がたくさんあるのが豊川市の特徴です。
当社が東三河に居を構えることになったのも、小さな貸し工場があったからです。

しかし、近年は工業生産にも陰りが見えているように思われます。コニカミノルタでは以前はコピー機などが生産されていましたが、近年は海外への生産移管が進んでいます。日立のコンピュータ製造工場もありましたが、事業の撤退に伴い工場も閉鎖されてしまいました。スズキ自動車は豊川工場があり、二輪車の生産を行っていましたがこちらも閉鎖が決まっています。スズキの工場は当社のすぐ近傍にあるのですが、今は出入りするトラックも少なく閑散とした様子です。

そんなスズキの工場の跡地にイオンモールができるという話が持ち上がっています。新聞報道などでは、すでに既成事実として語られています。

しかし、実はイオン建設予定地は本当はショッピングモールを作ることができない場所です。用途地域が工業専用地域であるためです。

用途地域というのは、「都市計画法の地域地区のひとつで、用途の混在を防ぐことを目的としている。住居、商業、工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、第一種低層住居専用地域など12種類がある。(Wikipediaより)」というもので、不動産広告などにも記載されています。工業専用地域はその名前の通り、基本的に工場以外の建設ができないことになっています。しかし、用途地域は市町村によって変更が可能であり、今回はイオンモールができるようにするために豊川市が工業地域の指定を外す処置をすることを想定している模様です。

イオンモールができると言う話が広まっていたのは、スズキの撤退が報道されるようになった頃です。その頃からスズキ自動車は工場跡地をイオンに売却することを計画していたようです。豊川市はスズキ自動車から打診を受けていた模様ですが、どのような交渉がおこなわれいるかは開示されていません。私は今年の正月の賀詞交換会で豊川市長にどのような交渉過程状況なのか聞いてみたのですが、「守秘義務契約があるので」と説明はありませんでした。

おそらく、スズキ自動車としては工場用地として販売するより土地価格が高いショッピングモールへの売却を希望しているのではないかと推測され、それは民間企業としては当然の行為です。豊川市はスズキ自動車の意向に沿って用途地域の変更を行なう方針です。(先だっての賀詞交換会で市長は「スズキさんがイオンに売りたいと言っているから」とおっしゃってました。)
しかしながら、行政当局としては地域にとって最善の土地利用を考えることが責務です。今回の土地が、工場用地として売却される場合と、ショッピングモールに使われる場合とどちらが地域にとって良いかを考え、それに基づき対応することが必要です。

豊川市は用途地域という強力な権限があるわけですから、「ここは工業専用地域なので、ショッピングモール建設はできない」とスズキ自動車に通告することもできる訳です。

私も試算を行ったわけではありませんが、一般論としては工場は多くの付加価値をうみ、それが地域経済に環流することで地域の発展を生みます。ショッピングモールの生み出す付加価値額は低く、しかもその付加価値の多くはモール運営者に渡り地域に落ちるお金はごく一部に過ぎません。

私が今回の一連の流れで疑問に思うのは

・本来、工場である用地をショッピングモール建設ができるように用途地域変更を行う経済効果を比較検討していないこと

・スズキ自動車との交渉プロセスが開示されていないこと(市議にも不開示)。秘密保持契約の必要性、内容が開示されていないこと。(秘密保持契約は不要ではないか)

・撤退する工場に対し、配慮(いわゆる忖度)する理由が明確でないこと

といった点です。もし、第三者の検証により工場ができるよりショッピングモールができるほうが経済効果が高いなら現在の方向性には賛同しますが、そう言った検証が行われず、行政内部で秘密裏に決定がされていくことに非常に憤りを感じます。また、交渉がうまい民間企業に対し、経験がすくない行政当局が果たしてまともな交渉ができているのか、不安があります。

なお、実際、現在標高が高い地域の工場団地は人気であり、豊川市でも先だって販売した工業団地は半年で完売しました。私の知り合いの工場経営者でも工場用地を探している人が何人もいます。また、今回のスズキ豊川工場は交通の便が非常に良く、工場用地として販売してもすぐうれることは間違いありません。

我々民間事業者は、税金も補助金も常にエビデンスを求められています。行政の意思決定においても、「なぜこのような政策をおこなっているのか」を説明できることが必要であり、それができないの市民、国民に対する背任行為であることを自覚して欲しいと強く願う次第です。

生ハムとうまみ調味料

かなり前になりますが、秋田で行われた国産生ハムフェスティバルに参加してきました。

生ハムフェスティバル

実は私はの生ハム好きが高じて三河トコ豚極め隊として生ハム工房を立ち上げることを計画しており、以前より豊根村の廃校で生ハムの試作を行っています。今回、生ハムサミットでいろいろ情報交換できたのは非常に参考になりました。

豊根生ハム

私は酒好きで、生ハム、からすみ、ハードチーズ、塩辛、鮒寿司などなどを嗜好しています。共通するのは旨みを多く含まれていると言うことです。こういう、熟成して作られた食品の旨みは何にも代えがたいものがあり、最高に酒に合います(笑)

では、なぜ熟成をすると旨みが増えるのでしょうか。もともと、これらの食品にはタンパク質が多く含まれています。タンパク質はアミノ酸が多数結合されてできています。

タンパク質の構造

こちらの図にある小さな丸1つ1つがアミノ酸です。タンパク質はおよそ20種類のアミノ酸から構成されています。タンパク質そのものは分子構造が大きく、水に溶けませんので基本的に旨みがあるわけではありません。食品を熟成させる過程で、タンパク質が分解してアミノ酸が生成することで旨みがでてきます。熟成といってもその作用機構はそれぞれことなっており、例えば生ハムの場合、肉にもともと含まれているタンパク質分解酵素が働くことで、タンパク質が分解されていきます。また、麹を使った食品などでは、コウジカビが分泌するタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が作用することでタンパク質が分解されアミノ酸が生成することで、うまみが増えていきます。

なお、豚肉(生肉)のアミノ酸分析を行うと、アミノ酸含量は低い水準で、味覚閾値(感じることができる濃度)より低いことがほとんどです。基本的に、生肉はアミノ酸の味は無く、脂や香りを旨みとして感じています。

市販の「生ハム」にはラックスハムに分類されるものが多くあります。これは、長期熟成させず短い期間塩蔵したものを調味料で味付けしたものです。熟成期間が短いため、アミノ酸があまり生成されず旨みがたりないため、グルタミン酸ナトリウムなどのうまみ調味料を使用していることがほとんどです。

グルタミン酸ナトリウムなどのうまみ調味料、いわゆる化学調味料を健康に影響があるなどの理由で敬遠されることあります。しかし、グルタミン酸ナトリウムは昆布のうまみ成分であり、一般的な濃度でしたら健康に影響はありません。もし、グルタミン酸ナトリウムで健康に影響が出るなら、昆布だしたっぷりの懐石料理も食べられないことになってしまいます。

ただ、自然の熟成を行うと、単純な一種類のアミノ酸が生成するわけでは無く、タンパク質を構成するさまざまなアミノ酸が生成し、またアミノ酸がいくつか結合したペプチドも生成します。また、熟成の過程で脂肪の分解もおき、それがフレーバー生成にもつながります。多種多様なうまみ、香りがあることが味の奥深さにつながります。

つまり、うまみ調味料を使うと、危険なものが入るのでは無く、うまみを形成するものが足りないので味が単調になってしまうという点が問題であると言うことです。

残念ながら、効率を重視する現在の食品産業ではうまみ調味料を多用する傾向があります。たとえば、市販の塩辛はほとんどがアミノ酸が添加されていますし、サラミなどもうまみ調味料添加されているものが大多数です。しかし、生ハムや塩辛などはきちんと熟成を行うことで、うまみ調味料を使用するよりもうまみを引き出すことができます。
※そういった実験を行った例がデイリーポータルZに載っています。

 

個人的にはこういった知見が広まることで、もっと美味しい生ハム、塩辛が広まることを期待しています。スーパーの塩辛の原料表示に「アミノ酸」とあるのを見てそっと棚に戻すことが減り、美味しいつまみで酒が飲める機会が増えることを心より願っています。